第2話 殺戮皇龍
魔王扱いとか真っ平ごめんなので、適当に誰か一人を捕まえるよう悪魔に言う。とりあえず私を魔王呼ばわりした、あの男の人で良いかな?
「ダブちゃん、あの男の人を捕まえて。こう……ぐるぐる巻きにして」
私の指示に従い、ギシャアと鳴き声なのか歯軋りなのかよく分からない音を立ててダブちゃんが隊長っぽい人を拘束する。素早いムカデの胴体で一瞬にしてぐるぐる巻きにされた隊長さんは「うーん、潰される」とか言って気絶した。え、精神力低すぎない?
「隊長!?」
「撤退だ!逃げるぞ!」
「魔法小隊、到着しました!総員、攻撃準備!」
隊長を攫われ、さらに現場が混沌とし始めた上、なんか増援部隊とかも来たので非常に面倒な状況になった。とりあえずこの人たちは、帰しちゃおう。この世界のこととか、聞き取り調査をするなら隊長1人で良いし、攻撃が鬱陶しい。
私は髪を1本引っこ抜いて、それに魔力を込め鍵の形に変形させる。それを下級悪魔の血で描いた魔法陣に突き刺して、契約している中では最も賢いドラゴンさんを召喚する。
「静寂に潜む混沌、殺戮の黎明、旅する災禍。我が魔力によって顕現せよ。マーダーエントリー!殺戮皇、キルラルド!」
ピカーっと魔法陣が黒く光ると、中からは大きなドラゴンが現れる。よく昔話をしてくれるけど、天使を数百人殺したらしいよ。自称だし信じてはないけど、すごーいと言ってるだけでご機嫌になる500歳ぐらいのドラゴン、それがキルラルド。
『契約者よ、何用だ?』
「この人達を黙らせて。殺しは無しで」
『了解した』
キルラルドは口に光を集めたと思ったら、それを上にぶっ放す。キルラルドが放った深淵の一撃は、眩い光の奔流となり、天高く駆け上った。周囲には凄まじい振動と衝撃波が襲い、ダブちゃんに守られた私は無事だったけど、軍の人達はみんな吹っ飛んで意識を失っていた。ついでに出て来ていた数百の下級悪魔達も蹴散らされていた。
……こ、殺してないよね?そう思って一人の女の子に近づくと、呼吸をしているのか僅かに胸が上下するのを確認した。生存確認、よし。じゃあ、この子も持って帰ろう。
隊長さんと、一人の女兵士をダブちゃんの背に乗せ、一時的にこの場から離れる。これ以上人が集まったらどうしようもないし、なんかまだまだ人が集まりそうな雰囲気だったし……。
それにしても、キルラルドもダブちゃんも本来の大きさで見るということが地球では無かったから実感がなかったけど、本当に大きい。キルラルドは全長20メートルのダブちゃんと、同等ぐらいのサイズ感かな。
ムカデとドラゴンが並走して、この世界で初めにいた場所まで戻る。ここまでの道のりは、ダブちゃんが木々をひき潰して移動していたから余裕で分かった。ここで、キルラルドが私に尋ねてくる。
『契約者よ、この世界は元居た世界では無いな?』
「え、分かるのそういうの?」
『契約者が元居た世界は、空気中に魔力の欠片もない世界だろう。下級悪魔など、まともに行動すら出来ないような世界ではないか』
「……あれ?じゃあ最初、下級悪魔が私と契約した理由って」
『契約を断れば、普通は送り返される。しかし契約者の召喚陣は原始的なものであり、基本的には送還出来ない仕様だったであろう?契約しなければ、間違いなく死に絶える状況だな』
「えー、そういうことは早めに知りたかったんだけど。
あ、キルラルドは元の世界に戻る方法とか知ってる?」
『……?
魔導書で転移したのであれば、その魔導書を使えば元の世界に帰れるであろう?』
どうやら元の世界とは、空気中の魔力濃度が桁違いらしい。だから下級悪魔も生き生きとしていたんだね。好戦的になってたし、
『……魔導書が必要な魔法陣起動時に、魔導書を手放すなとあれほど言ったであろう。契約者の世界に正統な黒魔術師などいないに等しいのだから、不完全なものが多いことも言ったであろう?』
「でも異世界行ってみたかったし……力使ってみたかったし……」
キルラルドに呆れられた眼で見つめられるけど、異世界に行った最大の目的は力を使いたかったからだ。私が数多の悪魔と契約して増やした魔力で、全力の魔法なんて使ったら日本では大事件になる。全長20メートルのムカデなんて、自衛隊が動く騒動になるだろう。
中学生になって、自身が選ばれた人間だと思って訓練すること早5年。面白そうな事件や騒動なんて何一つ起きなかったし、起こしてこなかった。でも異世界にちょっと出張すれば、監視の目なんてないし好き放題出来ると思った。
「うう……ここはどこだ」
「あ、起きた」
いじけていると、先に隊長の方が起きたので声をかけるとビクゥと身体を跳ねさせてこちらを見る、そしておそらくキルラルドとダブちゃんの方を見て、固まった。……外見が完全に巨悪だから仕方ないけど、一々気絶するのも面倒だね。こういうのに耐性がありそうだから隊長を攫ったのに、想定外だよ。