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世界を救うのは勇者ではない、この魔王様だ!※習作※  作者: 神月契
第一章 巡る数多の光の中
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第二話『降臨せし勇者、それは始まり也』

 気がつくと、そこは怪しげな台座の上でした。


「よくぞ異なる界より参られました、勇者様」


 突如かけられた声に、私は特に戸惑う事なく鷹揚に頷いてみせる。

 視線を声の発信源に向ければ、妙齢の美女がそこには居た。バチカンで見た――テレビ放送でではあるのだが――法王、もしくは教皇と呼ばれる者が着けているような純白の衣装に身を包んだその女は、白く流れる長髪を細やかに編み込まれた髪型をしており、簪の如くその美しい白髪を貫く薄桃色の花は、雪の中に力強く咲く野花を彷彿とさせる。

 目鼻立ちに関しては言うまでもなく、しかし、その唇は、染井吉野のように淡くも幻想的で、優しく微笑むその美貌は、侵しがたい絶対の神秘性を孕んでいた。


 ――何だこ奴は、人間か?!


「私の名は、エレノア・ツェツィーリア・ヘーメラ。この神国ヘーメラの第一皇女にして、聖女です」


 皇女で聖女だそうだ。こんな完璧っぽい女は、私のようにコンプレックスの塊人間から見れば、羨望と嫉妬で燃やし尽くしてやりたくなる。

 醜い感情を心の奥に隠し、極自然に、親しみのある笑みを顔に貼り付けましょう。私は、そのくらいには社会人です。


「これはこれは、ご丁寧にどうも。私の名前は、一色いっしき 鷹羽たかはです。一色が家名で、名が鷹羽。文化や歴史の違いもあり、今の私には何が失礼で何がマナーなのかがまだ掴めていませんので、多少の不敬はお許し願えればと」

「構いません。元々お呼び掛けしたのはコチラなのです、どうぞ気を楽にして下さいませ」

「多分なご配慮、痛み入ります」


 それから少し失礼とも取れる言葉で接してみたが、反応はそこそこ。少なくとも、奴隷の様に扱われる心配は無さそうですね。まぁ、名前は完璧に偽名なのですが。


「ふふっ、私、実は勇者様はもっと戸惑われるかと思っておりました」

「まぁ、突然貴国に召喚された訳ですし、驚いていないといえば嘘になります」

「申し訳ありません。しかし私達にはもはやこれしか手段はありませんでした。出来る限りの配慮はさせて頂きますので、どうぞ肩の力を抜いて詳しいお話をさせて頂けないでしょうか?」

「是非も無いです。こちらとしても、現状の整理をしたいところでした」


 お互いに小さく笑い合いながら、抜け目ない視線が交差する。

 親しげに話し、やや距離を詰めることで、パーソナルエリアの範囲を縮める。心理的な心の距離を、物理的な距離と話術で、そして細かな仕草で縮め、こちらの口を軽くしようとしているのは、巧みな営業マンなら最低限の嗜みだ。田口さんがそうだった。


「勇者様をこのまま立たせてしまうのも申し訳ありませんし、移動しながらお話しても宜しいでしょうか?」

「ええ、問題ありませんとも」









 事態は、最悪と呼んで差し支えなかった。

 まとめるとこうなるのだが、この世界には十数年前に、魔の者と呼ばれる怪物が現れた。それらはどこからとも無く現れ、人を襲うらしい。魔の者は強く、人は苦戦を強いられる。人類の生活圏が狭まれ、世界滅亡を予言する狂人まで現れる始末。そんな折、神に祈ろうとここ神国ヘーメラの大教会で祈りを捧げていたエレノアが、天啓により預言の石碑を発見。

 それによれば、現状を作り出した原因は魔王という存在であり、異なる界より勇者を呼べば、勇者が魔王を討伐してくれるというものだったとか。


 ――クソったれめ!


