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吐露と決心

 早速、国政の勉強から帰ってきたローウェンにも魔族化の仮説を伝えた。素直に驚いたと思えば、拗ねたように小さく口を尖らせた。表情が豊かになったのか俺がわかるようになったのか、どっちかわからないが推しが可愛い。


「私には変化のことなんて言わなかった」

「拗ねるなよ」

「ただ俺も考えたかった。ミハイルは俺の唯一の家族で友人だから、俺だって力になりたい。頼られたい」

「……ばかだな」


 ローウェンの一人称が私じゃないのは初めてだ。ミハイルは驚いてないから、俺がいたから今まで聞けてなかったのかもしれない。しょぼくれるローウェンの頭を撫でるミハイルが呟いた。


「俺みたいな、スラムからもあぶれた奴になつくなんて、お前はばかな王族だ。でも好かれてる自覚がなかった俺はもっと馬鹿だな」


 優しくローウェンの髪を鋤くミハイルの目は愛しげに細められていて、ふと俺は前世の母親を思い出した。俺が死んだ地震は大きかったけど、彼女は無事だろうか。俺の死はもう伝えられただろうか。泣かせてしまっただろうな。もう会えないけど、元気でいてほしい。そうか、もう会えないんだな。色々あって考える暇もなかったけど、俺、死んだんだもんな。


「――い、おい!ユタ!」

「はっ!な、なに」

「大丈夫か?泣いてる」


 ミハイルに体を掴まれて意識を戻すと、ふたりが俺を心配そうに見ていた。ローウェンが涙を拭ってくれたことで初めて自分が泣いてることに気が付いた。


「おれ、死んだんだなぁ、って思って。もう家族にも友達にも会えないんだって実感して……」

「なんで急に」

「ミハイル見てたら前世の母親を思い出した」

「おいミハイルママ責任とってやれ」

「ざっけんな誰がママだ!……あー、くそ」


 めんどくさそうにミハイルが頭をわしわししてくれた。俺が1番年上なのに、情けないな。あーあ、死んでもダサいな俺。そう思ったら何だか吹っ切れた。ミハイルの乱暴な手付きが心地好い。


「ふたりともありがと。何か元気でたわ」

「そりゃよかった」

「この世界では俺たちが家族で友人だ。ユタは独りじゃない」

「だな。じゃあ今から俺らは3人家族ってことで」

「っ、ふたりとも好きだ!愛してる!!」


 ふたりの腕をまとめて抱き締めたら、好意を言葉にされ慣れてないからか、ローウェンもミハイルも頬を赤らめてはにかんだ。可愛いが過ぎてだらしない顔をしてしまったが、俺は魔物なのでバレてないだろう。きっといつもの顔のままだ、そう信じたい。



 落ち着いた俺たちはベッドの上に座って作戦を考えていた。ミハイルの味方をつくる作戦だ。初見で大騒ぎして通報されない相手と場所が必要だ。見た目だけで捕縛されたら元も子もない。


「いっそ騎士団はどうだ?通報は騎士団に行くのだから、騎士団の理解を得てしまえば平気だろう」

「でも国を守る騎士団が魔族に見える奴を信用すんのか?」

「そこだよな……俺が口添えしたところで騙されてるだの何だの言われそうだしな」

「魔族化の仮説を同時に伝えるとして、それでも信用はされないだろうな」

「むしろ変に存在を知らせると何かあったときに疑われそう」


 俺たち3人の溜め息が被った。カチ、カチ、カチ。時計の音だけが部屋に響いた。もうすぐ日付けが変わる。ミハイルが舌打ちした。俺は遠い目をした。ローウェンがランプの灯を消した。深夜に考えたって良案は出てこない。


「「「おやすみ」」」


 息の合いすぎた就寝の挨拶に、珍しくローウェンが声を出して笑った。暗闇に包まれて顔が見られないのが残念だが、その弾んだ声に決意を固めた。今まではどこか、子供の頃の将来の夢のような、現実味の薄い目標だった。でも今、確かに俺は、ローウェンを幸せにするのだと決心した。ゲームの中のローウェンという推しではない、同じベッドで寝る現実の家族としてのローウェンを。そして出来ればミハイルも。前世では家族に孝行できなかったが、現世ではこのふたりの大切な家族に孝行する。そう誓った。

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