序章 世界創生の一週間
序章
~世界創造 第1日目~
さて、今から世界を創造するので、やはり最初の一歩からは記録を取っておくべきだと思うので、この記録を記することにする。まあ日記のような備忘録なようなものではあるが、記録することは大事だと自分は思う。どうせそのうちに書いている暇などなくなるのだから、最初くらいは書いておくのが後々いいだろう。
しかし、世界に自分だけしかいないと言うのに、なぜ自分は他人に話しかけているのだろうか。自己の認識は他者の認識によって成り立つので、そのせいかもしれないが、この白とも黒とも言えない広がりの中に存在するのは私だけであり、他者の介在する余地はないのだから、他者の存在を認識することはあり得ないのだがおかしなことである。
いや確かに、この世界には私だけであるが、私は私以外の存在がこの世界以外にいることを知っているから、そうなのであろうか。恐らくそれが私の存在の生成とともに自己の確立に繋がっているのであろう。
余計なことに思考がそれてしまったが、そろそろやるべきことをやり始めないことにいけないだろう。この世界そのものである私は全て理解しているのであるが、確認はしておいた方がいいであろう。知っていると言えども、行うのはこれが初めてなのであり、これだけは2度目がないことなので慎重にしておくべきだろう。
まず、私は誰か。私は世界そのものあり、この世界を司る存在である。今の今生じた存在であり、時間の流れと言うものもないので、いつと言うのも変な話であるが、今さっき生まれた存在である。この世界を生み出すために生じ、これからこの世界を創って行かなければならない。なぜかと問われようとも、そういった存在であるからそうであるとしか言えない。知識にある表現を借りれば「カミ」と言うのだろうが、この世界に私をそう呼ぶ存在はいないので何とも言えないが、自称「カミ」と自認しておこう。
今自分がいるのは何もないところである、何もないと言うか「無」があるというのが正しいのであろう。私が「有」るので、全て「無」は矛盾に聞こえるが、私は世界と同一であるの、今の私は「有」るが「無」い存在である。まずは「無」に「有」を加えることが世界創造の第一歩である。
仰々しいことはせず、私がそうあれと自覚するだけでそうなるのだが。やはり最初のこと。しっかりやりたいと思うのが普通であろう。確か『カミサママガジンvol887863288721873238号』の「特集、いまだに後悔している世界創造の瞬間」によると、無言でただただ世界に「有」を生むのは簡単だが張り合いがなく、後々後悔して、あの時に戻れたらと懊悩するようなので、ここはやはり「声」を出してやるのが、無難であろう。その際の、例も同じ特集に書いてあったが、やはりこれくらいは自分で考えオリジナリティを出すのが一番であると思う。他人のをマネて後悔するくらいなら、自分で決めたもので後悔したいと言うものである。
しばらく熟考し、過去の例を参考に重ねた結果ようやくしっくりと来る言葉が決まったので、早速実行することにする。さてここからがいよいよ私の始まりである、良い世界が作れればいいが、それはまさに「カミ」のみぞ知ると言ったところか。さて創めるとしよう。
「始まりと、終わりよ、ともにあれ。世界は流転し、すべては胎動す」
私が言葉を発した瞬間に、今まで何も「無」った空間に揺らぎが生まれ、振動し次第に一点に終息していく。色の定まらなかった世界から、黒色だけが集まり、それ以外を白に染め上げていく。全ての黒が世界から抜け、一点となった瞬間、世界がはじけた。集まった黒が、広大に広がりそれまで世界を埋めていた白を侵食し、黒一色に塗り代えていく。知ってはいたが、やはり見るのは違うものだと、実感した。わかっていても興奮を覚える。確かにこれを失敗したら「カミ」とはいえ、後悔の一つもしたくなるのもうなづける。
~世界創造 2日目~
どれだけの時間がたったのだろうか。次第に黒の侵食も終わり、周囲は黒一色の世界となった。これでどうやら世界は「有」るようになったようである。それに伴い、私にも変化が生まれていた。私も「有」なければならなくなったために、存在としての形が必要となり、うすぼんやりとした光の球体と変じていた。この姿は私の意志で色々と変えられるのだが、まあ当面はこの形で十分であろうと思うので特に変えずにおこう。
さて、次は世界に色々と創っていかなければならないのだが、どこから創っていったものか。なかなか悩ましいものである。こういったときは先例に倣うのが最善と思い、『カミサママガジン3629121927号』の「初心者でも安心、失敗しない世界創造の手順」を確認する。それによると、まず太陽を作りましょうとある。要は世界に光を生み出すのである。光が出来ると、世界が熱を持ち、それは揺らぎを生み出すようである。この揺らぎが、世界を活性化するのに重要であるようであり、光があればその後大地や生き物を作った時にも役立つとのことである。どうせなら普通に創るだけでなく、それを司る存在も創ることとしよう。世界の管理は私一人ではできないのだし、延々とこの独白の思考が続けばいつか飽きが来るので、話し相手の一人くらい創っておくのも今後の為だろう。
まずは太陽を創ることから始めよう。欲張って多く作ってもいいのだが、何事も慎重に一つ創るだけにしておこう。前に広がる無限の虚空に意識を集中させ、「光」と「熱」を思い、その存在を有れと確定させると、何もないところに巨大な火球が、太陽が生まれる。一つの太陽だが、それまで何もなかった空間に熱が生まれ、熱量の差が生まれ、空間に流れが発生している。さて次は司る存在の創造だ、だいたい初めに創った存在の姿が今後の世界に広がる存在の原型になりやすいとのことなので、あまり考えのない姿にしてはいけないだろう。さてどんな姿にしたものか。
ありがたいことに、このことは誰もが悩んだことらしく、『カミサママガジン』では定期的の特集が組まれ、最新の流行の特集もあるのでそれを参考にする。ちょうど最新号の特集では、「天使型」と言うのが流行っているらしい。世界に作られる存在の中でも汎用型と呼ばれる「人間型」をベースにしており、会話もしやすく使い勝手がいいのが人気の理由らしい。他にも「ドラゴン型」、「獣型」、「不定形型」、「名状しがたきもの」とあるが一長一短があり、汎用性は「天使型」が一番のようだ。最初の存在なので、あまり特化しすぎるのもよくないので、今回は「天使型」でいくことにしよう。
基本は「人間型」なので簡単だが、付属物の羽とかのディティールがなかなかに難しい。枚数が多い方が格調高くていいと言うコメントもあったが、私は何事もシンプルイズベストだと思うので、普通に二対四枚の羽根にしておく。性格と容姿は基準がよくわからないので、ランダム設定にしておこう。「カミ」の自分の適当なので、そうおかしなものはできないであろうが。太陽のときと同じく、有らせたい存在を意識し、その存在と太陽を根源で繋げ、有れと確定させる。
すると、太陽の横に小さな光点が出来たかと思うと、徐々に広がり形を成し、一体の天使の姿へと変じていく。少々小柄で、子供とも大人とも見分けのつかない顔だち、体は精悍で引き締まり、二対四枚の羽根が衣服のように体を覆っている。胸のふくらみがあるところを見るに女性型になったようだ。天使型は「男性型」・「女性型」・「無性型」と小分類があるようで、最後に見た記事の影響か「女性型」になったようだ。生まれたばかりの天使はその存在が出来上がると、しばらく意識なきようであったが、次第にはっきりして来たのか、私に気がつき、私のもとへと向かってきた。私としても初めての私以外の存在との出会いである、何か感慨深いものを感じる。
