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第16話 邪神の卵。

マウリシオ視点です。

 完全に、してやられた。

 よもやアルゲンティア王が他国の巫女、否、神女を同道しているとは!


 ああ、聖女の皆様もすっかり驚きの顔だ。想定、されていない。

 我らは普段から、世間には知られていない情報を取り扱いなれているが故に、逆にこういう完全に隠蔽されていた突発事態に、少し弱いな。


 それにしてもアルケイデス王の豪胆な事よ。

 彼は我らの意に染まぬ事にならぬよう、と、本当に最小限の供回りだけを連れて入国した。

 国境には近衛部隊が控えてはいるのだろうが、この国では完全に警護を我らオルフェリアの手の者だけに任せて下さっていた。


 それは本来、我らが他国を訪問するときの作法であり、他国からの貴賓の訪問の際には、少数の警護は付けるのが慣例だったのだが……

 それを、他国の重鎮どころか、本来なら門外不出であるべき他国の神女をも伴って、警護を連れず訪れるとは。



 ……だがそうだな、我が記憶に引き継がれているが、大昔にはそうではなかった。

 今のアルケイデス王のように、訪問者は一切の武装をすることなく、入国するのが習いであった。


 ……そういえばその制度では体面が立たぬ故困るとして、少数ながらも自国の護衛を連れ込んだ最初の者も、ユーレラの王子であったか。

 あの頃はまだアルゲンティアが大湖の国トヴァシュリを併合する前で、トヴァシュリ経由で水路を主に使い、そちらを通ってきたと説明された記憶がある。


 過去の話は今は置いておこう。


 ファンダニアの神女とは、彼の地の守護神の血を直接引く子孫、その中の幼い……血の通いのまだない黒髪の娘の中から、ひと世代に一人だけ選ばれる、神の代弁者だ。

 ファンダニア国では、彼女たちの子孫が数多くいて、候補には困らぬというが……


 ……彼女は、去年代替わりしたばかりの、現役の神女だ。

 そのくらいの情報は、こちらにもある。


 だが。

 今(まみ)えたこの娘は、半ば人ではない、そんな感覚。


 ファンダニアの神女は、今のこの時代ですら、半神なのか。


「アルゲンティアの人の王の言葉は、ひとときの戯れではございません。

 彼の国の巫女、聖女はもとより、妾もそれが必要だと、判断致しました」

 そして神女の言葉は、思いのほかアルゲンティアとファンダニアの関係が深いものであることを思わせるものだ。


 少なくとも、二国の神殿は随分と緊密に情報を共有している、そんな確信を抱かせるような。


「必要、でございますか」

 ロミレイアは、困惑の表情に変わる。

 さもあろう。先代としてこの『花園』に入り、既に十年を過ごした彼女の身は、既に『花園』の外では生きられぬ、半ば人ならぬもののそれのはずだ。


 流石に姿消しや空中浮揚はまだ一切できないと聞いてはいるが、そろそろ練習を始める頃合いではなかったか。


「ユーレラを滅ぼせし輩は、今はプレニアで神慮により足止めを食らっていますが……一度、この国にも足を踏み入れておりまする。先代の御方はご存じでございましょう?

 現在のアレに直接相対し討伐するには、ヒトの聖女である皆様では無理なのです」


 やはりか。

 あの、傲岸不遜な商人の跡継ぎを詐称する男、あれが。


 だが、あの時には普通の人間にしか見えなかった、のだが……


「わたしが……?もしかして、処払いを受けたという……?

 言われてみれば……顔を思い出せませんね?」

 そして、グレシア嬢は、男の顔が記憶から消えていると述べた。


 聖女の記憶が改竄かいざんされる?そんな恐ろしい事態が、今まであったか?

 いや、ない!断じて、ない!


「それは良いのです。貴方方を守護する御方が安全のために消したのでしょう。

 記憶に不用意に留めておくと、それをよすがとして干渉を試みる可能性があります故。

 この国に踏み入れた折のあやつは、まだぎりぎり人のうちにあるものでしたから、嫌味の一つも述べるのがせいぜいだったでありましょうが……

 あやつは一つの大陸と二つの国を滅ぼすことで、邪神へと至る道を完全に開いてしまいました。

【あの不死者を滅ぼせなければ、滅ぶのはこの世界です】」


 続く神女の言葉の最後は、柔らかくも、はっきりと神の言葉として響いた。


 託宣。


 我が国の聖女たちですら、今まで一度たりとも、その域に達することのなかった、神の言葉を放つ、異能。


 いや、我が国の歴代聖女は、神の血を引いている訳ではないのだから、それは無茶振りというものだ。

 それをわが国で成しえるのは、この『花園』の中心で今も眠り続ける半神様だけ、だろう。


「ですので、こちらにお眠りになっておられる我らが大姉上様に、お目覚め頂かないとならないのです。アレは、もはや人の手には負えませぬ故」

 神女はそう述べると、幼い顔に似合わぬ憂い顔で、ひとつ溜息を吐いた。


 そして、その言葉を聞いた『花園』の聖女たちすべてが、緊張の面持ちになるのを、私は見た。


 それはそうだろう。

 もともとこの『花園』は、半神様の眠りを妨げぬために造られた、彼女の望み通りであれば、ある意味奥津城と言える場所。

 世界に何事もなければ、永劫の時を眠り続ける、それが彼女の御意思。


 だがそうだ、神女の言葉通り、この世界が滅びに瀕しているのであれば。

 なれば、そうするしかないのだろう。


『花園』は、終わる。

 そののちに、この国がどうなるかは、判らない。


「……うちの聖女からは、なんとしてもロミレイア様を連れて来い、でないと『花園』の護り手が居なくなってしまう、と脅かされておりましたが……世界、ですか」

 なんとアルケイデス王も、世界の危機そのものの詳細は聞いていなかったのか、そんな感想を述べだした。


「済まぬのう、ここでないと奴の耳目がどこに潜んでおるか判らぬもので」

 成程、情報の隠蔽のために王にも真相のすべてを話さなかった、か。


 どうやら、アルゲンティアへの疑念の目は、私の思い過ごしであったのか?

 些か解せぬ点も、ないではないが……

まーだ疑ってるよこの男……

※王個人を疑ってる訳ではない。

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