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第18話 『神の裳裾山脈』へ。

 アルケイデス王視点。

 我が国では『オルフェリアの花』とも称される、オルフェリア国の聖女は、神の娘ではなく、人の娘から素質のあるものが選ばれるのだ、という事は知っていた。


 何故なら、我が国の聖女も似たような経緯で選ばれるからだ。

 全国民女性が調査対象となっていると聞くこの国と違い、ファンダニアと同様、神の血を引くと伝承される特定の家系からしか選ばれないというだけで。


 だが、『花園』の前で余が見せられた、数代前の聖女の姿は、今回同道しているファンダニアの神女様の如き、爛々と輝く黄金色の瞳で、神意を告げた。


「この『花園』に住まうと、人からようが離れていくとは聞いておりましたが……ここまでとは」

 隣におわすファンダニアの神女様もこの件はご存じなかったようで、驚きを含む声。


「我が国の聖女は、ひとりひとりがそれぞれ違う能力をお持ちです。

 グレシア様が毒物や薬物に特化しているように、オーリオラ様は巫女としての能力が歴代でも特にお高い方でしたので」

『花の騎士』マウリシオ殿がそのように説明してくれる。


 そういえば、彼は過去全ての『花の騎士』の記憶を持つ、という古文書があったな。


 神代の終わりに、この国が立ってより以降ずっと、『花の騎士』は、『花園』と、そこに住まう聖女たちと共にあったという。


 その長い歴史を、全てか。


「アルゲンティアの王様、我が後輩を宜しくね」

 そして、瞳の色を黄金色から淡い緑色に変えた、宙に浮く聖女オーリオラ殿は、そう余に告げると、ロミレイア様を門の外へ押し出す。


 慌てて受け止め、大急ぎで抱き上げる。

『花園』の外の地面には、できるだけ触れさせるな、と、事前に神女様から忠告を受けていたが故に。


「オーリオラ様、いきなりは酷いですわ」

 余の事は気にもしていない様子で、息の掛かる程の距離にある麗しのかんばせが、先輩への文句を述べる、その様すら、美しくも愛おしい。


 幼い頃に一度だけ訪問した折にお会いした、その記憶が鮮やかに蘇る。

 ああ、まさか本当に、この方をお連れできる日が来るとは!


「だって時間がそんなにあるわけではございませんもの。

 グレシアちゃんの異能で薬の効果を消されて禁断症状が出た暴徒は統率を一時的に失っていますけれど、限度はありますからね。皆様はこのまま山にお向かいくださいね。

 この『花園』の壁沿いに行けば比較的安全ですわ」


 グレシア様の異能は、直接あの毒薬に効果を及ぼすものであったらしい。

 彼女の方はマウリシオ殿に抱き上げられて余のすぐ横まで運ばれているが、目を覚ます様子がない。


「グレちゃんは持てる力を全部使ってしまいましたから、もう聖女ではありません。

 なので本人が歩けるなら歩かせて平気ですよ。

 ただ、目覚めるにはだいぶ時間がかかると思うけど。

 では皆様ごきげんよう!良き旅路を!」


 最後にオーリオラ様はそう述べると、その手で門を閉ざした。


「では参りますか」

「門番当直の君らも本日で任を解く。我らと共に参れ」

「はっ!恐れながら身分が足りて居りませんが、誠心誠意警護に当たらせていただきます!」

「光栄に存じます!」


 門番として警備に当たっていた四名の兵士がマウリシオ殿の命で警護に加わり、王宮貴賓館から警護に付いていた者たち共々、移動を開始する。


 王宮からここまでの距離が知れているからと、徒歩にしたのは失敗だったか。

 だが、余は今回の訪問では、叶う限り古式を踏襲したかったのだ。


 それが、オルフェリアへの誠意だと信じて。



 一時間ばかり歩いた辺りだろうか。後方から動揺の声。


「申し上げます!王宮からただならぬ煙が上がっております!」

「戻ることはならぬ!王宮には聖女アリシア様がおられる!既に退避が始まっているはずだ!」

 マウリシオ殿が後詰めの者からの報告に即答する。


「聖女様方は、情報を伝える術をお持ちですか」

「オーリオラ様より前の方は情報を飛ばすことができますね。わたくしは、なにもできないのですが」

 思わず確認してしまったら、ロミレイア様から回答があった。


「練習はしていると聞いておりましたが」

「それがわたくし、どうにも聖女らしいことが何もできないんですよ、いまだに」

 マウリシオ殿が不思議そうに問いかけ、ロミレイア様が恥ずかし気にそう述べる、その姿も愛らしい……


「先輩方にはわたくしは渉外専門だからそれでよい、と……つい甘やかされてしまいまして」

「……恐らく、戻れるようにしておきたかったのでしょう。皆さまは、この日を予期していたように思います」

 なおも照れ臭そうに述べるロミレイア様に、マウリシオ殿が深刻な顔でそう答える。


「……そうじゃろうのう。

 オーリオラ殿と申したか。あれは妾と同等の、神々への情報照会ができる者ぞ。

 しかも妾と違い、その異能を切り替える事すらできる傑物。

 この時を予期して居ったとしても不思議はない、の」

 専属であるという屈強な女兵士に運ばれる神女様も、そのように感想を述べた。


『花園』から、『神の裳裾山脈』までの距離は、さほど遠くない。

 なんとなれば、『花園』の端は、かの山脈の内にあるという。


 壁の向こう側の音声が、微かに聞こえてくる。


『まあ、ユフレナさんが枯れてしまいました』

『クロベリアも枯れたわ。やはり悪しきものの影響があるものだったのですねえ』

『花園の機能が消えていくのも原因でしょう。我らも支度しますよ』


「クロベリア……?まだ存在していたのか」

 マウリシオ殿が、余が聞き知らぬ植物を知っている様子だったので聞いてみたが、機密に当たるので答えられない、とにべもない。


 まあ例の薬の根源だったというユフレナが枯れたというなら、クロベリアとやらも似たような薬効の植物だったのかもしれないが。


「解毒の薬効を確認するには、毒そのものの知識がないとならぬ故なあ」

 そして、神女様があっさりと真相に近いところを語り、マウリシオ殿がげんなりした顔をした。


 ……マウリシオ殿が人間らしい表情をするのを、初めて拝見した気がするな。

 状況としては、同情を禁じ得ないが。

というわけでこの王様は、幼い頃の恋慕を拗らせる事なくすくすく育った人です。

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