天使は私の前、光球体なので前も後もあったものではないが、前に臨すると、私を抱きしめた。
「はっ・・・・・!!!!????」
存在して二回目の声だが、いきなり抱きしめられると思っていなかった私は、柄にもなく驚いてしまった。
「ああっ!!。至高なる御方、私の始まりであり、全てである御方。この世界にあらしめさせられたこの無上の喜びと歓喜を言祝ぐすべなきことをお許しください。今ここから、私はこの全存在をもってあなた様にお仕えし、侍り、無窮の時の果てまで御傍におりますことお誓い申し上げます。ああっ!!。なんてすばらしいことでしょう、本当になんてすばらしいことでしょう・・・・・・・」
私を抱きしめた天使はそのまま、私への賛美をはじめるのだが、嬉しいのだがどうも止まりそうにないので、可愛そうだが、名を呼び賛美を止める。あとかなり目が怖い。
「我が愛しの天使よ、言を止め、我が声を聞け」
「・・・・・・・・・はっ!!。申し訳ございません、我が主よ。」
かなり、陶酔しきった目をしていたが、さすがに私の声に反応し、正気に戻り。抱きしめていた私をはなすと、片膝をつき首を垂れる。しかし、ランダムに設定したためか、かなり忠誠心の高い性格になったようだ。言うことを聞かないのもあれだが、聞きすぎるのも困ったものだ。
「天使よ、我が愛しの天使よ。汝にこの世界の「光」を司ることを命じ、我が世界の柱となることをもって、いまここよりアルファニアの名を授ける。」
力を込めて、宣言したことにより。天使のこの世界での存在が確定し、太陽と根源で同一の存在になる。
「このアルファニア、主命に違わず、世界の柱としての任を謹んでお受けいたします。」
天使、アルファニアは厳かに答えると、すっくと立ちあがり、やおらに私をまた抱きしめた。
「はっ・・・・・!!!!????」
先ほどの威厳ある語りもどこやら、私はまたしても間抜けな声を発していた。
「先ほどは、御身の命で止めておりましたが、名を頂きましたことで、さらに高まるこの歓喜。是非とも主上に贈りたくございます。この世界に存在し、意識が出来上がった瞬間、そして使える主のおられるこの無上の悦び、何ものにも代えられないこの気持ちこそ、私の主上への全存在をかけた愛であり・・・・・・・・・・・・」
そして、先ほどにもまして陶酔とも狂気ともいえる目をして私への賛美を述べ続けるのだった。気になったので、ランダム設定にした性格パラメーターを確認したのだが、忠誠心100なのはいいが、なんだろう狂信と偏愛の数値も100なのは・・・・・、不味ったか?
~世界創造 3日目~
どれくらい経っただろうか、さすがにもう言葉が尽きたのか、アルファニアは私を賛美するのと抱きしめるのを止め、横に控えている。
「さて、アルファニアよ。落ち着いたところで、次は何をはじめようか。」
私の問いかけに対し、アルファニアは首を傾げ、理解できないと言った表情をする。
「失礼ながら、我が主上よ。全知全能であられます御身であれば、私ごときものに聞かずとも、何をすべきか自明のこととしてお知りなのではないでしょうか。」
返答に一瞬何をおかしなことと思うが、私と彼女では知っていることが違うことに気づく。
「アルファニアよ、全知全能と言うものをお前は正しく理解していない。全知全能であれ、悩むことはあるのだ。」
「恐れ多くも主上、それはどういったことでしょうか。」
「この世界は我であり、この世界で起きることは全て我が事として認識し得る。しかし、あらゆる事象を知ることと、どの事象が最善であるかを知ることは全く別のことなのだ。例えば、今我は太陽を創り、汝を創ったが、その順序は別のことの後でも事象としては同じことであるが、今創ったのはよいと我が判断したからに他ならない。もし、我が全ての最善も知り得るのであれば、そもそも我の存在自体が不要であり、自動的に最善の手順を行うだけの存在で十分となる。」
簡単に説明したつもりだが、分かったような、分からないような顔をされる。
「では、全知全能たる主上でも誤りうると言うことでしょうか。」
「極論するとそうなる。事象の帰結は知りうるが、その帰結が最終的によきことかそうでないかは、その帰結に至って初めて我も知りうるのだ。その意味においては、我も誤りうる。例えば汝の創るとき、その性格・容姿・能力の可能性全てを、我は把握し得るが、それらの中からただ一つ選び出し決めたことが最善であるかは我にはまだ未知である。なればこそ、我が汝に問うことにも意味があるのだ。理解したか、アルファニアよ。」
「全ては理解しかねますが、主上がそうおっしゃられるのであれば、不詳このアルファニア、主上に急ぎなしていただきたいことがございます。」
意外とすんなりと受け入れたものだ。世界の根幹のことなのだが、この世界における権能を高く設定した甲斐もあり、理解は早いようだ。
「なんだ、アルファニアよ、何なりと述べてみよ。」
「はい、実は主上に、お姿を定めていただきたく存じ上げます。」
「姿か。後には定めるつもりでいたが、世界にはまだお主と我のみ、急ぎ定める必要はないと思うが。」
「今のお姿でありましても、御身の尊さは何に一つ欠けることはございませんが、身勝手なことを願えますれば、私もこの世界でまだただ一つの身、似姿の存在が欲しく感じます。」
なるほど、「天使型」にしたことによる、感情の発露と言うものか。孤独を寂しいと感じるのは、このタイプならではである。まあ、姿などあってなきが如し、変えたければいつでも変えられる。我が初のいとし子の願いである。聞き入れるのもやぶさかではない。
「わかったアルファニアよ、汝の願い聞き入れ、わが身、汝に似た姿と変じよう。」
そう述べると、自身に意識を向け姿のありようを定めていく。同じ似姿が良いのであるから、「天使型」の「男性型」を基礎とするのがいいだろう。ちょうど男女となりアルファニアと対と言うところも、趣がある。「男性型」は多種多様であったが、我はまだ生じて間がないので、幼き姿と言うのが道理に合うであろう。確か、特集の中に幼き姿のもので「ショタタイプ」なる分類があったのを思い出す。「ショタ」の語だけは、意味を介さないが、今の我が望む姿の参考となる。幾つかの範例を思い浮かべながら、自身の姿を変じていく。羽はあえてなしにし、頭に光輪だけとした。そうして出来上がった姿は、愛くるしい感じの童となり、我ながら威厳に欠けるかとも思ったが、肉を得たことで感じる感覚情報が面白く、まあ些細なこととしておいて置くことにした。
「さて、アルファニアよ、このような姿でどうであろうか。」
「jふぃjfjうぇjぎえろhげjごいじぇいおいjg!!!!!!!!!!!!!!!」
姿を得て、アルファニアの方を振り向いたと同時に、「カミ」の我をしても認知を越える、声なき声が虚空に響きあたる。肉の体を得たせいか、肌寒さと言うものを感じるが、気のせいと言うやつだろう。感覚情報にまだ慣れていないからだと思うが、できた眼に映る、アルファニアの理解に苦しむ表情の変化もそのせいなのだろうか。先ほどから、同じ似姿をとったので喜ぶのはわかるが、頭を抱え体を捻ったり、何かに耐えるような苦悶の表情となったり、我を見て爛爛とした目で見たりするのはなぜだろうか。何か創造するときに不具合があったのかもしれない。改めて、アルファニアのパラメーターをチェックする。
【名前】:アルファニア
【種族】:至高の光天使
【性別】:女性
【レベル】:未設定
【HP】:未設定 【MP】:未設定
【スキル】:「光」の権能、凖世界創造、事象改変、次元連絡 etc.
