ゴミ屋敷
母親は元々ものを捨てられない性格だった。
結婚前から使っているという歯ブラシを、30年以上使い続けている女だ。
2年前に親父が亡くなり、それ以降俺は仕事で忙しくって、実家に寄り付かなくなっていた。
そんな折、役所から電話がきた。
電話越しの職員は、上機嫌だ。
「あなたの実家、いわゆる”ゴミ屋敷”になってますよ。ぜひ一度見にいらしてください」
俺は、電話の繋がらない母親を心配して、会社終わり急いで実家へと向かった。
実家の近くまで来ると、何やら人だかりが出来ている。
「なんだ、これは」
俺の実家はそこには無かった。
屋敷になっていた。
日本古風の300年前に建てられたんじゃないかと思う立派な木造建築。
ただ、よく目を凝らすとその屋敷を構築しているのは木目彫にペイントされた家電や、家財だった。
「あら、たかし。おかえり」
正面の分厚い玄関戸が仰々しく開いて、母親が豪勢な着物を着て出てきた。
観衆は頭を垂れて、母親に敬意を表しているかのようだ。
なんの茶番だ?
「その着物は?ゴミ?」
俺が呆れて尋ねると、
「そうよ。拾ったの」
母親は楽しそうに笑った。
終わり