第16話 弱点
リアマリアちゃんと王都から南に離れた街で、観光をする。異世界村の近くにある街ということで、わりと珍しい日本食があるようだ。焼きそばパンもどきもここが発祥の地だったけど、確かに焼きそばパンは小麦粉on小麦粉だし、野菜をいっぱい使えるから異世界村が生産しやすかったのかも。
そして露店巡りをしている最中、リアマリアちゃんがキノコ類を食べられないことが判明する。蟲が嫌い、キノコが嫌い、悪魔が嫌いって我儘な子だね。試しにシイタケを香ばしく醤油で焼いただけの食べ物を口に含ませると、プルプル震えながら飲み干した。おお、偉い。流石に嫌いな食べ物ぐらいは主人の命令があれば食べるのかな。
「うーん、この子なら触れる?」
「っひぃ!?」
次に大きな緑色の芋虫を召喚して手のひらの上に乗せ、触るよう指示すると恐る恐るといった感じでふにっとした芋虫に触れ、変な悲鳴を上げる。うん、可哀想だからこの辺にしておこうか。
涙目のリアマリアちゃんの頭をナデナデしていると、時間が止まる。その後すぐに時間が巻き戻り、リアマリアちゃんがシイタケを食べるシーンに戻った。は?
(え、待って。【毎日がeveryday】の封印は解いてないよね?)
『契約者よ、落ち着け。時間がループするなど珍しいことではないだろう』
(まだ私、ループをそんなに経験したことないんだけど。それもほとんどが自作自演の奴だし)
この後で、芋虫を触らせたから時間が巻き戻った?いや違う。これ私関係ないやつだ。巻き込んだ奴が誰だか知らないけど、絶対に許さないよ。
……私は記憶を消されないよう、幾つかの予防線を張っている、今回はそのせいで、ループ時に記憶を消されなかったと考えて良いかな。とりあえずこの時間逆行による記憶削除を受けないよう、リアマリアちゃんに黒魔術を行使する。これでリアマリアちゃんも、ループをする羽目になるね。
そうこうしているうちに、2回目のループが始まる。再度時間が巻き戻り、リアマリアちゃんの口の中にはシイタケが含まれている。もうペッとしなさいそんなもの。
「えっと、今のは……?」
「時間が巻き戻ってる。リアマリアちゃんは記憶がないだろうけど、この時間軸は3回目だよ」
「……???」
時間が巻き戻ること自体は、珍しいことじゃないんだと思う。でも私はほとんど行使したことがないし、とあるループは抜け出すのは大変だった。何年日曜日だったんだろ。
(……あとで【毎日がeveryday】の封印を解いて、『毎日が日曜日』の魔法陣を解析するよ)
『あれはあれで固定化されておるから無理に解析できんだろう。それよりも、このループを抜け出すには術者の発見が急務だぞ』
(分かってる。でもあの時みたいに、一定時間が経過したら再度同じ時間軸に行くというわけじゃないみたいだね)
『となると、何らかの条件があるはずだ。一番わかりやすいのは死に戻り。または神が与えた恩恵にセーブ&ロードのような能力があるかだな』
(セーブ&ロード……前に見た勇者の能力?それにしては、ループまでの期間がみじ)
キルラルドと会話をしていると、またループをしてリアマリアちゃんはシイタケを口に含む。ループの起点がここだから、毎回のようにリアマリアちゃんはシイタケを口に含むことになるね。何か可哀想になってきた。
……ループするまでの時間は、だんだんと伸びてきている。これは、何度も死に戻っているパターンかな。はた迷惑な奴だし、見つけ次第保護して大元を断つ。もしも死に戻りだとすると、大元は神か女神か邪神か、悪魔か魔王か未来人か。何が出て来てもおかしくない以上、何が出て来ても良いように準備しておかないと。
5度目の時間軸で、一段落したのかループが来なくなった。周囲の人間たちを見るに、この異常事態には気づいていない模様。後で異世界村も確認してみるけど、恐らくあの村の人達も記憶の保持とかはされていないはず。異世界人のスタート地点はあそこが多いというなら、行ってみる価値はあるけど……。
異世界に来て、初めてのトラブルらしいトラブルだ。しかも今の私でも即座に解決は難しい類の、超難題。ループする時の気持ち悪い感覚は慣れないけど、なんかワクワクしてきたよ。何ならこのループを利用して、また数年の間は黒魔術の研究をするのも悪くはないんじゃないかな。
夜になって、6度目のループが起きて昼に戻る。いやこれ、間違いなく死に戻りの類なんじゃない?セーブ&ロードならもう少し先でセーブするだろうし、リアマリアちゃんがまたシイタケを口に含んでいる以上、全く同じ時点に戻っていることは明らかだ。
……あ、シイタケに慣れて来た?それはよかった。期せずして、苦手克服が出来たね。これならループの時間を利用して、蟲や悪魔への苦手克服も出来るかな?とりあえず半日でどれだけ広い範囲を探知できるか分からないけど、死に戻りしてそうな奴やセーブ&ロードをしてそうな奴を見つけないと。




