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吸血鬼と9㎜パラべラム  作者: からんBit
22/27

反撃開始 A

「まったく、酷い顔だな」

「これから、パーティってわけじゃないんだ。放っとけ」

 古ぼけたアパートで再開した定子さんとそんな会話をする。通された一室で墨善は簡単に処置をしてもらう。ステラは別の部屋へ運ばれ闇医者の治療を受けることになった。

ステラも半分は吸血鬼。人間の血を飲ませれば多少なりとも治癒能力が現れる。その為に墨善は食事用の血を少し抜いてもらう。その後で墨善はアパートの一室に案内された。

「おっ、生きっとたな」

「よかったッス」

その部屋では既に百春と佐助が待っていた。

「残念だったよ。またお前らの顔見ることになるとはな」

 二人共怪我は負っていないようだが、なんだかやけに疲れたような表情をしていた。部屋の隅にはナデシコも運び込まれており、土に栄養剤を何本か突っ込まれていた。どうやら、ナデシコも無事のようだった。

「適当に座んな」

 定子さんに勧められるようにして、墨善と祭は6畳一間の部屋に座布団を引いて座る。

「今回の狙いは首だ」

 そして、定子さんはおもむろにそう言った。

「首ってどういうことッスか?」

「最近の金持ちの間で流行ってる趣味の悪い飾り物さ。首を剥製にして飾る。古今東西、暇を持て余した金持ちのいきつくとこは変わらないってことだな。って墨善、聞いてるか?」

「聞いてるよ」

 半分は嘘だった。墨善はこの部屋の真下で今治療を受けているステラのことが頭の中で渦巻いていた。彼女に撃ちこまれていたのはやはり銀弾だった。銀弾の触れた箇所が燃え上がったように焼けただれ、内部をことごとく破壊していた。しかも運の悪いことに弾丸は肩の大きな動脈をひどく傷つけているそうだ。危険な状態だった。

 だが、墨善が何かを心配しても始まらない。墨善は頭の半分を使って皆の話に集中する。

「首・・・なぁ・・・」

「先日、墨善が受けた依頼もその流れだった」

 河童の首を運んだ件だ。

「まぁ、さすがにこっちの『運び屋』を消そうとしたのは問題だったからな。それなりの制裁は加えたはずなんだが」

「それが、ウチらが潰したチンピラ共やな」

「理解が早くて助かる」

 昨日、祭と百春でビル一つを潰した件の話だ。

「でも、今回襲ってきたってことは、別の組織?」と、祭。

「正確には少し違う。昨日潰したのも、今日襲ってきたのも全て別々の組織。だが、奴らは同じ商売をしている」

 定子さんはノートパソコンを持ち出し、一つのマークを映し出した。

 そのマークは墨善にも見覚えがあった。河童の仕事の帰りに奪い取ったトカレフに刻印されていたマークだった。

「奴らは『ネック』と呼ばれる首の取引を扱うグループと提携していた」

 墨善達の目が一応にして細くなった。

「『ネック』は妖怪の首に懸賞金をかけ、提携してる組織に首を集めさせる。そして、手に入れた首をバカな金持ち共に売りさばいて利益を得る。最近できたばっかりの組織らしくてな、情報を集めるのに手間取っていたんだが」

 定子さんが百春に視線を送る。

「お前がトカレフのマークを調べてくれていたお蔭で随分と助かった」

「ふふん。なら、給金はずんでや」

「法律の範囲内でな」

 仕事が主に法律の範囲の外にあるので、この約束は基本信用ならない。

 百春の本職は当然『学生』だ。だが、彼女は副業として『武器商人』をやっている。小さな貿易会社であるが、顔が広く、人との付き合いが多いので、電話一本で随分と広範囲の情報を集められるのだ。百春はトカレフのマークについて調べ、最近随分と利益をあげている貿易会社に行き当たった。

「奴らは随分と儲けているらしく、金が潤沢だ。武装が足りない組織には援助として、自分達の武器を貸し付けたりもしている。貸した武器だと明確にできるように自分達の刻印までつけてな」

