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吸血鬼と9㎜パラべラム  作者: からんBit
9/27

仕事 C

単なる日常は嫌いだ。それを打ち破ってくれる仕事は大好きだ。

 墨善と別れた祭は一旦下宿先に帰って仕事の準備を整えていた。

「はぁ~~~」

 だが、祭の口から出てくるのは溜息ばかり。

 仕事は好きだ。好きなのだが、それより勝る物もたくさんある。

 例えば、下宿仲間との夕食。海の幸をふんだんに使った定子さんの料理は特に好きだ。

例えば、墨善との下校の時間。いつもの少しかすれた声は聞いてて心地いい。

お気に入りのCDをヘッドホンで聞いている時。最近日曜日の朝にやっている海賊のアニメを見るとき。故郷の海を眺めている時。挙げればまだいくつかある。

その中の一つが、ステラとの雑談なのだ。

 彼女は世界を巡る旅烏。彼女の旅の話はいつも自分の見たこともない世界を教えてくれる。会える機会があるなら、いつだって会っていたいというのが本音だ。

「なんでこんな日に限って・・・」

 それでも、仕事を放り投げるわけにはいかない。なにせ最近入用が増えた。サボタージュはそのまま自分の財布を直撃することになる。

「ま、いつまでもぼやいてても仕方ないか」

 祭はそう呟いて自分の中の葛藤を振り払い、止めていた手を再び動かした。

全体的に木材を多用しているライフルをスリングで肩に担ぎ、二本のガンベルトを交差させるように腰に巻く。それぞれのホルスターにリボルバー式の拳銃を差し込めば準備完了。あとは自分のベストに弾丸を持てるだけ持てばいつだって飛び出せる。

「よし!」

 隣にあった姿見の鏡に映った自分。木製ストックのライフルにリボルバーの二丁拳銃。これにテンガロハットでも被れば、完全に西部劇の花形だ。

「今日はついてたかい?ベイベ」

 拳銃を抜き、構える。

「何やっとるんや?」

「うわぁぁぁぁ」

いきなり百春が入ってきて手の拳銃を取り落としとうになる。

「ももちゃん!部屋に入る時はノックしろ!」

「襖をノックすんのってむずいねんけど。だいたい、いつもは気にせぇへんくせに」

 女性部屋も男性部屋と同じく相室である。ちなみに、百春の部屋の方が奥だ。

「そろそろ、出るで」

「うい!さっさと終わる?」

「さぁな。それは相手次第」

 テンガロハットは持ってないので被らずじまい。とりあえず開けっ放しの武器弾薬ケースを閉じて部屋を出る。

「今回の仕事は?細かいこと聞いてないんだけど」

「五月雨会の下部組織が独自路線でしのぎを得だしたそうや。どうも筋の通らない方法らしいんで、うちらが絞める」

「やっぱ、ただのチンピラ?」

「ま、そんなもんやろ」

だったら仕事が終わった後にでも、ステラに会いにいけるかもしれない。

 祭と百春が外に出ると、定子さんが準備してくれていた白いバンが止めてあった。百春が運転席、祭が後部座席に乗り込む。後部座席には百春が使うための武器がいくつか並んでいる。

「場所は?」

「近くの商店街」

 百春がエンジンをかけ、バンを転がす。

「商店街・・・」

 ふと、彼の顔が浮かんだ。

「せや。昨日、墨善を襲った連中の親玉や。皆殺しにしてやれや」

 皆殺し。甘美な響きだ。普段ならその言葉だけで狂喜乱舞でき、テンションの限界値を更新できる。墨善を襲ったというならなおさらだ。持ってきた弾丸を全部叩き込み、ホラー映画も真っ青のリアルな肉片を大量に作ってやるつもりになれる。