【称号】:至高者の従僕、万天に輝く者、ショタスキー
【性格】:忠誠心100 慈愛80 清廉さ50 正義心75 狂信100 偏愛100 ショタ999 etc.
基本パラメーターを確認するが、特におかしなところは見受けられない。未設定のところはまだ世界の法則として定めていないので、そうなっているだけだが。唯一不明なのは「ショタ」という謎の語だけであろう。『カミサママガジン』全バックナンバーを検索したが、その語はあるものの、意味の説明が存在しないため、この謎のパラメーターが原因なのかもしれない。数値は100が限界のはずだが、なぜこれだけ999を示しているのだろうか。
全知全能たる我のもう一つの限界がこういったことなのである。確かに我はこの世界のことに関しては全知全能であるが、この世界までの話である。そう、世界はひとつではないのである。我の世界も含めて、101の世界があり、一つの世界を除いてそれぞれに「カミ」が存在し、それぞれが世界を創造しているのである。しかし、最善を知り得ないために、ときとして世界は崩壊し、「カミ」が消滅することが多々ある。そのとき、我のように新しい世界と「カミ」が生じ、常に101の世界の数が保たれるようになっているのである。こればかりは、我もなぜと問うても、そうあるとしか答えられないことである。
101の世界は、基本相互不干渉であるが、交流がないわけではなく、交流しなくても影響はしあっている。この影響だけが「カミ」の認知の外にあるのである。影響の仕方は様々であるが、その最たるものがパラメーターである。ある世界で生まれた概念がパラメーターに組み込まれ、なぜか他の世界のパラメーターに反映されるのである。反映され方は全てではないが、何かしら反映され予想外の存在を生み出すきっかけになるのである。知りうる中であれば、悠久のはての原初の世界のころでは、パラメーターそのものがなく、パラメーターを生み出した「カミ」によって広がったようではある。
私がよく参照している『カミサママガジン』はそういった他の世界に影響がでそうなことや、新しい試みなどを「カミ」間で共有する回覧版のようなものである。生じた段階で、それまでに発行されたものはすべて知っているのだが、なぜか「ショタ」だけ説明がない、意図的に隠されているのか、説明の必要がないレベルの情報なのか。
「ショタ」の意が分からない原因はここにある。恐らくどこかの世界で生まれ概念となり、パラメーターに反映されたのであろう。類推するに、「ショタタイプ」を基にした我の姿が、影響を与えていることは想像に難くない。
「アルファニアよ、何がそなたを苦しめているのかわからぬが、我が姿が原因であるならば、姿を別なものに変えることもやぶさかではないがどうであろうか。」
先ほどから千変万化の動きを止めない我が従僕に声をかけたとたん、ピタッと動きを止め、ギギッと音が聞こえてくるがごとく、我の方へと向き直る。この世の終わりを告げられたかのような絶望的な顔をして。
「しゅ、主上。恐れ多くも、主上の尊顔が私を苦しめることなどありませぬ。あまりにも素晴らしきご尊顔を拝したために、一瞬歓喜に打ちひしがれていただけでございます。気に病まれることなく、是非ともそのお姿でお心安くおられて頂ければこのアルファニア無上の喜びでございます。ええ永久に変わらずそのお姿でいてくださいませ。」
やたらと、強い語気で迫ってくる。目が本当に怖い。
「そ、そうか。汝がよいのであればそれでよいのだが。ところでアルファニアよ、汝のパラメータに「ショタ」という項目があるのだが、意味はどういったものか説明できぬか。われの知の外のことゆえ、持っている汝にしかわからぬものゆえ。」
「えっ!。主上は「ショタ」の意味をご存じでないのですか。」
「ああ、その概念はわが世界の外からもたらされたものゆえ、我の知にないものである。」
「・・・・・・・知ったうえであのようなお姿になっていただけたのかと思ったら、お知りにならずこうとは。・・・となると知られてしまうとお姿を変えられてしまうかも。・・・・・いやいやそれだけは回避しないと・・・・」
なにか小声でひとりをぶつぶつ言っている。
「アルファニアよ、で「ショタ」の意味とは何であるのか、答えよ」
「ぶつぶつぶつ・・・・・・・・。あっ、はい。主上、恐れ多くもこのアルファニアめが「ショタ」をご説明申し上げます。「ショタ」とは美しきものに対する無限の愛情を抱く性質のことでございます。そう、先ほど主上が変じられましたお姿、まさに至高の芸術品のようなお姿でございましたので、「ショタ」の性質を強く持つ私は、我を忘れるほどの衝撃を受けた次第でございます。」
「なるほどそうであったか。しかしそれでは審美眼や美的感覚、美的偏愛狂といった性質が出てきてもいいものだが、違うのか。」
「それの上位概念とご理解いただければ。美しいものへのあらゆる一切の情動がこの性質の本質でございます。」
「なんじを創る際、我の補助となれるよう高い美的感覚があるようには方向づけておったから、それがこのような形で現れたわけなのだな。」
「そうです、そうなんです。ですので主上はなんの心労なくそのお姿でい続けておられればよいのです。」
何かやり遂げた感で、胸をフンといわせて力強く言い切る。このときの我はこれを信じてしまったが。後に「ショタ」の本当の意味を知り、ひと悶着が起こるのはまた先の話。
「姿も得たことで、本格的に世界を創っていくこととするか。我は生命が生まれる最初の大地を創っていく。アルファニアは、自身の補助となる眷属を5体と宙を駆けるものを5種ほどまずは創れ。一時汝の権能を上げておくゆえに、好きに創るがよい。」
「神命受け賜りました、わが主よ。必ずやご期待にお答えするものを創り上げて見せます。」
「さて、いつまでもこの虚空に浮かぶのも飽きてきたな。まずは仮住まいでも用意しておくか。」
太陽の熱を適度に受けれる距離に、半球状の大地とそれを覆う天空を創り出す。生物はまだだが一応基本的な植物を生やしておく。ついでに住まいも必要であろうと思い、こちらも一般的な神殿タイプにしてみる。特にカスタマイズはしないが、当面の利用なのでそこまでこる必要もあるまい。
「アルファニアよ、あちらに社を設けた、そこで創造を行うぞ。」
「はい、主上。私たちの愛の巣ですね。」
「・・・・・・・・」
何かおかしな単語が聞こえたが、あえて無視をする。
~世界創造 4日目~
社の奥に神座があり、そこを我の定位置として腰を下ろす。石造りなので素肌に冷たさが伝わるが、それも面白い。アルファニアは別の個室で眷属の創造に取り掛かっている。我ほどではないが、かなり自由に創れるよう権能を高めたので、設定項目が多くて悩んでいることであろう。どのような眷属を生み出すか楽しみである。
それはそれとして、私の仕事に入るとしよう。まず生きとし生けるものが住まう場所を作り、そこで生きる生命を作り、安定的にその地が循環するように管理をする。「カミ」の仕事というのは大雑把に言えばこんなもんである。まずは場所を作るのだが、この形態がまた悩ましい。最近の流行は「惑星型」で、球状の大地の上に海や空を配置するというものである。一時流行った、我がいるこの仮住まいのような「平面型」の大地は、広げやすいのだが、自然循環の管理が手間らしく、「惑星型」に負けたそうだ。前衛的なのになると、巨木の枝葉の上に大地を創るとか、「平面型」の大地の周りを巨大な蛇で取り囲み閉鎖的な大地を作るとかいうのもあるそうだが、そういったものを創るのはもっと慣れてからでもいいだろう。まずは、この世界の根幹たるものたちが住むところだ。質実剛健・実用性重視なものがいいに違いない。しばしイメージを固め、いい案が浮かんだところで社の外にでる。社の中でもできないこともないが、気分というものである。
