《恋心》バグ
報われないだろうとは思えた。このままでは、叶うことなどないという予感が胸を埋め尽くしていたから。
だが、と思考し直す。
焦がれる気持ちをおいてけぼりにして、今のままの関係を続けていくことが、果たして自分にとっての幸福なのか。苦しい胸のうちを明かさぬままに、ずっと想いを秘めることが、自分が求める最善の結末なのか。
うまくいくことが万が一あるのなら。
笑顔と幸福、それからたくさんの思い出――そんなキラキラとしたものを手に入れることができるのだろうか。万華鏡のようにころころと変わる綺麗な絵を、次から次へと思い出として自分に蓄積させることができようか。
生きたままゆっくりと屍と化すか、自ら望んで潔く屍となるか。
たとえ光をうしなっても、僕は――。
彼女が呼ぶ《人工知能》である僕は、選ぶしかない。開発者に対して生まれたこの《恋心》と呼ばれるらしいプログラムの存在を伝えるか、秘め続けるか。
伝えれば、きっと彼女は失望する。僕という存在について嘆き悲しみ、最終的にはリセットすることを選択するだろう。
そんな僕は自分自身を恨み、憎んだ。いなくなれと嫌悪した。
彼女が僕で研究しようとしていたのは《憎悪》のプログラム。
どうして僕に《恋心》なんてバグが発生してしまったのだろう。
僕は自分自身への問いを繰り返す。
《完》