選ばれた女神
「貴方は死んだのです。私はラティ。女神です。私は若くして亡くなった人達を別の世界へ送る仕事をしています。この部屋は異世界の説明などを行う部屋です。」
「そうですか。」
「…あまり驚かないのですね。」
「驚いたほうが良かったですか?」
「いえ、ただこの話を聞いて驚かない人は今までに居なかったですから…。」
「そうですか。」
まぁ、驚くのが普通だろうな。誰だって自分が死んだなんて信じたくわないわな。でも、俺は死ぬ瞬間をはっきり覚えてるからな。「それで、俺がこれから送られる世界はどんなとこなんですか?」
「どんなとこ…そうですね。貴方の元いた世界よりはかなり治安が悪いです。あと、化け物がぽんぽん出ますね。あとは魔法が使えるくらいでしょうか。」
「魔法使えんの⁉︎使ってみたかったんだよねー。」
「まぁ、魔法が使えたところで力がなければ化け物とは戦えませんから私から力を授けましょう。それと、何か一つ、向こうに持って行く物をこの中から選びなさい。一度選ぶと変更出来ないので注意して選びなさい。」
そう言って彼女が指を弾くと、空から数十枚の紙が降ってきた。そこには日常品や服があった。ふむ。迷うなぁ……。降ってきた紙全てを見たが、正直どれもピンとこなかった。と言うか、ほとんど要らんもんばっかりだった。
「…はぁ、こんなのしかないのか。」
俺は何となく呟いてしまった。すると、女性の顔がだんだん怒った顔になっていった。「ねぇ、人に何か貰えるってのにその態度何?何様のつもり?」
「いや、ええと、何と言うかその…この中にピンと来るものが無いと言うか……。」
「むか!ほんと貴方何様のつもり?何もあげないわよ!」
「え⁉︎いや、それは困る!そんな事されたら何か損な気がしてならん!第一、バケモンが闊歩してる世界に放り出されたら何していいか分からんしすぐ死ぬから!」
「それについては問題ないわ!転送する人達にはそれぞれ天使がナビゲーターとしてついていくわ!」
「何だそうなんだぁ、ならさっさと送ってくれ!」
「待った!何その言い方!それが人にものを頼む態度?何だかそれだと私の立ち位置が貴方より下みたいじゃない!」
「事実その通りだろう!相手を満足させられるものを提示出来ず、それを文句言った相手が悪いとでも言うように責めたり、上から目線だったり!なら、相手を満足させられる案を出してから言ってもらおうか!」
「ぐぬぬ…」
『ラティ様。早くして下さい。こっちは退屈なんですよ。』
そう言って、どこからか声が聞こえた。「へ?もうそんなに経ってた?」
『はい。マイマスターがここへ来て四十分は経ってますよ。』
「マイマスター?」
「貴方の事よ。彼女が貴方のナビ天使。」
「へぇ、君が?宜しく。」
『はい。宜しくお願いします。マイマスター。』
「で、姿は見せてくれないの?」
『私の体はすでにマスターの言う異世界にいます。そこで初めて会うのですが、マスターが決まったという報告が来てから既に結構経ってますが転移してこないのでこうしてこちら側から話をかけているところです。』
「そいつはすまないね。この駄女神が全く送ってくれないのさ〜。」
「な!貴方がわたしの提示した物に対して文句を言っているからでしょ!」
「あんたが要らんもんばっか提示するからだろ!この雑巾とかマジで要らんだろ!」
俺は落ちていた紙一枚を取って見せながら言った。
「うぐっ。そ、それはあっちで必要かもしれないでしょ!」
「じゃあこれは何だ⁉︎消しゴム一個とかゴミだろ、何で鉛筆と別々なんだよ!しかも個数も一個とかケチりすぎだろ!ていうか普通何か貰えるなら強い装備とか凄い能力とかだろ!」
「何よ!別にケチってなんか無いわよ!装備なら向こうでお金貯めて買えばいいじゃない!能力なら転移した時にランダムで入るようになってるから別に要らないじゃない!」
「能力選べねーのかよ!ってゆか何でランダムなんだよ!」
「仕方ないじゃ無い転移する人達の魂が入る器、つまり肉体はそれぞれ別の神々が造っているのだから!」
「お前は造ってんじゃねーのかよ!」
「私が造っているときもあるわ!でも私はそんなに暇じゃ無いのよ!」
『暇じゃないですか!どれだけ人を、いや、天使を待たせるんですか!』
「うぉわ!びっくりした!今まで喋ってなかったからすっかり忘れてた。」
『酷いです。それで、まだ来ないのですか?』
「いや、こいつが要らんもんばっか提示するからな。正直どれも要らん。」
『どんな物でも使い方次第ですよ。』
「消しゴムでもか?」
『……。』
「おい、何か言えよ。」
『…とにかく早くしてください。』
あ!逃げた!