 だが、その前に確認しときたいことがあった。

「あたし、墨善のこと一言も口にしてないんだけど」

「顔に書いとった。まったく、恋する乙女はかわいいの」

 今が運転中じゃなければ、チョークスリーパーから始まる連続技を叩き込んだのに。

「武装は?」

「たいしたもんはないはずやで。昨日の墨善が持ち帰った拳銃は未だに謎なのが気になるんやけど」

 そうこうしているうちに、車は目的の建物の付近で停車した。

「見えとるか?あの建物や」

百春が指差したのは五階建のビル。一階は駐車場になっていることを含めても普通のビルと言えた。

「事務所に闇金、薬の倉庫と全部の階が真っ黒や。今回の仕事はこのビルにいる人間の殺戮。一人残らず始末せい」

「りょーかい。一般人は間違ってもいないだろな?」

「もし、いたら土下座してるかリンチされてるかのどっちかや。銃口を下に向けなきゃ平気やろ」

「確かに」

「周囲の建物も空き家かこの事務所の息のかかったものばかり。弾の貫通なんか気にせずぶっ放せ」

「いいね、そうでなくっちゃ」

祭は二丁のリボルバーの中に対人用徹甲弾を装填する。同じようにライフルにも弾を詰め込み準備は完了。

「さて、始めるで。まっちゃんが蹴散らして、ウチが後片付けや」

 そう言いつつ、百春は後部座席に移動して銃器を組み立てる。

「んじゃ、いくで」

「おっけ~」

 二人は拳を一度ぶつけ合った。

祭は車から降り、銃をかついだまま事務所へと歩く。ガラの悪い連中のアジトの近くであるだけに人通りは少ない。もし、見られてもあまり気にすることはないだろう。祭は階段を上がる。この平和な日本にブービートラップなど設置されてるわけもない。難なく二階にたどり着いた。目の前にはいかつい金属製の扉。扉には事務所の名前が書かれていたが興味が無いので無視。わずかに中から人の声がする。祭は口の端で笑う。

「さてと、んじゃ」

 祭はライフルを背中に回し、右手にリボルバー式の拳銃を構えて足を振りかぶる。

 彼女にとってこの世の大半の扉は紙切れ程度の意味しかもたない。難しいのはドアを蹴り抜かないよう力の入れ方を加減すること。ドア全体を一枚の板として蹴り飛ばすのはなかなか難しい。もちろん、慣れてしまえばどうということはない。

 祭は一気にドアを蹴り破った。

「始めるか」

 飛び込んだ事務所。ざっと人数を確認する。奥の大きなテーブルに一人、部屋の中心のソファに四人、立って動き回ってるのが三人、目の前に一人。祭は目の前にいた男に向かっていきなり拳銃の引き金を絞った。小型爆弾が爆発したような轟音を轟かせて拳銃から弾丸が飛び出す。その瞬間、目の前の人間が消し飛んだ。『吹き飛んだ』では無い。『消し飛んだ』のだ。胸を貫いた弾丸がその威力で胴体を粉に変えた。残った頭部と四肢がその勢いで部屋の中に吹き飛んでいく。祭は拳銃の後部についている撃鉄を起こし、奥の机にふんぞり返っていた奴に向けて更に発砲。あっけにとられていたヤクザは赤い絵の具の詰まった水風船のごとく破裂した。

「かちこみだぁぁぁ!」

「襲撃だぁぁあ!」

今更遅い。祭は再び撃鉄を起こし、狙いを定めて発砲。巨大な炎が銃口から飛び出し人間一人分のミンチが出来上がる。

血と肉の雨が降る中、生き残っていた連中が机をひっくり返して簡易バリケードを作った。祭はヤクザ共をその机ごと撃ちぬこうと引き金を引く。

固い物に銃弾が命中した音がした。チタンプレートでも仕込んでいたのだろうか。だが、祭は口の端で笑う。放たれた弾丸はプレートを易々と貫いていた。

彼女の使う拳銃は『拳』という言葉をつけるのもおこがましい程の代物。祭の体格があるからこそ、その大きさも通常サイズに見えるが、その巨大さは普通の人間の拳に収まるものではない。