先ほど作った太陽から少し離れた空間に向かい、手を掲げ創る惑星のイメージをする。力の凝集に伴い、何もなかった空間が揺らぎ、振動を始める。大地があれば割れるのではないかという揺れが続き、バンッという轟音と共に、惑星が生まれていた。
衛星を2つともなった、大陸と海洋がほぼ半々となる惑星である。太陽の周りを一定周期で回り、熱のあたりで季節を生むようにしている。大陸は4つの大きな大陸があり、それらを繋ぐように大小さまざまな島が点在する。酷暑・極寒の地は特に作らず、全体的には温暖な気候の惑星とした。青々と輝くその星は、いまだ生命をその身に宿していないとはいえ、まだ何もないこの世界の中で燦然と輝いていた。惑星づくりに凝り始める「カミ」がいるらしいが、何となくその気持ちが理解できないわけでもない。『カミサママガジン』では、定期的に惑星コンテストなるものが開催されており、うまく作れた惑星の良さを投票にて決めていたりする。そのうち出品できるような凝った惑星づくりにも手をかけてみたい。時間は悠久にあるとはいえ、やりたいことがあるというのはいいものだ。
それからしばらく時間をかけ、惑星の大気循環を整え、大気の構成、重力といったパラメータを整えていく。それに合わせ、循環を担うものとして、植物や魚、動物を創り惑星に放っていく。生命あるものではないので、進化が望めるものではないが、その営みが惑星の環境を整え、循環を安定的にしていく。ここでいう生命とは、生物体としての寿命とかそういったものことではない。この世界の存在の一片こそが根源たる生命であり、我の一片を持つもののことを生命あるものと呼ぶことができる。幾星霜のときの流れの中には、今生み出した生命なきものの子が生命を得ることもあろうが、それは可能性の果てのことにすぎず、そうなったときはそうなったときである。いまアルファニアに作らせているのは、生命あるものになる。世界の一片を持つことで、自己の存在の階梯を上ることができ、生命をより強く純粋なものにできれば、世界の因果にも介入できるほどの存在になることができるのである。
惑星に手を入れながら、少し惑星コンテストのことが気になったので、ちょっと凝ってみることにする。4つの大陸に大樹を一本づつ生やし、それらに生命を与える。弱弱しい生命ではあるが、時が過ぎれば知能を持つようになってくるだろう。ついでに、それぞれの花の色を、赤・青・黄・緑とし、四季に応じて咲くように調整しておく。どう育つのか楽しみだ。
一通り惑星の調整が終わったので、社に戻ってみると、アルファニアの方も創造が終わったようで、11体の生命が我を迎えるように並んでいた。
「アルファニアよ、無事に創造を終えたようであるな、大儀であった。さてどのようなものを創ったか我に語ってくれぬか。」
「愛しの主上、あなた様に使える5の僕とそれに対なす5の獣を創りました。まず第一の僕、「陽光」を司りしもの、名をアズナール、対となる獣は金色の鬣を持つ羽のある3面獅子になります。」
獅子とあどけない顔立ちのたれ目の天使が前に進み、首を垂れる。
「至高の御方にまみえますこと、このアズナール無上の喜びをささげ、アルファニア様の第一の眷属として、この身この命、すべてを持ってお仕えいたしますことお誓い申し上げます。」
「次に控えますは、「月光」を司りしもの、名をミューチャ、対となる獣は銀糸の鬣を持つ翼のある3面獅子になります。」
アルファニアの呼び出しにこたえて、先ほどとは違い精悍な顔で釣り目の天使が前に出てくる。
「至高の御方にまみえますこと、このアズナール無上の喜びをささげ、アルファニア様の第二の眷属として、この身この命、すべてを持ってお仕えいたしますことお誓い申し上げます。」
先ほどの天使が子供っぽい声なのに対して、こちらはしっかりした感じである。
「続きますは、「稲光」を司りしもの、名をクーエラ、対となる獣は大翼の金鵄になります。」
司るもののわりには、なにかホンワカした感じの天使が前に出てくる。胸の大きさのバランスが悪いのか、歩くだけで前につんのめりそうになっている。
「至高の御方にまみえますこと、このクーエラ無上の喜びをささげ、アルファニア様の第三の眷属として、この身この命、すべてを持ってお仕えいたしますことお誓い申し上げます。」
言葉は前の二人と一緒なのだが、どうも舌足らずに聞こえてしまうのはなぜだろう。
「次に控えますは、「剣光」を司りしもの、名をリーベレア、対となる獣は九尾の狐になります。」
これまでの天使と違い、筋肉で引き締まった体を持った天使が前に出てくる。唯一剣を佩いているのもこのものだけである。
「至高の御方にまみえますこと、このリベーレア無上の喜びをささげ、アルファニア様の第四の眷属として、この身この命、すべてを持ってお仕えいたしますことお誓い申し上げます。」
見かけによったしっかりとした声色で、武人の感を漂わしてる。
「最後は、「双光」を司りもの、名をタールニアとナールファ、対となる獣は金色の羊になります。」
そう呼びかけられて現れたのは、同じ顔をした二人の天使である。金色の羊の左右につかまり、おっかなびっくり前に出てくる。
「至高の御方にまみえますこと、このタルーニア無上の喜びをささげ、アルファニア様の第五の眷属として、この身この命、すべてを持ってお仕えいたしますことお誓い申し上げます。」
「至高の御方にまみえますこと、このナルーファ無上の喜びをささげ、アルファニア様の第五の眷属として、この身この命、すべてを持ってお仕えいたしますことお誓い申し上げます。」
同じタイミングで寸分たがわない挨拶。声を聞いて気がついたが、タルーニアが男性体で、ナルーファは女性体のようだ。
「アルファニアよ、最後のもの、一つの生命で二つの存在としたようだが。また変わった創りをしたものだな。」
「はい、主上よ。一つの存在としてもよかったのですが、対の存在は世界の可能性を広げ、これから主上が創られる世界をより彩ると思いまして。ちょっとした遊び心でございます。」
「そうか、良い仕事をしてくれた。では、汝らにもアルファニア同様司る場を与えることとしよう。」
そういうと、虚空に6つの星を創り、そこに存在を繋げていく。この司る場と言うのは重要で、場が壊されてしまうと生命が激減してしまうリスクもあるが、そうでない限りは自身の権能を与えられた以上に振るうことが出来る。自身の場と繋がるのが初めてであるのか、皆くすぐったい様な表情をするも、誰一人声を出さず耐えている。
「さて、場を与えた汝らには、司る場の周辺において自身の領域を作ることを許すので、好きに創るがよい。そしてこのまだ虚空の世界に星を満ち溢れさせ、始原の星の万天を照らすことを命じる。」
「「「「「「主命、拝命いたしました。」」」」」」
6人が同時に返事をし、その場から飛び立ち、自身の星へと向かっていく。
「やれやれ、これで世界の星の創造は、あやつらに任せておけばいいであろう。アルファニアよ、せっかく僕を創っておいてもらって申し訳ないが、しばらくはわしとお主の二人での創造になるが、頼むぞ。」
がらんとした社に、一人残ったアルファニアに微笑む。
「jふぃjfjうぇjぎえろhげjごいじぇいおいjg!!!!!!!!!!!!!!!」
