第17話 求婚と水の異変。
今回はロミレイア視点ですよ。
15話の後半、求婚シーンくらいから。
さて、困りました。
まさか、今頃になって十数年以上前の婚約話が蒸し返されるなんて、ええ、全く想定していませんでしたとも。
これが、追放刑の茶番の前後、いえ、せめて五年ほど前くらいであれば、まだ考慮の余地はあったのかもしれませんが……
今のわたくしは、ある程度人としての存在から外れてしまっています。
月のものの訪いも、二年程前からございませんから、人界に戻ったところで、子を成すのも無理でしょうし。
……って。
はい?
神女、様?ファンダニアの?
何故?何故ファンダニアの半神様が国を離れるなどという暴挙を?!
この『花園』に眠る半神様なれば、起きておられればどの国にも赴くことができるでしょう。
彼女はこの国にはおられない守護神ではなく、この世界を創り給いし御方の御子ですから。
ですが、他国……ホーレリアとファンダニア、トーリアに住まう半神様方は、各国の守護神様の御子です。
本来、守護神様の加護の地から離れるなど、ありえない、のですが……
聖女としての能力が、ファンダニアの守護神、デクテラ様の御子に相違ない、とはっきり知らせてくださいます。
そして、神女様は、はっきりと、大姉上様……つまり、この『花園』に眠る半神様を起こす、と宣言なさいました。
『花園』の中心におわし、眠り続けている半神様がお目覚めになってしまわれるのなら、我々歴代の聖女の仕事は、失われてしまいます。
一般の伝承では、半神様はこの『花園』の中央におわすとされていますけれど……
実際には、『花園』の地の下、そのほぼ全域が、彼の方の寝所、なのですから。
そう、神々は、わたくしども人類より、遥かに大きな姿を成すことができるのです。
この『花園』の半神様は、その大きな姿のまま、眠っておられるのです。
勿論、万が一そうなった場合の行動指針、というものはございます。
ですがそれは、既に血肉の体を持たぬ身になられた先輩方のためのもの。
まだ人の身を捨てきれていないわたくしやオーリオラ様、そして出戻ったばかりのグレシア様や現役であるアリシア様には適用されないのですよね。
実体をお持ちでない方々は、半神様の目覚めを促す力として、その存在を半神様に同化させ、その御力の一部となって消えるとされているのですが……
そうでないものは……当代の聖女の指示に従う、としかないのですよ。
更に問題は、アリシア様がまだ引継ぎを完全に終えておられない事。
そちらは、グレシア様にすべてお任せする形になってしまいそうですね。
今も王宮詰め中で不在のアリシア様に代わって折衝をしてくださっていますし……
「……それは、今すぐ、でございましょうか」
まずは確認をしなくては。必要な情報を、引き出さねば。
「今すぐではこの王都の民まで滅びてしまう。避難の時間が必要じゃろう?
その折、成人で、自らの意思で逆らうものは皆置いてゆくがよい。
……汚染が、この国ですら始まっておる故な」
そして、神女様の答えは……我々が恐れていたものでした。
「やはり、そうですか……」
しょんぼりとした声と共に、グレシア様が俯きます。
グレシア様は、薬学に長けた方で、その異能も薬物や毒物に特化したものでした。
ですから、東の大陸やユーレラを滅ぼした薬を、いつの間にか見つけ出しては、持ち主を罰する手助けなどをしておりました。
でも、そうですね。
これまでに、幾度もの侵入があったのなら。
我らの目の届かぬ辺地から、更なる侵入が、あったのでしょう。
王都には我らの力が直接届きますが、国のすべてに届けられる訳ではないのですから。
「王都の民は、『花園』の守護がある故、他の地のものほど強い症状はこれまで出なんだであろうから、気付かぬのも仕方あるまい」
「いえ、わたしは毒物に特化した能力がございまして。
王都の中であれば、あの薬の在処は……えっ……?!」
アルケイデス王に反論しようとしたグレシア様が、突然言葉を切り、虚空を見つめます。
なにかを、察知した?
「なんてこと……!水が、汚染されました……!民の水源地にあの毒を投げたものがおります!」
一瞬、なにを言っているのか、把握しそこないそうになりました。
水を?!
この王都の庶民が使う水源地は、近隣にある湖、それひとつしかないのです。
もう一つ、山脈から流れ来る、湖とは隔離された水源があるにはあるのですが、それはこの『花園』の中でだけ地上に出ているもので、『花園』と、王宮で使う水を賄う程度の水量しかないのです。
「成程、水を汚染することで一気に被害者を増やしたのか……うかつであった」
アルケイデス王が歯噛みします。
ただ、アルゲンティア国の王都の水源は、この『花園』の水源と同様、『神の裳裾山脈』に源流がありますから、そう簡単には汚染はされない、はずですけれど……
かの山脈は、神域の内でございますから。
人には、ましてや邪神への道を歩むような存在には、立ち入ることはできますまい。
「グレシア殿、それは何時頃の話ですか」
マウリシオも顔色を変え、グレシア様に問いかけます。
「ついさっきです。ですが……何故ですか、なぜそんなに拡散が早いのですか……!?」
グレシア様がそう叫ぶと、その異能を全力でお使いになられました。
彼女の力は、毒を知り、毒を制する力。
ですが……規模が、大きすぎたのでしょう。
力を使い果たして倒れるグレシア様を、マウリシオが抱き留めます。
そこに、一陣の風。
「……花の騎士様。アルゲンティアの陛下。神意でございます。
ロミレイア様とグレシア様と共に、『神の裳裾山脈』へお向かいください。
今のグレシア様のおかげで、王宮の者たちには毒は届いておりません。そちらもアリシア様に率いさせ、皆様の後を追わせます」
突然隠していた姿を現し、そう告げたのは、わたくしの先代、浮遊や姿消しを最近になってきちんと修めることができた、とよく披露してくださるオーリオラ様です。
ですが、彼女の瞳の色は、こんな、神女様のような黄金色だったでしょうか……?
今作各人の色合いすらあんまり書いてないですねすみません。




