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吸血鬼と9㎜パラべラム  作者: からんBit
19/27

学校 C

墨善とステラは茶室を出て、職員室を抜けて、廊下へと出る。廊下から窓の外を見れば、校舎の外に怪しげな車が数台止まっているのが確認できた。全てが黒塗りのバンだ。結構な人数をかけてきてる。三十人前後ってとこだ。

「素人だと嬉しいな」

「楽観的な観測は嫌いじゃないわ。ピンチなら特にね」

少なくとも吸血鬼は一人いる。しかも装備はこの校舎の遮蔽物をことごとく無効化できるブローニングM2。

 状況は極めてまずかった。

 墨善はMP5を構えて前進する。後方をステラがカバーしているので墨善は目の前にだけ注意しておけばよかった。明かりの落ちた校舎は物陰ばかりが目立つ、身を隠す場所は多数あった。墨善は目の前の曲がり角に銃口の先を見つけた。

 ステラが躊躇わず引き金を引き絞る。驚いたことに後方を抑えてたはずのステラの方が反応が早い。これがキャリアの差だろう。フルオートでばらまかれた弾丸が壁に銃創を刻んでいく。ステラが弾を打ち切るのと同時に墨善が発砲を継続。その瞬間にステラが駆け出した。

「Good night」

 ステラがそんな一言とともに角に滑り込む。弾倉を交換したAUGを構えながら低い姿勢からのスライディング。ステラの目の前にいる四人の男。ステラは床を滑りながら次々と頭を狙い撃つ。スライディングから滑らかに立ち上がったステラの背後で頭の中身をぶちまけた死体が四つ転がっていた。

「随分とあっけないわね」

 記憶にも残らない。それはステラが最も嫌う事柄だった。

「つまらないわ」

「しれっと、言ってるけどな」

 ようやく追いついた墨善から見れば、これをこの程度と言ってのけるステラに苦笑せざるおえない。不意をついたとはいえ、こちらに銃口を向けさせる暇も与えないほどの早撃ち。少なくとも墨善には絶対にできない。

「と、いうわけで墨善。後でスパーリングに付き合って」

「今がピンチだということを忘れそうになる素晴らしい提案だ。前向きに考えとくよ」

 墨善は弾倉を交換。周囲の警戒を行う。ステラも警戒態勢に戻る。

「既に相当数が入り込んでる。適当にあしらって逃げましょう」

 よくそこまでわかるもんだ。その時、墨善は廊下の先で異変を捉えた。墨善はステラの腰を抱えて近くの教室に飛び込んだ。

「くっそ!ステラ、重いぞ!」

「失礼ね。荷物の分よ」

 背後の廊下では多数の銃弾が跳ねまわっていた。ステラは棺桶を床に叩きつけ、足で蓋を蹴り開けた。

「墨善、爆発物は平気?」

本当は使ってほしくない。だが、そうも言ってられない。ステラは既に棺桶から取り出したRPG7を構えていた。ソ連の開発した携帯対戦車擲弾発射器、早い話がロケット弾だ。

「アレルギーはないけどさ」

 ステラは墨善のその返事を許可と受け取った。廊下に向けて倒れ込み、首から上だけを廊下に晒す。その直後、彼女の肩に乗ったRPG7が火を噴いた。こういったランチャー兵器特有の激しいバックブラストが闇夜を照らす。花火が噴き出すような音が校舎に響き、すぐさま轟音と爆風が廊下を駆け抜けた。

「これで、しばらくこの階の教室は使えねぇな」

 戦車を爆破するような弾頭だ。鉄筋の壁でもいくらか吹っ飛ばすぐらいの威力はある。

 授業が無くなるのは墨善には嬉しい限りだが、学校側の修理費の領収書に行く宛は無いのだ。経営難にあえぐのはどの学校も一緒だ。墨善は同情を禁じえない。墨善がここに逃げ込まなければここでは何も起きなかったのだ。

「だがまあ命は一つだ。背に腹は代えられん」

 どちらにせよ、墨善の背ではない。墨善はいろいろな物を諦めて、手榴弾の安全ピンを口で引き抜いた。引っ込んだステラとすれ違うように廊下から手榴弾を投げ込む。爆発を音と皮膚で確かめながら、廊下に銃だけを出してMP5の弾丸も適当にばらまいた。