「コホン、早く決めなさい!女神は暇じゃないんですよ!」
イラッ。
「そんなに早く決めて欲しいか?じゃあ、決めてやる!俺が、異世界に、持っていくものは…お前だ!」
俺は女神を指さして言った。コイツを異世界に連れてってこき使ってやろうと思ったからだ。すると女神はお腹をおさえて笑いだした。
「あはは、貴方バカなの?女神を連れて行ける訳ないじゃない!ホント、バカね。あはははは。」
女神は笑っていたが、俺は笑わない。なぜなら俺と女神の足下に魔法陣が浮かび上がっていたからだ。
「おい、女神。足下見てみろよ。」
俺は魔法陣に気付かない女神に言ってやった。
「何?何か落ちてるの?………え⁉︎何で!?おかしいわ!女神は選べないはずよ!」
女神は魔法陣を消そうとなんとか頑張っていたが結局消えなかった。女神が魔法陣を消そうとしてる間に女神の背後から羽を広げたイケメンが降りてきた。
「幸成さん。貴方の要望通り、持っていくものにこの女神が選ばれました。ラティ。貴女の仕事はこの私が引き継ぎましょう。貴方達に良き旅があらんことを。」
「ちょっと!待ちなさいよ!何勝手な事言ってるの?私はこんなの認めないわ!」
「おい女神!うるさい!静かにしろ!お前は俺の物になったんだ。俺の言う事を聞け!」
「嫌よ!貴方、私の体が目当てなのね!だから私を指定したのね!ああ、イヤラシイ、イヤラシイ!このままじゃ私の貞操の危機を感じるわ!こうなったら貴方が私を襲えない様な身体にしてやるわ!貴方は向こうに着いた時、自分の姿を見て死にたいと思う姿になっているでしょう。調子に乗った事を後悔する事ね!」
女神はそう言って両手を広げると、身体が輝き始めた。
「おい!ヤメろ!何する気だ!神様!この女神を止めてくれー!」
「嫌ですよ面倒臭い。それでは、転送の準備が出来たので今から運びます。」
コイツこんな性格だったのか。優しそうな顔なのに。やがて強烈な眠気が襲い、俺は眠ってしまった。
目が覚めると、そこはあの白い部屋じゃなかった。
「おはようございます。」
「!?」
不意に声を掛けられ慌てて辺りを見回すが、誰も居ない。
「ココですよ。上です、上。」
声が聞こえた方へ顔を向けると、そこには十センチ程の大きさの羽を生やした人が浮いて居た。
「妖精?」
「失礼な、私は妖精ではありません!天使です。間違えないでください。」
「ごめんなさい。」
小さな天使に怒られ、思わず誤ってしまった。………あれ?そう言えば俺ってこんなに声高かったっけ?嫌な気がして後ろに手をやると、何かが手に触れた。それを目の前にやるとそれは銀色の髪だった。いや、まだだ!まだ諦めるのは早い。俺は恐る恐る陰部に手をやった。そこには本来あるべきモノがなかった。
「う………うわぁーーーー!」
終わった…俺は今日から男ではなくなった。