再びあの奇怪な声を発し、音もなく倒れる。やはり「ショタ」がいけないのであろうか。早急に解明する必要がある。
~世界創造 5日目~
あれからどれだけの時間が経過したであろうか。惑星が太陽の周りを5万回転したところまでは覚えているのだが、それからは数えていない。アルファニアの配下たちが頑張ってくれたおかけで、この殺風景な世界にも星々がふえ、次第に輝きを持つようになってきた。隅々までとはいかないが、いまある惑星を中心とした銀河系程度はできているので、早い仕事であろう。アルファニアはというと、私のそばで変わらず惑星の育成に手伝ってくれている。なかなか、気候の兼ね合いで生き物の数が一定せず、極端に猛暑の土地ができたかとおもえば、極寒の地ができたりして、その拡大を防ぐなど微調整に忙しい。
大体惑星が10万回転したあたりで、加減がわかってきて大気の循環や生き物のサイクルが落ち着いてきた。慣れもあるのだが、最初に植えた生命もつ大樹がいい仕事をしてくれた。我々がそばで活動していたために、生命をいくばくか浴び、知性が生まれたかと思うと、惑星の細かい調整をしてくれるようになっていたのである。これ幸いと、存在階梯を少し上げ、権能をいくつか与えると、嘘のように惑星が安定をし始めたのであった。一体に話を聞くことには、惑星の奥底まで根をはっているので、私が手を加え直すと、気持ちいときと不快なときがあり、不快なこととにならないように頑張ったらうまくいったとのこと。
これらを創り出したのは気まぐれではあったが、良い結果につながったのであったから、間違った判断ではなかったのだろう。おかげで惑星は安定したので、次の段階に移ることができる。
「さて、アルファニアよ、惑星は無事に安定に乗ったようなので、次の段階に移ることとしよう」
社の神座に腰掛けながら、横に侍るアルファニアに声をかける。
「主上、次とは何をなさるのでしょうか。」
「生命が住む大地ができたのだ、そこに住む生命を生み出していくのだ。それにあわせて、世界の理もそろそろ定めていかなければならないな。我に合わせているために、理非が理、無法が法の状態であるのでは、生命たちも生きにくいであろう。」
「それは素晴らしいことです、主上の御身を讃えるものを創られるのですね。」
「讃ええるかどうかはわからぬが、生命は可能性、可能性が収斂し特異点となれば、世界に新たな可能性が生まれるからな。多様な生命は必要である。ではまずはそのためにも移動するとするか」
言い終わると同時に、社を転移させる。転移した先は白一色の空間であり、大きな黒球が浮かんでいる。
「主上ここは、どこなのでしょうか。」
「我も来るのは初めてだが、汝は存在を知らない場所であったな。こここそが世界のすべてであり、根本たる次元の世界だ。」
「どういうことでしょうか。我々がいた世界が世界すべてではなかったのでしょうか。」
「あの世界は、無を有にする際に生まれ、本来の世界の部分としてできた世界にすぎない。その際に同時にこの空間も生まれてはいたのだが、創造には直接手を加えるのがよいと思ってな、あの世界に留まっておったに過ぎない。世界の法理を定め、生命の基礎を作るのにはここの空間でのほうが、手間がかからないのだ。おぬしの権能にも次元連絡とあるであろう、それはこの部分の世界と世界を繋ぐための権能である。まだ部分は一つであるから、意味を持たぬゆえに、理解できぬのだろう。」
「ではあの無辺の世界には実は限りがあり、壁があるということでしょうか」
「いや、あの世界の果ては無限で間違いない。広がり膨張は続け、薄まっては行くが基本果てはない。違うとすれば、それは3次元的な無限であり、高次元でのものではないというだけだ。どこまで広がろうとも、この世界には影響しない。次元的な限界があるという意味では壁があるともいえるが。」
「では、そのうちにはこのような世界が増えていくのでしょか。」
「そうだな、今の世界の運営が落ち着いたら、次の世界を構築してもいいと思う。まあまだ先の話ではあるな。アルファニアにも世界を一つ作らせてみるのも面白いかもしれんな。さて、世界の法理を作るとしようか。」
そういうと手を虚空につきだすと、半透明の板が現れる。思念で法理を決定づけてもいいのだが、創るのならこうした手順を踏んでいる感じの方が、やっている感が出るものである。思念をもって板を叩くと、その際に決定した法理がまとまって表示されていく。共にいるアルファニアにも見ることができるので、こちらの方がいいだろう。さてどういった法理の世界にしたものか、これも一度定めたら後で変更できなくなるので、慎重に行わなければ。『カミサママガジン』にも、トレンドやら雛形というものが多く掲載されているのだが、これはどうやっても一長一短のようだ。とある「カミ」へのインタビューで次のようなものがあった。「いいかい。法理なんてものは、枠なんだよ枠。わかるかな~?同じ世界構成で、同じ法理の世界を二つ作って、住まわせる生命のタイプを変るってことをしたことあんだけどよ。どちらもそれなりに上手くいったんだよ。だからよ、法理を凝っても、それだけじゃだめだってことだね。(第15番世界 カミ)」
とあるので、あまり凝っても仕方がないようだが。凝らないのもつまらない。最初であるし、オーソドックスな「レベル-スキル制魔法世界」としてみるか。「レベル-スキル制」とは、生命の強さや格といったものをレベルで、その技能をスキルとして表し管理する法理である。あらゆるものが数値化情報化されるので、管理しやすいと人気に法理である。また技術のベースを魔法においてみる。自分の生命力を使って世界の事象に干渉し、過程を飛ばして結果のみを得る技術の総称である。干渉手段はその世界のものが独自にいろいろ発展させていくみたいであるが。この設定をしておかないと、どれだけ技術を開発したとしても、魔法の効果は表れない。慣れてくると「熟練度制無魔法世界」といったものの運用もできるようになるようだ。こちらは一切の生命力などが数値化されず、熟練度という形で蓄積されていくだけの世界となる。魔法もないので、過程を経なければ望んだ結果も生まれず。発展は遅いらしいのだが、発展するとなまじっかなことでは壊れない世界となるようだ。
そんなことを考えながら、世界の法理の設定を完了する。レベルの上限などの設定もあったが、5桁でカンストするように設定をしておいた。生命が強くなるのはいいことだ。
「さて世界の法理の設定も終わった、次に主軸となる生命をきめるとするか。アルファニアよ、どんな生命を主軸としたら、面白いとおまえは思うか?」
「そうですねぇ、やはり主上のお姿に似せて作られるのがよろしいのではないでしょうか。そちらの方が主上の尊さをより深く理解できるというものではないでしょうか。」
「ふむ、しかしだ我に似せたら、すべからく童の姿になってしまうがそれもどうかと思うが。」
「dじゃskdsふぃへfhふぇjふぇおjふぇ!!!!!!!!」
久しぶりに聞くアルファニアの声にならない声。おそらく、我の姿をした生命のだらけの光景を想像したのであろうが、どこをどうしたらあそこまで体をびくびくさせられるものなのだろうか。顔を真っ赤にして、ああもう恍惚としてるな。
「主上、是非ともそうしましょう、ええもうそれがいいです、完璧です、それ以外ありません」
「落ち着けアルファニアよ、全ての生命が童では、世界が立ち行かぬではないか。生命は成長してこそ世界に意味を成す。我の姿に似せるという点だけ採用することとしよう。」
