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ミステリー研究会

住宅街のトイレ

作者: moai

二作目になります。

楽しんで頂ければ幸いです。

「住宅街にトイレがあった」

 入学してからしばらく経ち、クラスにも落ち着きが出てきた頃。昼休みに母親の手作り弁当に舌鼓を打っていた僕に、健悟がそう言ってきた。

 健悟というのは、本名――藤堂(とうどう) 健悟(けんご)。僕の小学生時代からの知り合いだ。つまるところ、友達である。

 友達といっても僕と健悟は取り立てて仲が良いわけではない。クラスの中では、他の人よりは話す方というくらいの仲だ。腐れ縁とは不思議なもので、健悟と同じクラスになるのは高校一年の時点で十回になる。つまり、小学一年生の頃から一緒という事になる。健悟と一緒になるのが嫌なわけではないが、こんなそれほど仲が良いわけでもない二人よりも、もっと引き合わせるべき人たちがいるんじゃないのか、と思ったりもする。

 さて、そんな健悟が数分前、珍しく僕と一緒に昼食を食べたいと言ってきたのだ。僕らは普段は別々、それも専ら一人で食べる事が多い。そんな僕らが珍しく一緒に食べるものだから、クラスの人たちは物珍しそうな目で僕らを見ている。見せんもんじゃないぞ!

 健悟が僕と一緒に何かをしたいと言ってくる時は大抵決まっている。気になる事が出来たからだ。

 僕は手作り弁当のおかずの中から次は何を食べるか迷いながら、健悟に言った。

「気になる事でも出来たの?」

 健悟は「空々しい芝居はよせ」と言いたいような目を向けてくる。流石に何年も一緒だと見抜かれたか。健悟は口腔にある物を咀嚼し終えてから応じた。

「ああそうだ。気になる事が出来た。知恵を貸してくれ」

 引き受けようか僕は考えた。これから読書でもしようか思っていたけど、よくよく考えるとそれは午前で読み切ってしまっていたんだった。となるとこの昼休みは手持ち無沙汰になってしまうわけだ。何もしないというのもまた一興だとは思うけど、それはどうにも時間を無駄にしてる気がしてならない。

 僕は健吾の相談に乗る事にした。

「昼休みの間だけなら良いよ。といってもあと十五分しかないけど」

「助かる。俺もこの時間で片がつかないなら諦める。俺が毎日自転車通学をしているのは知ってるだろう? その時にトイレを見たんだ」

「……悪いが健悟。説明になっていない。トイレを見た事の何処が不思議なんだ?」

「見た事を不思議がってるんじゃない。見た場所に問題があるんだ」

「何処に?」

「住宅街のど真ん中だ」

 正直言ってどう反応していいか分からなかった。あの朴念仁の健悟がどんなものに興味を示したのか、僕自身興味があった。たけどそれがまさかトイレだとは……。

「どうした? 説明はこれで終わりだが」

「健悟。それの何処が不思議なんだ? トイレぐらい何処にでもあるだろう」

「俺だってただトイレがあるだけなら気にもならん。けど周りには公園も無いし、両隣りは普通の住宅だ。おかしくないか?」

 それはまあ確かに奇妙と言えば奇妙だ。だけど何かの見間違いだってある。僕は健悟に尋ねる。

「見間違いの可能性は?」

 しかし、健悟はかぶりを振る。

「それはない。自慢ではないが、動体視力には自信がある」

 確かに健悟は動体視力に秀でている。中学の時は野球部のエースだったらしい。

 なら他には……。

「工事現場にある仮設トイレの可能性は?」

 変わらずかぶりを振る。

「それもない。工事をやっているような様子じゃなかった」

 他には何も思いつかない。なら視点を変えてみるか。

「質問を変えよう。それを見てトイレと判断した理由は?」

 健悟はしばらく頭を俯かせる。

「よく見た事がある字だったんだ。商業施設とかのトイレで」

 それなら見間違いの可能性もないか。

 ここまで考えたところで僕はそもそもの事を健悟に聞くことにした。

「ていうか健悟。通学路にそれがあったんだったら、直接行って確かめてみれば良かったんじゃないか?」

「生憎その時は遅刻しそうで急いでたからな。余裕がなかった。この時間で解けなければそうするつもりだ。で、分かりそうか?」

 健悟に振られて僕は煮え切らない態度を取った。謎事態は大して難しくないものだとは思う。恐らくは健悟の見間違いだろう。問題はあの健悟が一体何をトイレと見間違えたかだ。それがいまいちピンと来ない。僕はしばらく考えに耽る。そして前にある黒板の上にある掛け時計に目をやった。

 昼休み終了まであと五分。流石にあと五分では解けそうもない。謎が解けないのはいささか不本意ではあるが、当人は最終的には自分の目で確かめるって言ってるし、良い暇つぶしにもなったわけだ。そこまで固執する必要もない。

 僕は残りのおかずを口腔にかきこみ、もう諦めようと健悟に言おうとした時、ふとある女子生徒の声が耳に入った。

「私、ちょっと御手洗行ってくるね」

 その女子生徒は教室を出て行く。僕は思わず苦笑してしまった。住宅街なら当たり前じゃないか。どうしてこんな単純で、それでいて重要な事を訊かなかったのだろうか。難しく考えすぎていた。

 僕は口腔にあるおかずを咀嚼し終えて健悟に言った。

「健悟。最後一つ質問。健悟がそれを見てトイレと思ったその漢字は覚えてる?」

「ん? ああ覚えてる。御膳の御に手洗と書いて『御手洗(おてあらい)』だった」

 予想は的中した。僕は空になった弁当箱を片付けながら健吾に言う。

「健悟。健悟がトイレと見間違えたのは『御手洗(みたらい)』という表札だったんだよ」

 昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る二分前。仲良く談笑に興じていた生徒や教室外にいた生徒たちが続々と自分の席へと戻ってくる。

 健悟は少し考える仕草を見せて、得心がいったように幾らか頷いていた。どうやら謎は解決したようだ。結局昼休みを全て使ってしまったわけだけど、僕自身楽しんでいたし、悪い時間ではなかっただろう。いつもは専ら読書をしている僕だけど、たまにこういうのも悪くない。

 僕がそんな事を考えている最中、健悟は弁当の片付けを終えて席を立とうとしていた。

「『御手洗』か。そんな苗字があったんだな。確かにそれならあってもおかしくはない。世話かけた」

 去り際にそれだけ言うと健吾は自分の席に戻っていった。

「このくらいならお安い御用だよ」

 僕も健吾に伝える。

 授業開始を告げるチャイムが教室に響き渡る。それと同時に教師も入ってくる。

 なかなか有意義な時間を過ごせたと自分でも思う。やはり僕は謎が好きなようだ。分かりきってる事だけど。

 日直が号令をかける。謎も良いが、学生の本分は勉学である事も忘れてはいけない。

 僕は頭を切り替えて、午後の授業に臨む事にした。

ご読了ありがとうございます。

今回は展開に無理があったとは思いますが、少しでも楽しんで頂けたのでしたら幸いです。

誤字脱字等がありましたら、ご報告お願い致します。

今回は読んで頂きありがとうございました。

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