田中省三 70歳 初出勤する
面接に行ったら受かった。
さんざん美佐子に言われていたので、大人しくしていた。
本とはな、ここ何年も美佐子としか話をしていないので、しゃべりたくてウズウズしたのだが耐えた。
受かったということはやはり俺の人徳か。
「美佐子、明日から仕事にいくぞ」
「よかったですね。ここは賄いもありますから」
「俺は夕食を美味しく食べるために、昼食は麺類にしたいのだが」
すると美佐子が豹変した。
「タダで食べられるのですよ。贅沢を言うのもいい加減にしてください。わざわざ賄い付の職場をさがしたのだから」
どうしてこうなるの。可愛い女だったのに、あれは山姥だな。
初日は配送の研修はなかった。まず洗う場を担当したのだが、大体茶碗洗いなどやったことはない。
しかし店だからたっぷりと洗剤を付けて洗ったのだが。それが良くなかった。
そしたらすすぎ時間がかかるとか言われて、他の仕事をしろと言う。
「すみません、ご苦労です」
段ボール箱も壊したし、残飯のおけも洗った。
色々問題があったようだが、初出勤だから仕方ないではないか。
「「美佐子帰ったぞ」
「お疲れ様です。今日はショウガ焼きにしました。」
賄い飯は野菜炒めだった。うまかった。やはり体を使うということはいいものだ。
「美佐子、ゴム手袋を洗っておいてくれ」
「明日も出勤でしょう。乾くかしら」
「いや、明日とあさっては休みを取ったから」
また妖怪のように美佐子が豹変したのだよ。あんなに機嫌がよかったのに。俺はどうすればいいのか。
「あなたは私の顔に泥を塗るつもりですか」と。
筋肉痛がひどいのだよ、すでに腹筋とか太ももが痛い。こんな状態で仕事に行っても業務に支障をきたすではないか。
とても建設てきな意見だと思うのだが、美佐子は怒っているし。
俺はどうすればいいのだろう。