再び、入力を始め世界の設定を決めていく。主要生命として「人間」タイプ、雄雌つがいで繁殖するようにする。力の引継ぎ設定をし、生まれた子にはいくらか親の能力がランダムで引き継がれるようにする。星には4つ大陸があったはずなので、4タイプの人間を作ってみる。平均的な能力を持ち特化した能力はない代わりに順応性の高い人間、身体能力は高くないが知的能力に長ける人間、身体能力に特化したタイプの人間、特定のことに特化しやすい性質の人間。それぞれに外見的な特徴を分けて、それぞれの大陸に、均等に配分していく。まるっきり文明もないところから始めるのもあれなので、最低限の言語、技術、村社会を与えた状態で各大陸の大樹に最初の集落ができるよう設定する。
生命にとっては、過去をもって生まれた認識であろうが、それも含めて我が意識を作って創造していく。彼らが進歩し、過去を調べられるようになると、存在の断絶に気づくかもしれないので、その辺もつじつまが合うよう偽装しておく。これで彼らは、どこからともなく生まれた存在とは自身を認識することはないであろう。あとは育つに任せるまでだ。
~世界創造 6日目~
人間タイプの生命を惑星に配置してから、しばらくたったが、なかなか成長する気配がない。狩猟から農耕を行い、村の数も増えていっているのだが、そこまでである。せっかく魔法世界とし、技術的な発展がしやすい世界としたのだが、魔法自体が発展していっていない。最低限の基本技術は刷り込んでおいたが、火を起こす、水を湧かす、穴を掘るなどまでにとどまっており。世界の法理の深奥に触れるところまで行こうという動きが見られない。生命たちの時間としては10世代くらい交代したのだが、このままでは高度な文明ができるまでいつまでかかることやら。
世界のままならなさを見て私が嘆息をつくと、アルファニアが心配そうに声をかけてくる。
「主上よ、何か御悩み事でもあるのでしょうか。私めでよろしければ、お話しいただき少しでもお心安らかになればと思うのですが。」
「ああ、アルファニアよ。いや生命の発展が遅い気がしてな、何か彼らの条件付けに失敗したのではないかと思っておってな。」
「なるほど、確かに最初のころと比べますと発展はしておりますが、大きな変化ではございませんね。」
「そうなのだ、このままでは特異点を生み出すほどの可能性の収斂が起きない。生命としては平穏無事でいいのだが世界としては、魅力に欠けての。」
「主上、特異点というのは何なのでしょうか。」
「特異点の創出は、カミの仕事の大きな一つでな。一言でいえば、カミの現存在を越える可能性の創出である。」
「主上を越える可能性?よく意味が分かりませぬが。この世界そのものである主上を越えるものがこの世界にありうるのでしょうか。」
眉間にしわを寄せて少し困り顔をする。こういったときのしぐさはなかなかの愛らしさがある。
「矛盾に聞こえるが、その矛盾を乗り越えるものの創出が特異点なのじゃ。生命は可能性である。その生命がその力を磨き、成長させ、より世界の本質に触れるところまで至れるようになったとき、世界の可能性の収斂が起こり、この世界にあるすべての可能性に加えられる新たな可能性となるのだ。本来であれば果てがないはずの無限に次が追加される。それは別の言い方をすれば、我自身の成長であり、この世界存在自体の進化となる。」
「よく意を解しきれませぬが、その特異点というものが発現すれば、主上はさらなる高みに上られる。そう理解すればよろしいのでしょうか」
「おおむね、間違いではない。そういえば、我のステータスをアルファニアには見せておらなんだな」
この世界として生じた際から自身でも確認したことのないステータスを、アルファニアにも見れるよう、表示して見せる。
【名前】:自称【カミ】
【形態】:天使型・男性・ショタ
【性別】:ショタ
【レベル】:1
【HP】― 【MP】―
【カミサマポイント】:100
【スキル】:世界創造
シンプルだがこれが自分のステータスとなる。しかし、ショタとは性別なのか、形態の特徴だと思っていたのだが、どうも違うようである。ステータスを見たアルファニアは、余計に混乱を期したようだ。
「主上、恐れ多くながら、レベルが1とはいかなることなのでしょうか。」
「ああ、それこそが特異点をつくる理由なのだ。カミは特異点を生み出すことでレベルが上がるのだ。レベルが上がらなくても特に大したことはないのだが、レベルが上がった方が色々といいことがあるそうなのでな。ならそっちの方が面白いというものであろう。」
「なるほど。このカミサマポイントなるものはなんでしょう」
「レベルが上がるごとに増えるようで、それを消費して、スキルやらと交換できるようだ」
世界そのものであり、全知全能の我に、出来ぬことがあるというのも奇妙な話であるが、事実そうなのである。交換のリストの内容は把握しているのだが、その内容を再現しようとしてもできないのである。こればかりは私をしても不可解としか言いようがないのである。
「では、生命が発展することが、主上のためになるのですね。それであれば、このアルファニア全力で策を練らせていて抱きます。」
胸をそらして、ドンっとたたく。創ったときからそうだが、献身で前向きなのは助かる。
「では、どうすれば生命の発展を促すことができるだろうか?」
「危機が足りないのだと思います。生命は危機的状況にこそ、その力を最も発揮するはずです。主上の創られた世界では、生きていく上での些細な危機はございますが。望まれている特異点を発揮するほどの危機には追い込まれることはないかと思います。」
なるほど、確かにそういわれればそうだ。危機が生命を強くすることは知っていたが、食料や住環境、医療技術に起因する生命的な危機では、爆発的な生命の進歩を促すには足りなかったということか。最初の世界だから、安定性を意識しすぎたミスか。たまに、狩りの最中に獲物に反撃にあう、村から村への旅の途中に野獣に襲われるなどのことはあるが、それ以上がない。また、皆善良に作ったせいか、生命同士での争いにもなかなか発展しない。これでは、技術や文明を発展させていこうという必要性に駆られないのだろう。そうであればやることは単純である。脅威を彼らに与えればいいのだ。
「なるほど、アルファニアよ、基本だが大事なことであるな。生命は危機の中でこそ輝くというものだ。では彼らには脅威を与えることとしよう。アルファニアよ、タルーニアとナルーファの二人をここに。」
命じると、アルファニアを通じて、二名に伝わり、ほどなくしてくわが前にはせ参じる。
「双光が一人タルーニア、命により、いと高き御身の前に」
「同じく双光が一人ナルーファ、命により、いと高き御身の前に」
双子のためか、性が違えども見た目がほぼ変わらない。声を聞きでもしないと、どっちがどっちだったか残念ながらわからなくなる。
「よく参った。星々の創造を命じてから、久方となるが、汝らの働きの甲斐あり、世界は満天の輝きを持つに至った、大儀であった。」
「「もったいなきお言葉、恐悦至極でございます。」」
さすが双子、声の抑揚まで全く同じとは。しかし、反応は少し違うようであるが。男性体のタルーニアだけ、なぜあんなに感涙しているのだろうか。ナルーファも感極まってはいるが、泣くほどではない。気になったのでタルーニアのステータスを見てみる。
【名前】:タルーニア
【種族】:双光の天使
【性別】:男性
【レベル】:68796
【HP】:900,000,000,000 【MP】:∞
【スキル】:「双光」の権能、認識共有、思考並列化、双光合一、次元移動、etc.
