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Fall in love─後編─

作者: Maria

先生と私の間には、越えられないたくさんの壁がある。

今日も私はその壁の前で、途方に暮れるのである。



今日という日は、何気なく、だけど確実に明日へと変わっていくものだ。



明日には何が起こるか分からない。



だから明日にはきっと、二人を妨げる巨大な壁が壊れるかもしれないと、そんな期待を持ってしまうのだ。



「ねぇ…私、先生とデートしてみたい!なんちゃってね。」



朝一の職員室で、私がこう言った時先生からは思わぬ言葉が返ってきた。



「いいよ。どこ行きたい?」



開いた口が塞がらないとはまさにこういうことを言うのだろうか。

私は返答に困っていた。

まさか先生からそんな返事をもらえるなどと思ってもいなかった私は、どこに行きたいかなんて考えてもいなかったのだ。



しばらくして出てきたセリフは、

「遊園地!」我ながら子供じみた答えで顔が赤くなった。

だけど先生は逆に、少し嬉しそうにOKをしてくれたのだ。



デートの約束は来週の日曜日だ。

駅前に1時。



私と先生だけの秘密のデート。



だけど期待とは裏腹に、デート当日は冷たい雨が降り注いでいた。

追い討ちをかけるように、先生からの着信。



「ごめんね。今日ちょっと予定入っちゃって…雨も降ってるし、」



「そうなんだ…。」



「あ、もし良ければ予定までの時間お茶でもする?」



先生と過ごせるならば、遊園地でもたった一杯のお茶だって、同じくらい大切だ。

だから私は雨の降る駅前でひたすら先生を待っていたのだ。

ほんの少しだって、学校以外の先生と会える。

独り占めできる。

そう思えば何にも苦ではなかったのだ。



「お待たせ!」



「あ!せんせ…」



先生の隣には綺麗なお姉さんが立っていた。

私なんかよりも大人で、綺麗で、私なんかよりもずっと先生の隣が似合っている人だった。



駅前のカフェに入るとその人は、先生と同じブラックコーヒーを頼んだ。

そして、

「本上さんは何飲む?ミルクティとか?」とメニューを差し出したのだ。



だから私は、

「私もコーヒー。あ、ブラックで!」と言っていた。



コーヒーを飲んでいる間その人は私に先生の話を言って聞かせた。



「いつも本上さんのこと彼から聞いてるのよ。とっても可愛い生徒さんだって。言ってたとおり!本当に可愛いわよねぇ。」



「彼ね本当に仕事に対して熱心なのよ。彼が教師になりたての頃ね…」




「彼って着るものに関しては全然無頓着でね、だからいつも私が…」



正直言って、大嫌いな物理の授業よりも退屈な30分だった。

それからしばらくして先生とその人は、用があるからと帰っていった。



せっかくこの日のために買ったワンピースも、朝から頑張った髪の毛もお化粧もすべて水の泡だ。



「てるてる坊主のバカ…ッ」私はそうつぶやいた。



先生とあの人は学生時代からの仲らしいが、昔から先生を知っていることがそんなに偉いのだろうか。

私はごく最近の、しかもごく限られた場所に居る先生しか知らないが、今の先生のことならきっと誰よりも…



けれど、きっと想い出には勝てないのだ。

私には、先生との想い出がない。

私とあの人との違いはただ一つ。

先生と先に出逢えたか出逢えていないかだけだ。



だけど、それが何よりもの敗因だ。

出逢うのが遅すぎたのだ。



冷たい雨の中私は一人、泣きながら家へと帰っていった。



それから約3週間が過ぎた頃、私が久しぶりに職員室へ足を運ぶと、何だか賑わっていた。



「ご結婚おめでとうございます、向田先生!」



「ありがとうございます。」



結婚…



結婚…



結婚…



まるで、ドラマのヒロインのように何度も何度も"結婚"という二文字が、私の耳元で響き続けていた。



「挙式はいつなんですか?」



「今度の日曜日なんです。」



私のこの恋は、始まった瞬間(とき)からすでに終わりを告げていたのだ。



一週間なんて時間は一瞬で過ぎていき、とうとう土曜日になってしまった。



この一週間、食べる気も眠る気もしなかった私に、ママは怒っていた。

いいかげんちゃんと食べなさいって。



何をしていても先生から逃れられなくて、私は電車に乗って海に行くことにした。

誰にも内緒でだ。

ママにもパパにも友達にも。

知っているのは私だけだ。



まだ少し肌寒い季節の海には誰もいなくて、私は海辺を歩いた。

独り占めだ。



波の音が優しく聞こえてきて、涙がこぼれ落ちそうになった。



だけど…



「ちょっとくらいなら泣いてもいいよね。だって、いまは私だけの海だもん。」



ポツリ、ポツリと私の瞳から涙がこぼれ、やがて海へと戻っていく。




そうして私は崩れ落ちた。

しゃがみ込んで、大声で泣いたのだ。

泣いて泣いて、もう涙が枯れてしまうんじゃないかというほど泣いたのだ。



私が泣いている間ずっと波の音がしていた。

まるで泣いてる私を優しく包んでくれているかのように…







明日、先生は結婚します。






私の世界で一番愛しい人が、結婚します。




先生とあの人の結婚記念日は、私の初恋失恋記念日です。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。前編から続けて読ませて貰いました。 やっぱりストーリーとして展開されていると凄くいいですね。先生の恋人が出てきた辺りなんて特に良い感じだと思います。「大嫌いな物理の授業よりも退…
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