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第23話 わるいゆめの終わり。

 グレシアちゃん視点。

 時系列はちょっと戻って力の行使のあたりから。

 異能が、異変を察知します。

 水を、水源を汚染するだなんて!


 古い東の大陸から来たという軍記物語で読んだことはあるけど、それにしても余りにも野蛮な……


 いえ、それどころではないわ!

 この毒は、人を二度と戻れぬ、愚かしき暴れ者、プレニア国にいる悪しき輩の尖兵に変えてしまう。


 それが全ての民に及べば、ユーレラ国と同じ滅びがこの国にも及んでしまう!


 それにしたって、汚染の広がり方がおかしいのでは?余りにも、速い!

 水に投げ入れたとて、この国の水路を流れる水の速度は一定のはずなのに!


 わたしの異能が判定するその状況は、どうにか周囲の方々にお伝えして、わたしはその異能を全力で解放しました。


 聖女の力には、実は限りがあります。

 わたしは、それを全て使ってしまうことに、決めたのです。


 でないと、誰も助からない。


 全力で、全ての力を出し切る。

 身体にも変調が出る要素であるらしく、本能が強く抵抗してきますが、全てねじ伏せ。


 多分、王都から水源までの汚染は全て吹き飛ばした。

 その感覚と共に、身体が動かなくなり。


 恐らくわたしは、気を失ったのかしら。死んではいない、はずだけど。



『あらあら、グレちゃん無茶するわ』

『とはいえ、そうしないと全滅でしてよ?ただ、それでも一時しのぎですわねえ。諸悪の根源はもう人ではなくなっておりますもの』

『でもそのひと時を凌ぐのが大事なのですわ』


 古の聖女様がたが、囁くようにわたしのことを評しているのが聞こえますが、わたしはどうなっているかしら。


 多分夢を見ている、そんな感じ?

 眠い。意識を保てなくなってきている。あまり、良くない気がする、のだけど……



 わるいゆめ。


 悪夢は子供の頃から、わたしを時折苛むものだった。

 幼い頃は泣きながら目を覚ますなんてこともあったのだけど。


 目覚めると、何故か、いつもマスフィルドのお義母様がいてくれた。

 何も言わずに、問わずに、ただ抱きしめてくれたの。


 あの家に引き取られる前はどうだったろう。

 記憶は、もうすっかりあいまいだ。


 恐らくは行商人の、小さな家。滅多に帰ってこない実父。

 体の弱い……あれ、あの家に、母は、居なかった?

 わたしを見ていたのは、『姉』だ、という微かな記憶の蓋が開く。



 わるいゆめ。


 姉なんて、いない。わたしは、ひとりだ。父は、かえってこなかった。


 ならあれは?面倒なものをみる目で、わたしを見ていた、あの女性は、誰?


 おなかがすいて、泣く力もなくて、それなのに、なにもせずただわたしを見ていたのは。


 思い出せない。


 あれが実の母でないのなら。

 あれが姉でもないのなら。



 わたしは、だれ?



『グレちゃん、グレちゃん、そっちはだめよ』

 だれかの声。先輩?


『あなたは、あなたよ。わたしの可愛いグレシア』

 これは、覚えている。おかあさま。


 でも、あれ?

 この声は。おかあさま。


 この声は、お義母さま。


 おなじ、こえ?


 ねむい。なにもかも、わからなくなっていく。



『マスフィルド子爵夫人って再婚なんですの?』

『もともと子爵と恋仲だったのに、親の勝手で商人の後妻にされたんですって』


 いや待って先輩方、なんでそんな情報が?

 眠気が、吹き飛びましたよ今?!


『よっしゃ起きましたわ』

『ことば、ことば!平民の言葉が出ておりましてよ!』

『言葉を紡ぐのが久しぶりなのですもの、ほほほ』


 どうやら、今まで活動をしていなかった先輩方がおいでのようですが……

 ここはどこでしょう?

 わたしの身体が眠ったままなせいか、周囲の状況は何も判らないままです。

 しいて言えば、真っ白。


『かべのなかにいる』

『正しくは、現世うつしよと半神様の隙間、といったところですかしら』

『ともあれ、貴方は戻らなくてはなりません』


 それまでの言葉をなかったことにするかのように、先輩方がわたしを押しやります。


 ところでお義母さまの話は。


『商人が早死にしたので、持参金持って子爵の所に駆け込んだのですわ』

『子爵もちょうど上の姉弟さんを残して最初の政略結婚の奥様が亡くなっていらしたから』

『でも連れていくはずだったあなたは出ていく当日に乳母に奪われたの』

『あれ変な話よね。誰があんなことさせたのかしら』


 ……はい?

 その話だと、お義母さまが、わたしの実のおかあさま、だということですか?


『そうよー。あなたお父さん似であまり奥様には似ておられないけど』

『マスフィルドの家では普通に幸せそうにしていらしたからまあいいかって誰も言及しなかったけど』

『あの乳母変だったわよね。奪ったくせに路地裏の行商人に押し付けて自分だけ逃げて死んじゃったの』

『おかげでマスフィルド子爵があなたを見つけるまで2年もかかってしまって』


 なんてこと。

 わるいゆめが、本当に悪夢のような出来事だったなんて。


 つまりわたしは、商人の娘グレシア、ではなくて。

 いや、商人の娘ではあるのかな?

 マスフィルド子爵の養女グレシア、ではなく、マスフィルド子爵の妻の連れ子、グレシア?


 ……落ち着いて考えたら、戸籍の状況としては、なにも変わりませんね?


『そうなるわねえ』

『マスフィルド子爵はあなたの除籍を拒否しましたから、無事戻れれば、元のおうちに帰ることもできますわ』

『なにせ、『花園』は、もう無くなってしまいますからね』


『花園』が、無くなる?

 では、あの方が、神のな子たる御方が、目覚める?


(ふふ、もう、目覚めておりますのよ。よく頑張りましたね、小さな聖女)

 不思議な優しい声がして、わたしをふうわりと暖かい力が包み込みます。


(わるいゆめは、もうおしまい。悪しき者はみな花の糧に)


 身体が目覚める感覚がして、すうっとどこかに引っ張られる感触。


 ああ、わたしは、聖女の任を、果たせたのだ。


 でももう聖女ではないわたしは、目覚めたあと、どうしたらいいのかしら?

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