【称号】:至高者の従僕、双光の一光、ショタスキー
【性格】:忠誠心100 勇敢さ90 理知90 優しさ80 実直さ96 ショタ120 etc.
うん。見間違いだろうか。なぜ彼にもショタのステータスがあるのだろうか。それも限界値であるはずの100越えで。これは創った本人に問うか。
「ところで、アルファニアよ。尋ねるのだが、なぜにタルーニアにショタの要素を与えたのだ?」
「・・・・・・・・それわ~。実はですね~・・・・。なんと言いますか~」
普段であれば、即答してくるのだが、珍しく歯切れが悪い。というか明らかに怪しい。
「どうした、何か意図があってのことなのであろう。汝が僕を創るとき、細部を聞き及んでおらなんだったが。その辺、どうなのだ?」
「・・・・・・・・・・ああっ、もうこうなっては主上にお伝えしないわけにはいかないでしょう。実は、間違っちゃいました(・ω<) テヘペロ」
何か語尾に変なものが見えたが・・・。
「間違えたとはどういうことなのだ?我に次ぐ権能を与えた汝が何を誤ったというのだ」
「実はですね、最後にこの者たちを創っていた折、本当であればナルーファにその属性をつけるつもりだったのですが、あまりにも顔を似せて創りすぎたせいか、タルーニアをナルーファと間違えてしまったのでございます。気が付いたときには、創造が終わってしまっておりまして、変えるには一度存在を消さなければならず。それも偲びないと思い、今に至ります」
「それでか、先ほどからタルーニアが我を見て、感涙しているというか、何か熱っぽい視線で、息も少々荒げているのは」
「そうでございます。主上のお姿は、ショタを持つものにとってはまさに、至高、絶対的な理想の現存在でございます。どれだけ、理性があろうとも、突き上げてくる情動にあらがうことはできず、自然とタルーニアのようになるのでございます」
「一つ聞くが、ショタの属性はタルーニアだけにつけたのであるか?」
「最初は、全眷属につけようとも悩みましたが。そこは自制し、一人のみにつけ、私めが日々感じるこの歓喜を共有する栄誉を与えようと考えた次第でございます」
「その結果、間違って、この状態か」
「はい。最初は男性体につけたことを悔やみました。しかし、あえてショタの要素を持つことで生まれるメリット・デメリットをできうる限り試行いたしまして、これはこれであり、というか、おいしいのではないかという結論にいたりました。今では過ちなどではなく、最高の出来であると、自負するまでになっております」
目をらんらんと輝かせ、グッとこぶしを握る。
「アルファニアが満足なのはよくわかったが、タルーニアよ、そういった事情であるのだが、それを知ったうえで、汝はそのショタの属性を持ち続けたいか?」
さすがに間違いで、つけられた属性とあれば本人も嫌というであろう。
「恐れながら主上、もしショタを失うことで、いま私が感じておりますこの歓喜を失うことになるのであれば、たとえ主上の命であったとしても、この全存在をかけまして反させていただきとうございます」
「おお、さすがわが僕、唯一我とショタの歓喜を分かつものだけはあります。よくぞ言いました」
100%言うことを聞くだけの存在は面白みに欠けるので、自由意思を許しているがそこまでなのかショタというものは。
「では、聞き方を変えよう、ナルーファよ、本来であれば汝が得るはずであったこのショタという属性、今得られるとすれば汝は欲するか?」
「恐れながら主上、たとえ主上の命であり、我らを創られたアルファニア様の一端を共有する栄誉を得られることであったといたしましても、この全存在をかけまして、い・り・ま・せん!!!」
先ほどまでは静げに話を聞いていた顔が、これ以上ないくらいの嫌悪感を示しながら、語気強く答える。
「それは、なぜだ」
「確かに、主上を敬愛しており、その御前に見えれますことはこれ以上他にない喜びではございます。しかしながら、主命を果たしている最中も、常に絶え間なく主上のお姿の素晴らしさを聞かされ続ければ、いくら我でも辟易してまいりますし、そういったものと同じになるのも嫌でございます」
アルファニアもときたま、神殿の隅で何かをブツブツつぶやいていることがあるが、あれを延々と聞かされるのであれば、たまったものではないであろう。そもそも終わりというものがない我々にとって、精神的な苦痛というものは何よりも耐え難く、それが続くとあればなおさらである。
「ナルーファよ、汝の思いはわかった、いらぬというものを与えるほど、我も意地は悪くない。むしろ、タルーニアよ、汝が片割れをもっと労わってやれ。せめて、思いは汝が胸の内に秘めるか、同じ属性をもつアルファニアと共有するまでにするがよい」
「かしこまりました。本来であれば語れえぬ主上の尊さを語ろうとする、わが未熟さが招いたことです。今後は、思うに留めたく存じ上げます」
「ふむ、そうしてくれ。さて、話が脱線してしまったが、本題に入るとしよう。二人を呼んだのは他でもない、今生命を育てている星の、脅威を演じてほしいのだ」
「主上、脅威というのは具体的にどのようなことを成せばよろしいのでしょうか」
「ナルーファには、生命の守護者の役割を担い、脅威に立ち向かう生命を助け、導く役目を担ってもらいたい。そしてタルーニアには、生命の共通の敵となるものを創造し、危機を生み出してほしい。間違えても生命を絶やさぬようにな」
「なるほど、言うなれば私が女神で、タルーニアは邪神といった立ち居でしょうか?」
「そうなるな。二人で一つの汝らであるから、相対する役割を演じたとして、意思疎通をしながらできるであろう。それに伴い、汝らに創造の権限を一部譲渡する。ナルーファには、生命を助く眷属と道具を創る権限を、タルーニアには脅威たる敵を創る権限をあたえる。それをもって双方励んでくれ。」
「「はっ、主命承りました。見事生命の発展を果たしてみせます」」
そう返答すると、役目につくために、二人は早速世界に戻っていった。
「これで、あの星の生命も少しは、成長していくというものであろう。あの二人の働きもどうなるか見ものである。何か楽しいな、アルファニアよ」
「あの二人でありましたら、主上の御心に必ずやお答えすることでしょう」
お互いに笑いあいながら、変化していく世界を眺めていく。
~世界創造 7日目~
ナルーファ・タルーニアに世界への干渉を命じて、5世代ほどの時間が経過した。まずタルーニアが先に星に降り立ち、いくらか生命たちを襲い、じり貧となったところでナルーファが降臨し、生命を助け均衡状態に持って行ったようだ。思考の共有ができるためか、タイミングの測り方が絶妙である。
おかげで、生命、いや人間たちは、反抗時の主体となったものが王となり、各大陸に小さいながらも国家を打ち立て、軍隊を組織し、脅威に対して技術を磨くようになっていた。脅威の方は彼らの言葉で、「蝕むもの」と呼ばれるようになっていた。4つある大陸の各所に拠点を置き、そこから人間の国に対して散発的に襲うようにしているようである。また「蝕むもの」も、知能のないただの動物に近いものから、人間並みの知能を持つものまで作り、日常的な脅威と、大きな脅威を演出しているようである。
ナルーファは「救世の女神」と呼ばれるようになり、人間たちの中心的信仰対象となったようだ。特化した能力を持つ者たちの中に、ナルーファと波長の合うものがおり、それが巫女として彼女の力を人間たちに分け与える仲介役になっているようである。ちなみにタルーニアには「万色を蝕む猛き邪神」という名がつけられているようだ。本人が前線に出ていたようで、そのとき格好もそれらしくしたのがより恐怖を煽ったようだ。そしてその女神と邪神は我の前で仲良くいがみ合っていた。
