第一話 『菊池鳳華、誕生せり』
『全く、困ったものだ』
私の眼前でそう嘆息した存在は、やれやれと言わんばかりにその頭らしきもので大きくかぶりを振った。
『最近、君のように世界を超える人間が増えて来ている。それは恐らく、君たちの世界の人間が増え過ぎて、魂の環から溢れやすくなっているという予測は立つのだが』
その存在は、渋々といった体でこちらに近づき、真正面1センチ程度まで距離を縮め、私の内心を覗く様に視線を深める。
『ふむ、凡そ正解である、という事か。しかし、宗教分裂も甚だしいな。創造も破壊も、悪魔も天使も、存在そのものは……まぁ、それは置いておこう』
それが良いと思う。その話は色々とアブナイですし。
『はみ出してきた君らの魂は、そのままエネルギーに換えて世界の補強にあてがうのだが、そろそろ飽きてきた』
その存在は、ピッタリと私の額とその額らしき部分を当て、ぶるりと震えた。
『なに、途を違えた哀れな魂を救済するだけだ。そちら側からこちら側に来た魂よ、僕は君を歓迎しよう。とはいえ、それほど大々的に気配りする訳にもいかない。かといって、君の世界の魂が、こちらの世界の魂より希薄なのだから、補助的に世界より魂的エネルギーを補強させて送り出すのは、極々面倒だが僕の義務という事になってしまうのだろうね』
口では面倒と言いながらも、どう見ても楽しそうなその存在は、体を大きく震わせ、嗤った。
『君の事は、これからも見守ろう。それで僕が何か手出しをする訳でも何でも無いが、僕の暇潰しに君の一生という笑劇を、僕に見せてくれ!』
『さぁ、君の新しい一歩だ』
『さぁ、君の新しい世界だ』
『さぁ、君の新しい一生だ』
『『『さぁ、君の新しい全てが始まるぞ!』』』
その存在は、いやもういいや、しずく型のぷるぷる震えるスライム(?)は、私の周りを狂ったように跳ね周り、何故か私の意識は暗転した。
そして明転。もちろん私こと菊池鳳華という人間を劇に例えての明転であり、現状場面は転換していると言ってしまっても問題はない。
何故ならば、
「な、何だコイツ!」
「慌てるな! とりあえず囲め、弓兵! お前らは味方にあてない様に補助だ! 目を狙え!」
説明しよう! 私こと菊池鳳華が意識を取り戻した時、目の前はにはたくさんの木々に襲われている豪華な馬車、殺されている全身鎧の人18名、殺されている賊っぽい人30と数名。そして私と馬車、鎧の人らとそれらを囲う賊っぽい人大勢という、客観的に見れば「あれ、ラノベ的展開にしては人数多過ぎ無い?w」という状況なのだ!
そして賊っぽい人らに囲まれる私と鎧さん達に馬車、そして不思議なのが、人間がなんか小さいという事だ。
『小さな人間さん達、私は君らと争うつもりは無いですし、その馬車とか助ける予定もないので見逃してくれませんか? というかお願いだから見なかったことにして再開して下さい怖いです』
言葉が理解出来たので返事をしたら、どうやらこちらの言葉は理解出来なかったらしい。目の前で剣を構えていた鎧のおっちゃんが腰を抜かした。
まぁ、彼が身長170cmとしたら、私なんて目測3mはあるわけですし、そんな人間がいきなり現れればそりゃ当然ですが。
ん? そういえば身体がおかしいような……。
「構わん、やれ、殺せ! 『中位火球』!」
何やら指揮を執っているらしい大柄なスキンヘッドが、その大きい顔ほどのサイズの炎を私より後ろに向けて飛ばして来た。
見ましたか奥様! あれは魔法ですよ、魔法! 私もネトゲで使えます。ええ、最上級魔法どころか、職業を極めないと手に入らない禁忌級の魔法までって熱い!?
『アッツい! 何、どういう事!?』
なんか動きのおかしな体を捻って後ろを向くと、緑色に紫の斑点のついたイモムシのような体に、少し焦げたような後がついていた。
……。
…………。
………………は?
「よっし、何だか聞いてるぞ! 炎だ、炎で攻めろ!」
人間にしてはあり得ないほど後ろにある感覚が、たくさんの炎と小さな矢で攻撃され、結構痛いが、正直私の意識はそれどころではない。
イモムシだよ? まさかの! あれ、え、イモムシて目がたくさんあるんじゃないの? てか君たちそれ目じゃなくて模様だし、というか、近くに湖とか無いの!? 早急に自分の体を確認する必要がある!
「第一、第二、第三分隊長は、部隊と皇女殿下を連れて後方突破、第四以下の部隊と魔剣騎士は、賊の掃討及び怪物の駆除に当たる!」
ちょ! 鎧の人達まで攻撃してきた?! 君らは馬車連れて下がりなよ、てか人様を怪物て、怪物て!
『ええい、こうなりゃやけくそだからね! もう知りません、私だって暴れますよ!』
とりあえず斜め前のスキンヘッドに体当たり! 幾つあるか良くわからない脚たちが一斉に動き出し、加速度が高過ぎて何が起こったか自分でも判断不能。
ただ、真正面向かって15mくらいに、木々を吹き飛ばしながら虫の息のスキンヘッドがいた。泡吹いて血塗れで倒れてるし。ピクピクしてるから死んではいない。ふっ、みねうちさ。
……す、スキンヘッドの急所に当たった、効果は抜群だ!
私は気を取り直して、呆気に取られている周りの奴等に目を向けた。
『分かるよね、逃げないと次は転がるよ? 私、転がっちゃうよ?』
「う、うわあああああ!」
「頭がやられた! 逃げろ、逃げろ!」
賊っぽい人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ、鎧の人達は私から目を離さない。皇女とか言ってたし、やっぱり騎士なのかな。まぁ魔剣騎士とか言ってたし、騎士なんだろうとは思うけど。
「各員散開! なるべく離れて囲って、遠距離から焼き殺せ!」
焼き殺せとかこわっ! そんな悪い事を言う騎士にはお仕置きが必要だ!
『くらえ、糸を吐きつける!』
「うがあっ!」
急所に当たった! 効果は抜群だ!
糸を吐いたはずなのだが、糸玉のような物が飛び出し、騎士の指揮を取っていた奴が吹き飛んだ! ざまぁ見ろ!
そのまま色々と叫んでいる騎士たちに向けて、どんどん突進していく私。私の速度には私を含め誰もついては来れず、騎士たちの数は半分にまで減っていた。
『フハハハハ! みねうちだ、死んではおらぬよ!』
調子に乗って悪者気取りなんてしてみちゃう。だって、なんだか楽しくなってきちゃったんだもの。
「ひ、ひぃいいい!」
「ば、馬鹿、立て! 座っていると殺されるぞ!」
ふふん、君たち、練度が足らんよ! なんて、鍛えても何もしていない私がふんぞり返って見たりする。しかし、冷静になってきた部分の私が、ここは引けと焦りを見せる。
突如出現した怪物が、多数の賊と騎士を戦闘不能にした。これは、国軍が動き出してもおかしくはないだろう。倒した数が数だし。
そして、何も分からない現状、敵を作り過ぎるのは良くない。それに先程の馬車、話が本当なら皇女が、つまり偉いさんが乗っていた事になる。これは不味い。怪物だけど、立場がより悪くなっている。
『然るに、私は対話をしなければならないのだ!』
という事で、騎士と賊のリーダー格と思しき二人を、糸で優しくくっつけて拘束し、森の奥へ高速移動! シュババババ!
……ダジャレじゃないよ?




