プロローグ
雨の音がとても煩いだけの、なんの変哲もない日常。
だが、今日は違った。
その理由は、交差点の真ん中に血の池を作っている1人の青年、天月日陰にあった。
(はははっ……そうか、そうだったのか。
僕は、間違っていたんだ。ずっと、騙し続けていた。 でも、騙し切れていなかったんだ)
日陰は後悔していた。
今までの人生を。自身の選択を。
何故、自分はあの方法を選んでしまったのか。
もっと別の方法もあったはずなのに。
あの時に、間違えていなければ。
(もう、僕は死ぬっぽいね。何にも見えないし、それに、体の感覚が既に無くなっている)
何故こうなっているのか。
少し時は遡る。
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天月日陰(20)は買い出しをする為に外へと出ていた。
(あーあ。何でこんなに雨が降っているんだ?車なんて持ってないから、傘を差して徒歩で行くしか無いじゃないか)
「ま、どうせ家にいても暇なだけだろうし、いいんだけどね」
日陰は両親と3人で暮らしているが、両親の体調が悪く、更に買い貯めておいた弁当も尽きてしまったので、気怠げにコンビニへの道を歩いていた。
そして交差点に差し掛かった時。
日陰はふと、一台のトラックの不自然さに気付く。
(あれ?あのトラック信号で止まる気あるのか?もの凄いスピード出しているけど……って!あの子引かれるんじゃないのか!?)
日陰の視線の先には、少女に向かって突っ込むトラックがいた。
(うわぁ……衝撃映像になるだろうな。あれは……
あれ?何で僕は走っている?何故、危ないと叫んでいる?)
日陰は少女を助ける気など無かった。
だが、気が付けば体は勝手に動きだして少女を突き飛ばす。
そんなことをすれば代わりに日陰が引かれるのは火を見るよりも明らかで……
グシャリ、と明らかに立ってはいけない音がして日陰は血飛沫と肉片を周囲に撒き散らして吹き飛ぶ。
そして、冒頭に戻る。
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(こんな事になるんだったら、こんな後悔をするんだったら……僕は、我儘だろうけど)
《出来る事なら、もう一度やり直したい》
その願いを口にして間も無く、日陰はその生涯を終えた。
その場面を監視していた人物に最後まで気付くことなく。
「庇われてしまったのは少し予想外でしたが、面白い事を思い付きました。彼女の代わりに、彼に楽しませて貰いましょうか……天月日陰さん」