「タルーニア、なんであなたは計画通りに動かないんですか!!あの襲撃は、1000の軍勢で来る予定でしたのに、どこをどうしたら10000の軍勢で攻め込むことになってるんですが。おかげで、育てていた勇者が半数死んでしまったではないですか。」
「いいじゃないか、お互いに手の内はわかってるんだし、今回も問題なく目的は達成できたじゃないか。なんだっけ?紅蓮の勇者?それの潜在能力を開放するのはできたんだろ。こっちも10000の配下が全滅してるし、しばらくは手を出せないから。ゆっくり人間たちも発展ができるだろ」
「結果論で物事を言わないでください、死んだ勇者の中には今後の計画のためにも生きておいてもらわないと困るものもいたんですから。特に疾風の勇者は生きてくれないと、2世代先にその後継が風魔法に関して一つの極致に到達できたんですのよ。おかげで、その発展が少なくとも3世代は遅れることになりましたの。それまでには、あなたの配下は同じぐらい回復してるでしょうに。意味ないじゃないですか。」
「そんなん知るか。5世代後になるならそんなの誤差の範疇だろ。」
「私たちにとっては、大した時でなくても、人間にとっては長い時間ですのよ。一から作れるあなたと違って、こっちは素質のある人間を探して、育てて、限界を超えさせないと発展しないんですから、無茶しないでくださいまし。疾風の勇者はせっかく幼馴染のメアリーちゃんに告白して、今回の攻勢を乗り越えたら結婚する約束をしてたんですのよ。15年越しに実った恋もじゃまにして、まったくデリカシーがないとはこのことです。」
「ちょ、ちょっとまて、ナルーファ。お前、もしかしてその疾風の勇者が殺されたことよりも、人間の恋愛話が成就しなかったことの方で怒ってないか?」
「そんなことありませんわ。主命に従って、役目を果たしております。ただ、そのちょっとした息抜きに人間の生活模様は楽しんではおりますが。疾風の勇者のゲイル君は、生まれたときからお隣のメアリーちゃんと、幼馴染として育ち、最初は気心の知れた仲だったのが、次第に男女の仲になっていき、それに気が付いたとたん、顔を赤らめながら告白したことを楽しみにしてたりなんて、してませんとも。」
楽しみにしてたんだな。そのやり取りを聞いていた全員が同時にそう思った。初めての世界の創造が落ち着いて、今日はすべての眷属が集まっているのだが、双光のやり取りを楽しく見ているのだった。人間の星の文化が発展し、嗜好品も生まれてきたので、ナルーファが持ち込んだ、タルパと呼ばれる植物の葉を乾燥させて煮出した飲み物と、乾燥した果物を練りこんだダーシュという焼き菓子を味わいながらやり取りを楽しく見守るのであった。なかなかに美味しい。ちなみに勇者というのは、能力特化の人間の中でもさらに特化した人間たちのことで。一芸しかないがそれに限っては他の追随を許さないものたちのことである。争いにおいては、決定的な突破力を果たすために、常に先陣をきって戦うことからそう呼ばれるようになったらしい。
「お二人とも、楽しそうでうらやましい限りですねぇ~。私たちは星作りも終わってしまいましたし、暇で暇で仕方がないです。」
言い合う二人を、うらやましそうに眺めるクーエラ。
「そうだぞ、お前たちだけ主上から別命を受けてるのだから、そのような下らぬ諍いなどせず、しっかりと役目を果たさないか。」
ぴしゃっと窘めるのはリベーレア。
「でもぉ、よくありません。15年越しの恋心って。私もぉ、できたらその恋の行方見たかったですわぁ。」
見当違いの意見を言うのはアズナール。
「しかしだ、戦の前に告白するのは、確か死亡フラグとか言うやつで、死んだのはそのフラグを立てた勇者の責任ではないのだろうか。」
見当違いの意見にさらに真面目に乗っかるのがミューチャ。
「タルーニアにナルーファよ、言い争いはそこまでにせんか。儂になにか言いたいことがあって、来たのではなかったかの?」
「ああ。主上、申し訳ございません。実はですね、タルーニアと相談したところ、今のままでは人間の発展に早いうちに頭打ちになりそうなのです。具体的には15世代後には。」
「それは、なぜなのだ?」
「タルーニアが創造できる脅威の強さにはあの星の生命を根絶やしにできるところまでありますが、生み出す数に限界があります。そのため人間の成長速度と繁殖スピードを考えると、15世代後に勢力に均衡が訪れてしまいます。そのときに頭一つ抜けた脅威を作ってしまいますと、人間が対応しきる前につぶれてしまいかねないんです。」
「そこで、主上にお願いしたいのが、俺の脅威以外に人間が自らを鍛える場を作っていただけないかということなのです。脅威との戦い以外で力をつけるところがあれば、多少強いものを創造しても対処できるでしょうし、人間の発展も加速すると思われるのですが。」
「なるほど、試練の場が必要ということか。そうであるなら、たしかダンジョンといったか、生命を鍛える場というものがある。それをあの世界に創るとしよう。そうであるなら、クーエラにリベーレアよ、これからいくつかダンジョンを創り出す。それぞれの管理を双方二人に任す。」
「はあぃ~、主命確かに承りました。これで暇から解放されますわぁ。」
役目をようやく与えられたためか、喜ぶクーエラ。ぴょんぴょん跳ねるのは可愛らしいが、胸からこけそうで、危なっかしい。
「主命確かに承りました。このリベーレア身命を賭して任に当たらせていただきます。」
跪き首を垂れるリベーレア。のんきなクーエラと性格は真反対だが、違うタイプということでうまくやるだろう。
「それでは、4つの大陸に一つずつダンジョンを作成することにしよう。階層はそれぞれ1000とする。細かい内容は、おのおのの管理に任せる。一人が2つを管理するのがよかろう。」
そういうと、ダンジョン用の亜空間を4つ創り出す。ダンジョンというのは『カミサママガジン』での通称のことで、その実は階層型の閉鎖世界である。これまで作ってきた世界が3次元的な無限性を持つのに対し、この世界は有限的な空間である。有限とは言っても、人の範疇からすれば広大なのは変わらない。また、可能性が閉じており、定められたこと以上の事象は起こらない世界で、完璧な循環をなしている。循環しているために、生死もなくその世界で生まれて生きているものは、一旦死んだとしても、再び同じ存在として同じように生まれてくる。総量が変わらないように恒常性が保たれているので、たとえその世界からその存在が別の世界に移り、減ったとしても別のなにかでその存在が埋められ、変わらないようになっている。世界から離されない限りは同一性を維持しているので、当人としては生き死にの感覚はないであろう。創り出されたダンジョン世界は、黒い立方体の形となり、世界の周りを巡るように回転している。
「これでダンジョンの基となる世界はできた、あとはどのように各階層を決めていくがよい。ナルーファよ汝は、ダンジョンが完成しだい、人間に告げ、向かうよう差配するのだ。」
「「「かしこまりました。」」」
これで、人間たちの発展も進むというもの、特異点が生まれるにはまだまだかかるであろうが、ようやく一つの流れができた。特異点が生まれた暁には、次の世界を創造することにするか。