第15話 突然の親善訪問。
奇数話は基本的にグレシア視点、たまに別の聖女だけど。(今頃言う?
「アルゲンティアの王がこの国を訪れるそうですよ」
数日後、アリシア様が持ってきた情報は想定外のもの。
「アルゲンティアの王?なんでまた?」
思わずそのまま鸚鵡返しに聞き返してしまったのはしょうがないでしょう?
だって現状あの国、仮想敵国の可能性もあるって話でしたよね?
「親善と友好、それにユーレラの事を相談したい、そうですわ」
「だからといって、彼の国の王が国を離れるとは……」
何故か妙に平坦な口調でそう述べるアリシア様に、先代様が首を傾げます。
「今のアルゲンティア王ってどんな方?」
先々代様は違う部分で首を傾げています。
そういえば先々代様の頃から二代ほど代替わりしているはずだから、これは仕方ないわね?
「今の王は先々代様の時の王の二世代後の方で、まだ即位されて五年といったところですね。
かなりお若い方だと聞いています」
だけど、わたしが知っているのもその程度だ。
「わたくしに縁談が来たことがございますわね。その時にはもう聖女就任が決まっていたのでお断りしてしまったのですけれど」
先代様がそのように言いますけれど……それ今代の王様の話なのです?
いや、今のアルゲンティア王は花の騎士様とあまり変わらぬ年頃のはずですから、そこまでおかしくはありませんね?
「え?ロミちゃんに縁談?」
「わたくしが十歳の頃ですね。あちらも大差ない御年であったかと」
あの方もマウリシオよりは年上なのですけどね、と先代様が微笑みます。
その日はその情報以外は何も進展はなかったので、いつもの日課をこなしておきました。
水やりは相変わらずです。
勿論アリシア様にやり方を教えたりもしますから、時間は少しかかるのですが。
そしてアルゲンティア王とその一行は通告通り、告知の翌週にこのオルフェリアの王都に現れました。
つまり、国境まで来てからあの告知文書を送ってよこしたという事ですね?
確かに友好と親善が掲げられていて、こちらで調べた限り裏もないらしいからには、我が国に彼の入国を拒む理由はないですけども。
こちらの新国王陛下と花の騎士様、いえ摂政殿下と宰相閣下を交えた懇談会などは至極真っ当に、恙なく終わったそうです。
ユーレラ国の滅亡も、正式に通達されました。
これはアルゲンティア国とファンダニア国、それにコーテリア国の三国が共同で調査団を送り、結論付けたのだそう。
ただ、どの国も現状、その地を得る意思はないのだそうです。
トーリア国など、調査団すら送りたくない、という返事であったと、共同調査団の発起人でもあったアルゲンティア王アルケイデス様は述べたとか。
「我が国においては、暴徒の死体の処理がどうにもならぬという結論ですね」
そして今、理由をさらりと述べたのはそのアルゲンティア王アルケイデス様、なのですが。
何故此処に?
確かに彼が立っているのは門番たちの手前であり、『花園』の中に入ってはおられませんが……ここは、外国人の立ち入りは厳正に禁じられた場所のはずなのですが?
(我らにも想定外の事態で……事後承諾になったのは申し訳ない)
そう小声で告げるのは花の騎士様。
……花の騎士様が問題ないとしたなら、まあ大丈夫かな。
(想定外とは?)
(何故か追放刑の内実をご存じでらしてね。姉上にお会いしたいと)
こそこそと、門の内側、柱の陰から小声で話し合うわたしと花の騎士様。
本来ならアリシア様の仕事なのでしょうけど、彼女は今日は陛下の方のご用事で王城の乙女の間の方なのですよね。
なので、今回はやむをえず、先代様……ロミレイア様にも出て頂いています。
先輩方も何故かどなたも異議を申しませんでしたし。
「それにしても、ロミレイア様は時を忘れたかのような美しさですね……余はすっかり老けてしまったのですが」
「そうでしょうか?十分にお若いと思いますが。わたくしやマウリシオは基準にしてはいけませんよ?」
そして続けてロミレイア様を褒めたたえるアルケイデス王に、ロミレイア様はいたずらっぽく笑うとそう答えます。
普段はそういう笑い方はされないので、ちょっとわたしとしても新鮮ですね!
「ご挨拶はここまでとして、本題に入らせて頂きます。
ロミレイア様を、我が正妃として、貰い受けたい」
そしてアルケイデス王が述べたのは、予想はしていたものの、わたし的には、いちばん確率の低そうなところでした。
「申し訳ないのですが、お受けできませんね。五年ほど前なら、まだ可能性もあったのですが」
そしてロミレイア様の回答は、当初の予定通りのそれだ。
ロミレイア様は『花園』に戻ってから、もう十年を過ぎている。
もう、『花園』から離れる事自体が難しいのだ。恐らく外に出てしまえば寿命そのものを縮めるし、更には人間と子を成す事自体が不可能になっている、はず。
子のない正妃とか、お飾り以前ですよね……
「余の王宮にも、この『花園』のような華やかな場所ではないのですが、神々の祝福を得た聖域があるのです。そこであれば、貴女の負担は大きくないと我が国の聖女が申しまして」
おや、アルゲンティア国にも聖女がいるのか。
「そこから先は妾が直接お話させて頂きとうございます」
そこに、王の背後から新たな、少女の声。
見れば、女兵士であるのか、体格の良い、身なりは恐らく貴族のそれである女性の腕に座した、わたしの半分くらいの年齢のように見える、艶やかな黒髪に黄金色の瞳の少女。
ですがこのお二方の装束は、細やかな意匠の黄金と貴石の細工や、これも金糸銀糸の縫い取り縁を持つ打ち合わせ型の衣装に髪を半ば隠すストール、それにスカートではなくズボンを合わせ、先のとがった革靴、という……
これはわたしの知っている限り、ファンダニアの砂漠の民の習俗ではないでしょうか?
「確かにその方が宜しいですね。ああ、皆様。こちらの方はファンダニアのデル・クテル・テレラ様。彼の国の部族神様の血を引くとされる神の娘、そのひとりです」
……は?は?
なんでそんな国外どころか神殿から出る事すらないとされている、砂漠の国の最重要人物のひとりをお連れなのです?
花の騎士様ですら、固まってしまっておられるではないですか!




