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吸血鬼と9㎜パラべラム  作者: からんBit
13/27

予兆 B

 二人と廊下で別れ、学校で自分の教室に着いた途端、墨善は後悔することになった。

 祭の態度がおかしいということがどういうことか。墨善はそこに考えが至らなかった自分を反省している。今日は墨善が学校に来ること自体が危険だった。

「ちょっと、夏杵君」

「はい・・・」

「まっちゃんが元気無いの。あんた、なんかしたんでしょ」

「いいえ、身に覚えがございません」

「覚えがないって・・・その態度がまっちゃんを傷つけてるんじゃないの!?」

 いきなりクラスの女子連中に連行され、学校の隅で墨善は正座させられていた。そして、逃げられないようにその周囲を女子に囲まれている。

 一昔前なら『金魚鉢』とか呼ばれていた手法である。今の時代ならこれだけでイジメの現場と認定されてもおかしくない気がする。

「あんた、昨日まっちゃんと会話した?」

「下校の時ぐらいです」

 こっちにとっても身に覚えのない事柄なのだ。いくら叩かれても埃も出ない。

「何言ったの?ことと次第によってはこっちは出るところに出る覚悟よ」

 イジメのフルコースが待っていると暗に脅されている。墨善は早く解放されることだけを願って、金魚鉢の中を泳ぎ続けた。

その後も度重なる尋問と半拷問のようなことを祭の見えないところで受け続けた墨善。拷問に対する訓練も経験し、痛みにも強い墨善なのだが。だからといって、そういうことが好きな人種ではない。

だが墨善も祭の態度がおかしいのは気になっていた。何せ一日の祭の態度は朝のままなのだ。周りの視線や罵声は別に気にはならないが、好いている相手からぞんざいな態度をとられるのはきついものがある。しかも本日は女子勢の壁が厚く、墨善が近づける雰囲気ではない。結局、何の話もできぬまま放課後になった。

「じゃあ、私達部活行くけど・・・なんかあったら、絶対に連絡してね」

「私達、なんでも力になるから」

 そう言い残して去っていくクラスメイト達。教室の片隅でその様子を伺っていた墨善は祭が随分慕われていることを改めて知った。彼女が女性陣に人気があるのは知っていたが、ここまでとは正直思っていなかった。学校内で解決する程度の事柄なら、彼女達は本当に祭の力になろうとするだろう。もちろん、祭が仕事中にピンチに陥った時に彼女達が戦力になるかどうかは甚だ疑問ではあるが。

 そんな皮肉が言いたくなるぐらい、今日の墨善は彼女達に様々な洗礼を受けた。そんな彼女達がいなくなり、祭がようやく一人になる。教室の隅で身をひそめていた墨善はようやく祭と話ができるようになった。

 祭が席を立ったその時、墨善は教卓の裏から身を出した。

「す、墨善」

「なんだよ、化け物でも見たような顔して。それはそれで傷つくぞ」

 近くに人の気配は無いので、墨善は地声でそう言った。

「なんで、そんなとこに」

「こうでもしないと、お前に会えないと思ったからな」

 墨善はへらへらと笑ってみせたが祭に対しては効果なしだ。それでも、出会い頭に『寄るな』だの『話しかけんな』だの言われなかったので多少はましだ。

「墨善!!」

「おう、なんだ」

 だからと言って大声で名前を呼ぶのはやめてほしい気もする。だが、呼ばれたら相手の目を見るのが礼儀というもの。墨善はかなり高い所にある祭に視線を合わせた。すると、みるみるうちに祭は耳まで真っ赤になってしまった。

「ふざけんな!何こっち見てんだ、あぁ!!」

 結局罵倒された。しかも、祭はそれを言った途端にものすごく落ち込んでいる。

 なんなんだ本当に・・・

 とりあえず、祭が落ち着くのを待つことにした。

「ごめん・・・」

「いや、気にすんな」

 謝罪はされたのだが、謝られても何が何だか。墨善はここまでの会話で昨日のことを聞くのはやめようと結論付けた。会話がキャッチボールにならず、銃撃戦の様相を呈してるのがその理由だ。多分、それを聞いてたら話が進まなくなるような気がする。

「で、今日も俺はステラんとこ行くけど、お前はどうする」

「スススッッスススステラさんだとぉ!」

 あの人に何か吹き込まれたんだか。

「ったく、なにやってんだあの人は・・・」

 半吸血鬼を人と表現していいのかどうかは不明だが今はいい。それよりも、ステラが祭をからかってくれたおかげでこっちはいいとばっちりだ。本日一日分の休み時間を返して欲しい。