 それでマーク入りの武器なんかが墨善達の手に渡ったというわけだ。趣味が悪いと墨善は思った。

「そこから先は武器製造所から追っかけていけば、簡単だった」

 ノートパソコンには次々とその『ネック』の情報が現れては消えるを繰り返した。

「ターゲットはステラさんッスか?」

「それだけならよかったんだけどな。祭も単体で襲われている」

 墨善の眉が跳ねた。

「やっぱりか」

「なんや、予想しとったんか?」

「いや、そんなことじゃない。祭の顔を見た時からなんとなくそんな気がしてただけだ」

「ほ~・・・愛ッスかね」

「なっ!バッ!カぁっ!」

 祭が頬を赤く染めて佐助を殴りつけた。拳は佐助の頬を直撃する。佐助の体が浮き上がり、そのまま壁へと激突した。

「ふ、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

 痙攣する佐助に祭は怒鳴り、百春が笑い声をあげる。一連の流れを見届けて定子さんは話を再開した。

「祭は墨善達と別れた直後に襲われた」

「別れた後って・・・昼日中にか?」

「そう、道のど真ん中でいきなりガンファイト。ニュースでもやってるぞ」

 定子さんはパソコンの画面から今現在で現場を中継中の局の画像を引っ張り出す。

 『現場には大量の薬莢が散らばり、爆発物でも使ったかのようにブロックが無残な姿になっております』

小太り黒メガネだが声は悪くない人が現場からお送りしていた。画面は夕方に撮られたであろう映像に切り替わる。まだはっきりと残っている血痕や大量の薬莢、そして盛大にえぐられたコンクリの間をカメラが右往左往していた。

『このような閑静な住宅街が突如として戦場と化したことにより周囲の住民からは不安の声があがっています』

「あれ、お前がやったのか?」

「うん、まあね」

 発破いらずの怪力だ。相変わらず鬼ってのは無茶苦茶な戦いかたをするもんだ。

『警察は暴力団による何らかのトラブルがあったとみて捜査を』

 そして、定子さんがその画面を消した。

「こんな感じ、もっとも相手は鬼の身体能力を舐めてたようだから祭は無傷でここにいるわけだけど」

確かに、ちらりと見えた襲撃の現場はどこぞの紛争地帯と瓜二つだ。あちこちに突き刺さった銃創以外の破壊は彼女一人で行ったとみてよい。コンクリを指でえぐり、ブロックを拳で粉砕する彼女と狭い場所での戦闘を試みた相手は同情に値する。閻魔も少しは大目に見てくれるだろう。

「へっ!あんな豆鉄砲程度であたしを殺そうなんて百年早い」

 祭が無い胸を張る。

「墨善、なんか今失礼なこと考えなかった?」

「き、気のせいだろ」

 勘の鋭い奴だ。

「そんで、重要なのは敵の目的やない」

 百春がそう言い、皆の目が殺意に光る。考えていることは皆一緒だ。

「誰をどう殺せばこの戦いは終わるんや?」

 定子さんの表情が硬くなった。定子さんはパソコンからある画面を立ち上げた。そこにはステラの横顔と祭の通学中の様子の画像がそれぞれ乗せられていた。

「『半吸血鬼』の首に五十万ドル。『鬼』を三十万ドル。割がいいとは思わないけど大金だ」

 その下には英語で『顔を傷つけさえしなければ生死は問わない』と書かれていた。

「胸糞わりぃ手配書だな」

 墨善が唸る。

「概ね同意するな」

 祭も嫌悪感も露わにそう言った。

「まっちゃんの方が安いな」

 百春の視線は真っ先に金額に行く。

「でも、今の日本円にして五千万と三千万。賞金としては悪くない額のように思うッスけど」

 佐助がそんなことを言い、それを墨善は鼻で笑った。

「じゃあ、佐助。お前はこの金額で二人に喧嘩売れるか?」

「あと、十倍は欲しいッスね」

「ウチなら首を二つ揃える条件でもう一桁分は交渉できる自信あるで」

「そんなことは聞いてねぇ」

 皆は画面から目を離した。定子さんは話を続ける。

「で、この条件を美味しいと思った『ネック』の提携組織が一つ、危ないフリーの賞金稼ぎが一人」

 定子さんはとりあえず『危ないフリーの賞金稼ぎ』の写真を出した。墨善にとっては顔写真を見るまでもなかった。やけに危険な奴ならちょうどさっき見かけたところだ。

「こいつの名前はエマー=フランソワ=ウィルソン」

 やはり、あの吸血鬼。

「チャールズ・ホイットマンも裸足で逃げ出す真正の乱射魔だ。南イタリアのボローネファミリーを壊滅させた『紅の雨』事件、アルゼンチンで一晩に三万発もの弾丸が発射された『一晩のコンサート』事件。その他もろもろの銃弾の嵐を生み出してきた男」

 名前だけなら墨善も聞いたことのある事件だ。アンダーグラウンドではかなり有名な話達。どいつもこいつも眠れぬ夜に子供に聞かせるには刺激が強すぎるものばかりだった。

「ついた仇名は様々。『血風呂』『ブラッディ・バレット』『グレイブウォーカー』最近じゃ『カトリーナ』なんても言われてる」

「カトリーナ?」

 祭が疑問の声をあげる。

「奴が通った後は特大の台風が過ぎ去ったみたいになるからよ」

「ああ、納得」

 おかげで、うちの学校の校舎は半壊だ。半分は墨善達の手によるものだが。

「危険な奴だ。とにかく、一度火が付くと止まらない。どんなに撃たれても撃ち続ける。たとえ朝日を浴びて体が燃え上がっても撃ち続ける。腕が再生能力を超えて銃を持てなくなったところでようやく止まる」

