第19話 邪神
私と、世界を巻き戻す術をワタル君に仕掛けた存在との戦争が始まってから1時間ほどの時間が経過した。その間、私と周囲にいる魑魅魍魎を、呆然とした表情で眺めるリアマリアちゃんとワタル君。
上級悪魔達が出動したから、途端に暇になった。私は門を開けるだけで良いから楽だね。何か向こうから雑な念が飛んでくるけど無視だ無視。私の命を奪ったことは許さないよ。
”ちょ、痛いからマジで止めて。お願いします”
とうとう止めてという直接的な表現になったけど、何度も念を送ってくれたお蔭でここからでも正確な位置が割れたね。じゃあ、リアマリアちゃんとワタル君に私の魔法でもお披露目でもしようかな。
「ちょっと今から向こう目掛けて魔法を使うから、リアマリアちゃんとワタル君は後ろに下がっててね」
「えっと、俺にももう止めてって聞こえるんだけど」
「下がってて」
「あ、はい」
左手には漆黒の炎(着色済)、右手には紅い炎(未着色)を灯し、その二つに炎を混ぜて螺旋状に撃ち出す。黒い炎と、紅い炎が良い感じに混ざり合っていてめっちゃ強そう。なお威力は普通の魔法と大して変わらない。着色に苦労はしたけど、消費魔力量が若干上がった割には威力が落ちているから純粋に紅い炎を二つ撃ち出した方がコスパは良い。
『……契約者よ。何故そこまで色に拘る』
(カッコいいから)
でもめちゃくちゃ格好良く見えるから私は満足です。そして撃ち出されたダークフレイムキャノンは、何か声のする方を撃ち抜いた手応えを感じた。ついでに射線上に入っていた数匹の悪魔が逝った。いや、射線上にいる悪魔には避けろって言ったじゃん。何で射線上に入るの。
「もう!痛いから止めてって言ってるじゃん!」
私の攻撃の直後、背後から声が聞こえたので振り返るといけ好かない少年がいた。見るからに邪神系だけど、何でショタなの。チェンジだチェンジ。
「はあ、僕を邪神系だと察せるのにその胆力は凄いね」
「早く名前を名乗ったら?」
「うーん、君たちの世界で言うと、ニャルラトホテプが近いかな。こっちの神話形態、どうせ知らないでしょ?」
「ニャル子さんか。じゃあ銀髪巨乳美少女になって。それならギリ許す」
「……女神様より横暴だなあ。そりゃあ姫なんて呼ばれるわけだよ」
ニャルラトホテプのような邪神を名乗るわりには怖くない。ショタだからかな?ロリなら怖かった。ねえロリなら怖かったと言ってるでしょ。心読んでるんだからロリになってよ。ニャルラトホテプ名乗ったでしょ。姿形ぐらい変えてよ。
「……どんな姿形が好み?」
「金髪ロリっ子ツインテール。胸はちょい盛りで八重歯があるとなおよし。あ、ケモミミは付けてね」
「…………分かった」
しばらく心の中で訴えていたら邪神様が折れてくれたので、ショタから金髪ロリっ子ツインテールの胸はそこそこな八重歯っ子になってくれた。しかも犬耳付き。これは良い。まさかここまで完璧に理想の女の子になってくれるとは思わなかった。流石はAPP18の存在を名乗るだけはある。
「で、時間の逆行は止めてくれるんだよね?」
「はあ。何でそこまで人間の言うことを聞かないといけないのよ。あなた自分の立場分かってる?心の中も読まれてるのよ?」
「表層しか読めてないでしょ。あなたは私を殺せるかもしれないけど、私を殺している一瞬の間にあなたの1億9842万6791体のストックは塵になるわよ?」
「……神でも把握出来ていない僕のストックを、何で正確に知ったのかなあ?」
私が時間の逆行を止めてと言うと、ため息を吐いてやれやれとする邪神さん。なんか見下された気がしたので、邪神のストックをサーチして照準を合わせる。私、魔力容量は今や天井知らずだし、その全てを一気に使うことも出来る器用な存在なんだよね。全魔力使えばニャルさんぐらいは怖くない。そもそもニャルさん、邪神形態でも装甲はないし、STRは80しかないし、ぶっちゃけ弱い。
「天界の糞ババア達を敵に回すのと、私と戦うの、どっちが好み?」
「ちょ、こっちの心を読まないでよ。あーもう、分かったよ。時間逆行はもうしないし、夏川渡に試練は与えない。これで良い?」
「OKだよ。あ、出来れば分身体を置いてって。その姿は愛でたい」
「それは却下するね。こちらもプライドがあるし、犯すのは好きだけど犯されるのは好きじゃないよ」
邪神さんは、結局本名を名乗らなかったし読み取れなかったな。まあニャルさん(仮)で良いや。せっかく外見を私好みに変えてくれたのに、分身体は置いて行かないケチっぷり。というか消えるの早い。こりゃ、次に会った時は嫌でも契約してもらおう。
……にしても、天界に女神が複数人いるのは収穫と言えるかな。あの邪神が糞ババア呼ばわりしていたのは気になるけど、今は考えなくて良いや。とりあえずループは解決したっぽいし、これでワタル君の異世界生活は強制ハードモードだ。良かったね。