「す、墨善。私はきょ、今日はえんと、えん、えんろ・・・」

「かみかみになってんぞ、とりあえず落ち着け。な?ほら、深呼吸。吸って、吐いて」

「誰が出産するんだ!?」

「一言も言ってねぇよ!とにかく落ち着けバカ!!」

「お、落ち着いていられるか!こっちは人生かかっとんじゃ!!」

「何の話だ!?」

「と、とにかく!!」

祭はいかにも無理やりといった感じで話をぶった切った。

「私は、今日はステラのとこはいかない」

「あ、そう・・・わかった」

 突然テンションが急降下してしまった祭を目の前にして、墨善も上がっていたボルテージが下がっていった。

「今、行ったら危ない」

「そうなのか?」

「墨善が危ない」

「それって、俺が行って平気なのか?」

「スミヨシダケナラ、ヘイキ」

「なんで突然片言なんだ?」

 少し身の危険を感じ始めてきた。ステラのところに行くのはやめた方がいいかもしれない。でも、佐助も一緒だし、多分大丈夫だろう。

「そっか、とりあえず下駄箱行こう」

「うん・・・そうしよう・・・」

 下駄箱では朝の宣言通り佐助が待ってくれていた。

「墨善、遅いッスよ」

「スミヨシハワルクナイ」

「なんで祭は片言なんッスか?」

「多分、眠いからだと思うぞ」

 背中に張り手をくらい、墨善達は三人で学校を後にした。

「そんで、昨日はどうでした?」

 佐助も祭から張り手をくらった。

「なんで叩くんッスか!?」

「たたかいでか!!昼日中にそんな話すんじゃねぇ!」

 ステラさんが何を吹き込んだのか、健全な男子高校生である墨善と佐助は興味がわいてきた。だが、今それを持ち出すと『鬼』の怪力で骨が粉砕されかねないので二人は目配せして話題を変えたのだった。

「墨善、すみません。今日一緒にステラさんとこ行く予定でしたけど、行けなくなってしまいました」

「え?そうなの?」

「はい、定子さんが仕事に行けって。これから直接向かいます」

「あらら、それはまた大変だな」

「すいません。ステラさんによろしく言っといてください」

「じゃあな」

 駆け出していく佐助を見送る。

「んじゃ俺もいくよ。ステラになんか伝えとくことある?」

 繁華街への分かれ道にさしかかり、墨善は祭にそう言った。

「作戦は失敗したと・・・伝えて・・・」

 本当に何を吹き込んだんだあの人は・・・

 悲しげな祭の中に、猛禽の瞳を見たような気がして墨善は嫌な予感にかられたのだった。



 墨善と別れた祭。

 彼女は激しい自己嫌悪の中にいた。

「うう・・・」

今朝から墨善を罵倒してばかりの一日になってしまった。

 仕方ないじゃないか!!

 昨日ステラさんにあんなことやこんなことや・・・

「ふ、ふざけんなぁ!!」

 そこまで思い出して祭は叫ぶ。驚いた野良猫が塀の上から落ちたが、そんなのはささいなことだ。とにかく、ステラさんから色んな国の愛の形について色々レクチャーされた後で墨善の顔をまともに見れるわけがない。

「あたしとあいつが・・・そんな・・・」

 そして、墨善のへらへらした笑顔を思い出す。

 墨善は本当は私を・・・・どうみてるのだろうか・・・・


 戦友?親友?知人?


 どれをとっても、墨善は決して自分を女性として見てくれていないような気がした。祭は心の中のもやもやを吐き出すようにため息を一つついた。だが、そんなことで自分の感情は消えてはくれない。ため息をついた事実に余計に気が滅入っただけだ。祭はただ一人で顔を赤くしたり青くしたりを繰り返していた。

 その時、携帯が突然鳴り出した。着メロとかではない、無機質なベルの音だ。それを聞いた途端に祭の表情が変わった。そこに悩める思春期の少女はいない。

 いたのは、百戦錬磨の鬼だけだ。

「もしもし」

 非通知設定の相手の電話を祭は立ち止まって耳にあてた。

「あ、祭!つながった!?」

「定子さん?どうしたんですか?」

 仕事の斡旋をしてくれてる彼女からの非通知電話。単なる買い物の相談とかではないはずだ。

「祭、今すぐ・・・」

「あ、ちょっと待ってください」

 祭は下宿の管理人の声を遮る。そして、彼女は持っていた自分の鞄を足元に落とした。

「後でこっちからかけなおします」

 祭はそれだけ言い、返事を待たずに携帯の電源を切った。

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