第5話 聖女たちの真の仕事。
……の、一部。再びグレシア視点です。
前話冒頭とほぼ同じ時間からスタート。
「まあ、王様がお隠れになられたのですって」
朝いちばんに届けられた書状で、外の大騒動を知ることになるわたしたち。
「え?摂政殿下と十歳しか違わないのでしょう?」
先々代様が首を傾げて、摂政殿下の姉上、そして国王陛下の双子の妹である先代様に視線をやる。
「わたくしと同い年ですものね、そのはずですわ。
国内に戻ってみえないままですから、はっきりとは判りませんが……戦乱の気配が致しますわね」
頷いた先代様が、聞き捨てならないことを述べる。
陛下が外遊に出られたのは、わたしがまだ聖女の任を務めている時だったから知っている。
アルゲンティア、ホーレリア、プレニアと西回りで周辺国を回ってから帰国される予定のはずだった。
「時期的に、プレニアで何か起こったのかしら」
先々代様が宙に浮いたまま、首を傾げている。
そう、本来なら陛下は、新聖女の叙任式にはお戻りになっているはずだったのだ。
その式が目前の今、その報が流れてきたのなら、そして先代様の言うように国内にお戻りでないのなら、消去法で、その最期の場所はプレニア国だろう。
書状の続きを読む。ああ……あいつらか……
「近年……東の大陸で厄介な、新宗教を名乗る犯罪者集団が勢力を伸ばしているのは以前お伝えしましたよね。
奴らがプレニア国そのものを乗っ取り、もしくは征服にかかったようですわ」
書状を他の方にも見えるように開きなおして、お茶会のテーブルの上に置く。
狂信者?新宗教?そんなものではない。あれは、ただの悪質な犯罪者集団だ。
毒物で人をコントロールしている時点で、宗教なんかじゃない。
最初に持ち上げられた男だって、救世主だなんだと言われているけど、調査の結果はただのペテン師、だったし。
聖女は、実はそういう情報網にも噛んでいたりする。
その始まりでは、ただ、全ての怪我人を、病人を、癒すのが役目です、と言っていただけなんだそうだけども。
わたしたちの特性が、情報を集積するのに向いていると気が付いてしまったのは、何代目の方だったのか。
気が付けば、聖女と『花園』は、情報機関の元締めのバックについている、そんな感じの存在にもなっていたのだ、世間の裏側では。
『花の騎士』様がこちら側、というのはそういう事でもあるのよ。
歴代の記憶と記録をその身に宿す、『花の騎士』と呼ばれる者が、今のこの国では情報機関のトップでもあるのだから。
そもそもわたしたち聖女というのは、異能者だ。
同じ資質のある者の過去を読み取る力を持っているものが多い。
わたしにその資質は現れなかったけれど、代わりに、特定の家系のヒトを惹きつける力と、毒物への強い耐性と検知能力が現れた。
なので、近年、件の集団がちょいちょいこの国にその毒物を持ち込んでいるのは知っていたのよね。
わたしの在任中は、流通する前に検挙し、防ぐことができていたけれど。
ともあれ、わたしたちが情報を融通しあえる異能者だからこそ、追放刑は形式的なものにしかならず、わたしたちは追放宣告と同時に、この『花園』に戻るのだ。
わたしたちは、知りすぎているから。
無論、望んでそうすることでもあるのだけどね!
そう、この裏の仕事、いわば副業に携わらないこともできるのよ。
そういった子達は、表向きの聖女の任だけを全うし、前聖女として社会に戻ってゆく。
次のアリシア姫は、話を聞くだけだと、確定でこちら側、かしらねえ。
「プレニア国の動向をどなたか存じておられるかしら」
先代様が首を傾げ、はいはーい聞いてきまーす、と、先々代様が姿を消す。
わたしたちが管理するのはこの『花園』だけだけれど、実は外にも多少の伝手はある。
かつてのこの地は神々に護られた、神の愛な子のための場所だったから。
神々自身の御力は世界から遠く離れたけれど、その残滓が、その係累が、その眷属が。
わたしたちをも、助けてくれる。
この地を護るというその一点に関わることにおいてだけ、だけれど。
隣国にして、海に出るための要衝でもあるプレニア国の存亡は、わたしたちの存在にも重要な存在だ。
そのように理由付けしておけば、多少は応じてくれる者がいる、そんな感じね。
実際、他国との貿易はプレニア国を通して行っている部分が大きいから、この国には重要な存在なのは間違いないのだし。
そう、聖女としての仕事は、追放宣告を受け、『花園』に戻ってからが本当の本番だったりするのよね。
最期まで国の存続と『花園』の安泰の為に働き、最終的にはその守護の力の一部となって生を終える、それが、この国の聖女なのだから。
わたし、そういう意味では『花の騎士』様、摂政殿下には悪いことしたなあ。
特定の家系、そう、聖女の血を残す家系がわたしに惹かれるという性質のせいで、殿下も、陛下も、ちょっとばかり惑わせてしまった。
その自覚はあるのよ、わたしにも。
でも特質って、自分ではどうにもできないのよね。
「あらあら、憂い顔なさってるけど、特質の事はもう気になさらない方がよろしくてよ。
摂政殿下もわたくしも、こちら側なのですし」
先代様も、わたしを特に気に入ってくださっているのは、彼女が今回外地で斃れた陛下の双子の妹君だから、ね。
勿論、それがなかったとしても、聖女の後輩として、存分に可愛がっていただけていたとは思うけど。
「いえ、そうではなく、いやそれも少しは考えてしまいましたけれど……
当分摂政殿下もお忙しいな、と」
あの綺麗な殿下を暫くあまり拝めないのは寂しいなあ、くらいの気持ちですよ。と言い訳しておく。
新聖女の叙任式が済んだら、当分は摂政殿下との連絡は新聖女様経由になりますから、ね。
「あら、そうは言うけど、わたくしが先々代、あなたが先代になるのですから、聖女補佐は当分あなたでしょう?」
……あ、そういえば、そうだったわね。
とはいえ、アリシア姫を補佐しながらだから、こちらもなんだか、忙しいことになりそうね。




