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幸せ

作者: 瑠音

夜中の散歩ってシーンとした街に自分しかいないみたいでとっても楽しいのです。

"少し前の私と話が出来るなら


こんな事想像していたかと


口を滑らせてしまうと思う"



 深夜1時半。耳に繋いでいたiPhoneから聴こえてきた言葉に私は思わず笑みを零した。右手に握ったコンビニのレジ袋が、がさりと大きな音を立てて、夜道でひとりびくついてしまう。中にはずっしりとしたシュークリームがふたつ。

「本当に、予想外だったなぁ。」

私は白い息を吐き出しながら独りごちた。


 空がよく似合う彼に別れを告げたのは真夏の蒸し暑い夜だった。距離が離れ会わなくなっていくうちに、彼を恋人として見れなくなっていたのだ。大切な人であることに変わりはなかったから、余計にそれが苦しかった。意を決して掛けた電話の向こうで、彼は恐らく泣いていた。覚悟はしていたけれど、もう決して楽しかったあの日々には戻れない。そう感じた瞬間だった。悪いのは制服を脱ぎ捨て遠くへ赴いた私だったのか、会っても愛の言葉ひとつも囁けなかった不器用な彼だったのか…未だにその答えは出ないままだ。


 それから数週間後のこと。澄ました文学少年とよく連絡を取るようになった。彼が話しかけてくれたのがきっかけで、いつからか彼からの通知を心待ちにしている自分がいた。それまでなんの意識もしていなかったのに!それにこの前まであの夏の夜にさよならを告げたことを後悔し続けていたのに…現金な自分に呆れる。単純な私は、とっくのとうに彼に好意を抱いてしまっていた。そして夏も終わり秋に差し掛かった頃、ふたりの日々が始まった。一緒に暮らしていく中で気づいたことがある。彼は済ました外面には似合わず意外とわがままで、でも私の前では甘えん坊だ。それこそ猫みたいに気まぐれではあるけれど。でもそこもまた愛しかった。


 そんなことを考えながら歩いていると、そろそろ彼の家が見えてきた。

ああ、彼はどうやらまだ起きていて私の帰りを待っているらしい。キッチン横の小窓から漏れる光に照らされた鍵穴を見つめる。そのあと、思わず微笑みながら鍵を差し込みドアノブを捻った。扉の向こう側で子供みたいに目を輝かせながら彼の好物を買って帰った私を待ち構えているその姿を想像して。

ありがとうございました。

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