「なるほど、事情は大体把握しました。それで、私がもし魔王討伐に協力しない、と言えば?」

「勇者様は必ずや魔王を討伐して下さいます。そして、世界を救ってくださります」


 理知的な会話など望むべくもなし。狂信なのだろうか、しかしここで強く反発したとして、武力はあちらの方が上。エレノアの背後に立つ二名の兵士が、厳しい視線を私に向けている。


 ――狂信者か。


「ふむ。しかし現在の私には、魔王どころかそこの兵の方々にすら勝てる気がしません。他には何か、預言は無いのでしょうか?」

「魔王。

 それは魔なる怪物共の根源にして、災厄を招く者。

 邪神により生み出された魔王は、死と災厄を通して世界に滅びを齎す。

 彼の者を討ち滅ぼせるのは、聖なる剣を持ちし異界の勇者のみ。

 聖神により生み出された人の子よ。

 世界に平和を。魔王に死を。これ以上、同胞を殺させてはならない。

 悲しみの連鎖はもう、断ち切るべきなのだ。

 異界より勇者を。

 絶望より希望を。

 過去より栄光を。

 これを読みし者に、これからを生きる子どもたちに、神のご加護が有らん事を。

 ――――預言者クロノ・ウルディスより、未来へ送る――――

 これが、預言の石碑に記されていた全てです」

「なるほど、なるほど」


 邪神? 死は分かるが、災厄? 聖剣とか、どこの物語ですかおい。

 そしてあの三文は? 異界より勇者、絶望より希望、過去より栄光。最初はこの勇者召喚だろう。しかしあとの2つは? 石碑が過去の物である以上は、三つめを満たしているとも言えるだろう。いや、二つめにしても、怪物を倒すものが現れたと見れば満たしてはいるハズだが、そんな事を言えば私は聖剣とやらだけ手に入れたら、そのまま化け物の巣窟に投げ込まれかねない。


「して、聖なる剣は何処にあるのでしょうか?」

「あら、勇者様がお持ちではないのですか?」


 ……どうやら、勇者が持っているだろうと思っていたらしい。皇族に探せる文献には記されていない、と?


「私のいた国では、剣の持ち運びは犯罪です。公安組織に捕縛されてしまいますよ」

「まぁ、そうなのですか!」


 人、それを銃刀法違反と言う。


「ええ。ですから、聖なる剣は恐らくこの世界の何処かにあるのでしょう。それを探すところから始めなければなりませんね」

「分かりました。では、国中にお触れを出しましょう。教会の伝達網を通じて、各国の聖なる剣についての情報も収集しましょう。他国内の禁書区域についても、会談を設け取り引きを行わなければなりません。それから、それから――」

「殿下、殿下? ではその間私は、どうしましょうか……?」


 まさか、あんな目を輝かせて聖剣捜索の案をぽこぽこ出すとは思わなかった。話を切らなければ、延々と案を出し続けただろう。証拠に、エレノアの背後にいる二人の兵士が、こっそりとサムズアップをしている。

 ――ここでも通じるのか、サムズアップは?


「私の傍にいて下さい。貴女は女性なのですから、何かあっては問題です。それに召喚したのは私の独断ですし、一人でおられると不法侵入として捕縛され、拷問の末に死刑になりかねません。部屋も同じベットで寝ましょう。今までと違う環境に来たのです、その警戒心も、不安も分かります。でも大丈夫! 私は貴女の味方です。何も怖がる必要はありませんよ。ええ、ありませんとも」


 そう告げると、段々と血走ってきた瞳を私から逸らすと、不意に目を伏せた。


 ――なんだコイツ!? 怖い、何か怖い!!


「って、え? 独断? 拷問? 死刑?」

「ええ、異界より人を召喚するのは、そちらからすれば人攫いに等しい行為です。送還の術が存在しない以上、他に手が無くなるまでは使ってはいけないと禁術に指定されております。まったく、私の家族(皇族)の理解の無さにはほとほと呆れます。天啓を受けた私の言葉を信じないとは」


 果てしなく嫌な予感に、私は反射的に、エレノアの背後にいる兵士に目を向ける。


『……』


 彼らは、申し訳なさそうにそっと顔を逸らした。


 最悪と思っているうちは、最悪ではないとは、誰の言葉であっただろう?


「……幼女を誘拐したと、咎められなければ良いですネ」


 勇者召喚が誘拐として罪になるなら、こんな幼女すがたの私がエレノアの横にいるのは、どうなのだろうか? こんな姿の私が、例えばエレノアより偉そうな人に泣きついて、エレノアを弾劾すれば? まさか私が、エレノアに味方すると思っているのだろうか?

 エレノアは笑顔のまま固まった。

 その額には、大粒の汗が大量に滲んでいた。


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