 爆発の煙の中を弾丸が軌跡を残して通過していく。その空気の流れを読みながら照準を修正しつつ墨善は敵を仕留めていく。

 その煙の中赤いレーザーが線となって光った。墨善はそのレーザーが自分を捉える前に教室の壁に身を隠した。

「機銃?」

 機械的な首振り運動でレーザーが移動する。レーザー感知と共に銃撃を行うタイプの機銃だ。奴が動くものを捉えたら最後、粉みじんになるまで銃撃が飛んでくる。だが、こっちがどこにいるかもわからないのに重い機銃をわざわざ学校内に設置したというのか。

「墨善!」

 ステラの声に反応する前に襟を引っ張られ、墨善は教室の中に引き戻される。その瞬間、先程まで墨善が体を隠していた壁が綺麗に消し飛んだ。

「新手かよ」

「挟まれたみたいね」

 反対側の廊下からも増援がやってきた。しかもまた機銃を担いでる。

「OK牧場の決闘を思い出すな」

「あ、見た?面白かった?」

「詳しい話はこの銃撃戦を抜けた後にしねぇか?」

「私は今でもいいけど?」

「俺は余裕無いんだよ!」

 墨善は足音を頼りに壁越しに銃弾を叩き込む。教室と廊下を隔てる壁程度なら墨善の小口径の弾丸でも抜ける。廊下の向こう側に血だまりを一つこさえて、墨善は弾倉を交換。その間にステラが牽制射撃を行った。

「どうする、このままじゃきりがねぇぞ」

「窓から逃げるってのは?」

 確かに二階程度の高さならお互い飛び降りても怪我はせずに済む。だが、こいつらがそれを許すのだろうか?墨善は窓から外を見やる。そこには正門へと続く道とグランドが見えていた。

「おいおい、なんだありゃ?」

 グランドにはなぜか黒塗りの4WDが堂々と停車していた。問題はそこでは無い、その天井にいる奴が問題だった。

「そこにいたか!人間!」

 吸血鬼とブローニングM2。最悪だった。

 巨大な銃声。墨善は頭を引っ込めてその場に伏せた。自分の後ろで窓ガラスが粉々に飛散する。ボディアーマーに守られていない足に破片が刺さった。

「うぅ!!」

 連射はひたすらに続く。外を覗いた時、一瞬だったがM2に巨大な弾倉がついてるのが見えた。連射は100発や200発で止まるとは思えなかった。

「アハハハハハハ!」

 更に銃声の合間に趣味の悪い笑い声が聞こえてくる。そいつが何よりも最悪だった。銃弾が大量に飛び込んでくる中でも、廊下の敵は行動を緩めてくれない。墨善は痛む体を無理やり動かして、MP5を教室の出入り口に向けて引き金を絞った。中を覗き込んだ男の脳天に三発の弾丸が突き刺さった。

「ステラ、ここはまずい。逃げよう」

 匍匐でステラに近づいて、墨善はそう言った。

 M2が使う12.7mmの弾丸は対物ライフルにも使われる代物だ。物陰に隠れる敵を障害物ごと吹き飛ばす威力を持っている。グランド側の教室の壁が全てが吹き飛ぶのも時間の問題だった。

「賛成、でもどうやって?」

「窓はやめよう」

「それは見ればわかるわ」

 だったら選択肢は廊下しかない。だが、銃撃こそ今は止まっているものの外には多数の銃口が待ち構えている。しかも人間だけじゃなく、銃座が少なくとも二丁はある。M2の射撃に耐えきれず廊下に飛び出したら相手の思うつぼ。一分を待たずに蜂の巣だ。

「前や後ろと同じように上下という考え方があるわよ」

 確かに道はあるが、それにはある程度の破壊力がいる。

「ステラ、RPGはまだあるか?」

「そんなに何本も持ち歩くものじゃないわ」

 世間的には一本持ち歩いてれば十分だ。だが、今の状況を思うとやっぱり一本じゃ物足りない。あの爆発力なら天井や床は無理でも隣の教室への壁ぐらいなら吹き飛ばせるのに。

「でもね、これならあるわよ」

 そう言ってステラが棺桶から取り出したのはかのノーベルさんの発明品だった。

「ダイナマイト・・・なんで、持ってんだ?」

「細かいことは気にしない」

 ステラはダイナマイトを三本、ライターを一本取り出した。こんなことに使われるからノーベルさんが心を痛めてノーベル賞なんてものが生まれたのだな。

「墨善、教室は左右どちらにもあるのね?」

「そういうことだ。どっちに逃げる?」

「気分次第」

 ステラはダイナマイトに火を灯し、教室の前後に設置されている黒板に向けて放り投げた。

 不快な金属の音が聞こえて、チョーク受けにダイナマイトが乗っかる。

ステラが棺桶の蓋を閉め、背中に担ぐ。墨善は這うようにして、教室の窓側に近づく。

 銃撃の中で導火線の火の音が掻き消える。だが、墨善とステラはその目で導火線の行方を追っていた。

 火花が散り、導火線が灰になる。

 そして、着火した。

 激しい爆発が生じる。前後の黒板が粉微塵に吹き飛んで道ができる。墨善が窓からMP5だけを出して闇雲に撃ちまくった。吸血鬼に弾丸なんか通じない。だいたい、この位置で当たるわけがない。だから、目的は別にある。