 定子さんが溜息を吐き出す。鉄火場に立たない彼女でも今回の相手の脅威はよくわかる。そんな定子さんを前にして、墨善は口角を釣り上げた。

「不死身の乱射魔か。これ以上厄介な奴はいないな」

 歪んだ笑みを形づくりながら、墨善はそう言った。

「そんで、『組織』の方は?」

「こいつらだ」

 次に見せられたのはどこぞの警備会社のようなホームページ。英語で書かれた内容を頭にいれていくと、そこがほとんど傭兵組織のような会社だとわかる。

「まぁ、訓練を重ねている精強部隊は海外の連中だけだ。日本で小さく稼いでいる連中はただのチンピラに近い」

 なるほど。だから装備と兵士の練度に差があったわけだ。装備は一級の戦場でも使えるレベルだが、兵士の練度は平和な日本に合っている。

「面倒なことと言えば、その海外部隊の精鋭が一人入ってることだろうな」

「どんな奴?」

「ゲリラ戦を得意とする。待ち伏せのスペシャリストだ」

「待ち伏せ?」

 墨善はノートパソコンに表示された写真を見る。

「高宮甚助。もともとは人民解放軍だな。思想だけで木の根を食っていくより戦って美味い飯を食うようになったといったところか。機銃や銃座、トーチカを効率的に配置することにかけては右に出るものはいないと言われてる。一人で遠隔式の銃座を操り、一個中隊を全滅させたって話もある奴だ。嘘か本当かは定かではないがな」

 墨善は先の戦闘であちこちに仕掛けられていた機銃のことを思い出した。あれはこいつの仕業か。

「この二つを潰せばいいんッスか?」

「いや、どうやら『ネック』のシステム上、依頼主が首を取り下げない限り、この手配書は世界を回り続ける」

「それで、資産家の方は?調べはついてるんでしょ?」

「それはこの男」

 祭の質問に答える為に定子さんがパソコンをいじり、顔写真を表示する。

「あっ!」

 それを見て墨善が声をあげた。

「こいつ・・・」

「墨善、知ってるんッスか?」

「知ってるも何も・・・・」

 そこにいたのは服装がスーツに変わってるだけで、間違いなくあの男だ。

「前回、河童の首を届けたときに会ったおっさんだ」

 あの時はアロハシャツだったが、男の印象は変わっていない。

「あいつが・・・」

 今回の元凶か。墨善の眉間に皺が寄る。あの時は自分と同じ運び屋かとも思っていたのだが、依頼主本人だとは思わなかった。

「こいつは既に空港から国際便に乗ったのが確認された。行先はフランス」

 舌打ちが三人分聞こえる。祭、百春、佐助の分だ。

「この人は河童の首以外にもウルフマンやマーメイドの首なんかも集めてるみたいだな」

「正真正銘のクズだな」

 祭が怒りもあらわにそう言った。妖怪ですらない墨善ですら胸糞悪いのだ。祭ならなおさらだろう。

「ま、こいつは私に任せな。適当にやっとくから」

 そう言って、定子さんはパタンとノートパソコンを閉じた。

「え?定子さんもやるんですか?」

「なんだ、墨善。意外か?」

「ええ、まぁ」

 墨善はてっきり『そんじゃ、お前ら行って来い。門限は破るなよ』とでも言われると思っていたのだ。そして、それは他の三人も同様だったらしく驚いた表情をしていた。

「今回はうちの下宿人と最愛の飲み友達まで的にされたんだ。私もね、さすがに怒り狂っているんだよ」

 静かに髪を逆立てていく様を目の当たりにして、墨善達はそれ以上追及するのをやめた。君子危うきに近寄らず、だ。

「と、なると。やっぱりこっちは俺達が片付ける必要があるんだな」

 半ば強引に墨善が話を変える。定子さんが依頼主を何とかしてくれる。なら、そのうちこの懸賞金は取り下げられる。そういう意味で本当は下請けの『組織』を潰す必要は無い。だが、そんなことは彼等を止める理由にはなりはしない。

拳を掌に打ち付ける音が響いた。祭が出した音だった。

「ステラさんを傷つけた落とし前はきっちりつけさせる」

 祭は怒りを刻み込んだ皺を眉間に寄せる。

「ウチもやるで、ここまでコケにされて黙ってられるかいな」

 百春の全身の眼光が鋭く光っていた。気迫を漲らせる女性二人、定子さんもいれて三人の熱気。それに男性陣が負けるわけにはいかない。

「佐助はどうする?」

「行かないと思ってるんッスか?依頼人が片付けられるまで、また襲われる可能性だってあるッス。先手は打って損は無いでしょう」

「俺もそう思う」

 墨善が立ち上がり、三人もそれに続いた。

「まずは武器が欲しい。百春、頼めるか?」

「おう、隣の部屋に準備させとる」

 そして、四人は定子さんから鍵を受け取り、隣の部屋へと移動した。

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