装填数5発。使う弾丸は『600 ニトロエクスプレス』。

その威力は象を一撃で仕留め、装甲車にも真正面から喧嘩を売れる。銃本体の強度も使用者の安全も度外視し、全てをかなぐり捨てて世界最強の名を手に入れるためだけに作られたオーストリア製巨大拳銃。その名も『ファイファー ツェリザカ』

この銃の前では対人用の防弾装備など無いに等しい。

だが、重量と反動は人の手に余る。重量6キロの鉄の塊を支え、その反動を制御し、正確な射撃をすることはまず不可能だ。


もちろん、それは人間を基準にした場合である。


貫通したツェリザカの弾丸は後ろにいた人間を肉片に変えた。撃鉄を流れるような所作で引き起こし、更にもう一発。机の裏側から数人分の量の体液が流れ出していた。そこでツェリザカの弾が切れる。その時、机の裏から生き残った男が飛び出してきた。その手には拳銃が握られている。祭は慌てずに右手の銃をその場に落とし、もう一丁の拳銃を左手で引き抜いた。もちろんその銃もツェリザカである。腰に拳銃を当てるような構えで引き金を引く。激しい発射音が響き、人間が目の前で飛び散った。机の裏にまだ敵がいると判断した祭。左手のツェリザカの撃鉄を操作し、弾丸を全てその机に叩き込んだ。

「とりあえず、この階はおっけーかな」

 あらかた片付けをすました祭は空になったツェリザカに弾を込める。落とした方のツェリザカも忘れずに拾い上げて弾を込める。弾を込めてるうちに上の階にいたヤクザの構成員達が階段を下りる音が聞こえてきた。祭は部屋の奥から出入り口に狙いをつける。

「誰じゃぁぁぁ!こんなことしよったのは!」

 ツェリザカが火を噴く。扉に我先に入ろうとしていた男共がまとめて吹き飛んだ。祭はツェリザカを更に二発発砲。近くの男共もまとめて肉塊に変える。その構成員の中の一人が血の雨をかいくぐり特攻をかましてきた。

「死にさらせやぁぁぁあ!」

「うざい」

これをツェリザカで殺すのは弾の無駄だと踏んだ祭。彼女はその男にあえて突っ込んだ。身長190越えのリーチは飾りじゃない。祭は男が銃で狙いをつけるより早く靴裏を顔面に叩き込んだ。

蹴り一つ。

祭が本気を出せば、それだけで人間の首など容易にへし折る。目の前で仲間の頭部が完全に曲がったのを見れば、戦意など起きるはずもない。

「皆殺し、って話だからね。命乞いは無駄だよ」

 祭は再びツェリザカを構える。まだ残っていた男達は祭の姿に脅え、事務所に入ることすらできなくなっていた。返り血で張り付いた彼女の髪。濡れた髪の中、彼女の頭頂部のあたりに二本の突起物が見えていた。

「こ、こいつ・・・鬼だぁあ!」

 それは彼女が『鬼のように残虐だ』などというの比喩ではない。そう、彼女は『鬼』だ。

 彼女は更に発砲。扉の外一面が赤く染まる。

 はるか昔、金棒を持って暴れまわっていた『鬼』の姿がそこにはあった。

 そう、彼女は『鬼』。妖怪だ。

「かなうわけねぇ!」

 まだ、運のいい生き残りがいたようだ。そいつらは階段を駆け下りて外へと逃亡を図る。祭はそいつらを無視して、階段をあがった。上の階にまだのろまが残ってるかもしれない。

今回の依頼は『皆殺し』。やるなら徹底的に。

 下の方からは連続した爆発音が聞こえてきた。外で陣取っていた百春が降りていった男達を相手にしているのだろう。

「やっぱり、早めに終わりそうだ」

 階段を降りてきた男をツェリザカで消して道を開き、祭はこのビルの三階へと足を進めた。

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