吸血鬼が銃撃に気付き、銃口を墨善へと向けた。激しい銃撃に晒される墨善。墨善は銃を撃ちながら走り出した。それを追っかけるようにM2の銃弾がこっちに迫る。

 墨善は走り続ける。壊れた壁の穴から隣の教室に駆け込もうと走り続ける。その背後をコンクリを破壊しながら銃弾が迫っていた。

 目の前の机を跳ね飛ばし、椅子を蹴り倒し、体を捻りながら隣の教室に背中から飛び込んだ。そのまま背中で着地して開脚後転の要領で立ち上がる。墨善の目には今までいた教室の机や椅子がただの木片に晒されている姿が見えていた。

「はっはっはっあぁぁ!!」

 その時、吸血鬼の放った咆哮が響いた。咆哮というより笑い声だったが、世間的には咆哮に間違いなく分類される声量だ。銃撃が一瞬止み、次いで墨善がいる教室の窓ガラスが吹き飛んだ。

 墨善はこれを待っていた。

 ステラから受けとったダイナマイトに火をつけて更に後方の黒板に向けて後ろ手に放り投げる。その時には墨善は動きだしていた。机の一つを踏み台に飛び上がり、更に壁を蹴って天井すれすれまで上昇する。体を捻って天井を蹴ろうとする瞬間、墨善の真下を弾丸による死の雨が降り注いでいた。墨善は天井を蹴って元の教室に戻るように向きを修正。墨善が転がりながら着地するのと、ダイナマイトが爆発するのは同時だった。

「ふぅ・・・」

 外からもはっきりと見える爆発だ。吸血鬼は予想通り、爆発を追いかけて明後日の教室に銃撃を加えていた。ステラのような正確な射撃や気配の感知はできないが、墨善には機動力がある。

「墨善、急いで」

「おう」

 そして、銃撃を遠ざけてステラと墨善は別の教室に移動する。全てはノープロブレムだ。

 廊下側の敵の気配も吸血鬼の銃撃に釣られて移動を開始している。このまま、抜け出せるだろう。墨善は警戒しつつ、廊下に顔を出した。

 定石通りに敵が移動している。それはいいのだが、厄介なのは機銃だ。

「あいつら放置していきやがった」

「まずいわね。爆発物使ったらばれちゃうし」

「少し強行する」

 どちらにせよ悩んでる余裕はない。いつM2がこちらに銃口を向けるかわからない。

「行くぞ!」

 墨善とステラは同時に廊下から顔を出し、前後の機銃の足に目がけて銃を連射した。レーザーがこちらを捉える前に銃座が傾き、倒れた。激しい金属音は外のM2の銃撃がかき消した。ステラと墨善は廊下へと抜け、駆け出した。このまま連絡回廊を通り、階段を下って図書館の裏手から外に抜け出せるはずだ。

 連絡回廊の手前。焦らずにステラが立ち止り、手持ちの鏡で廊下を確認した。

「ここも?」

 そこにも機銃が設置されていた。

「一体、何丁持ち込んできてるのかしら。お金だってかかるでしょうに」

「相手さんの経済状態なんかどうでもいいだろ」

「あら、そうかしら?敵国の予算の流れを見て武器開発がどの程度進んでいるのか調べるのは」

「授業は後にしてくれ」

「それもそうね」

 ステラは弾倉を取り換え、また機銃の足を狙って撃った。

「行きましょう」

 だが、連絡回廊の足を踏み込んだ時、予想外の雑音が二人の足を止めた。

「ぐわぁぁ!」

「う、うわぁ・・た、助けうわああ!」

 背後から突如聞こえた悲鳴。

 考えるより先に体が振り返ってしまった。

「ち、違う!俺達はお前に!ああぁぁぁあぁ!」

 阿鼻叫喚の地獄絵図。染料は先程まで墨善達を追い詰めていた奴らの血。絵師は一人しかいない。

「関係あるか!これが奴らを見つけるのに一番確実なのだよ!はははっは!」

 吸血鬼。

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