第14話 超長期計画と齟齬。
黒幕、登場。
何故だ。
ユーレラ国を潰すまでは上手く行き、それに合わせたプレニア国の動乱も、折よく訪問中だったオルフェリア王の首、という特上の戦利品まで得て、ほぼ上手く行っていた筈なのに。
アルゲンティアの王が動かぬ。
せっかく五百年もかけて、海への道をお膳立てしてやったというのに!
お前の祖に掛かった『拡大の呪い』は、今もその身にあるはずだろうに!
ユーレラ国が王家を喪った事くらい、とっくに情報としては得ていように、まるで動かぬ王を挑発することも考え、プレニア国を東大陸の連中に襲わせたら、あのオルフェリアの王が偶然訪問していたのは、その段階では吾の幸運だったはずなのだ。
だというのに、アルゲンティア王はプレニアへの援軍も出さぬと言う。
挙句、この季節に降るはずのない雪が、プレニアからオルフェリアに続く道全てを埋め尽くして、東からの進軍もままならぬとは!
進軍による神罰?
そんなもの存在しない。出鱈目さ。
かつて海に沈んだ国は、自滅しただけだ。この世界では使ってはならない『魔法』を使おうとして、沈んだ、それだけなのだ。
西大陸諸国では、他国に侵攻しようとして神罰により沈められたなどと流言が飛んで、今や定説になっていやがるが、そもそもあの『魔法』は神罰なんて御大層なもんじゃなかった。
あれは、病に斃れた息子を取り戻そうとした男が、己の魂全てを懸けて発動しようとした、いわゆる蘇生の魔法。
その結果は、国がひとつ、民全てと共に塵と化し、当の息子は復活することなくこれも塵になり。
……結果は十二分に重篤だったし、むしろ神罰の方がマシだった可能性は、なくもない。
そして、その事案から何年かの後。
人と魚が混ざったような姿の怪物が、東大陸に一体流れ着いたのが吾のケチのつきはじめだった。
魚の部分なら食えるんじゃねえか、と、当時飢餓で死にかけていた吾はうっかりとそれを口にした。
実際普通の、そこら辺に泳いでいる白身魚と同じ味だったから、魚の部分は全部食った。
だが、腹を満たして一晩寝て起きたら、もういけなかった。
吾は、元の自分でない顔に、身体に、何故か変わっていたのだ。
ただ、思考だけは、元のままだった。吾は、吾だった。
それきり、傷を負うことも、病にかかることも、それどころか飢える事もなく。
そういえばヒトのように見える部分はどうしたのだったか。犬にでも食わせたか、海に投げ捨てたか。まるで、覚えがないな。
思考が元のままだからといって、安穏とはしていられなかった。
勝手に、どこかから知らない場所の知らない知識が、刷り込まれてくるのだ。
その結果、滅びた国の真相を知ることになった吾は、あちらこちらを彷徨い歩いた挙句、この世界を壊すことに決めた。
吾は、死ぬことのない、生きているともいえない、この世界にとっての異物に変じている、と断定できてしまったからだ。
この世界にある限り、この世界がある限り、吾は、存在し続けねばならない。
ただ、飢えに耐えかねて、浜辺に落ちていた魚に手を出しただけだというのに。
そう、吾が食べたのは、絶対に魚にしか見えない部分だけだ。
しかも、味もちゃんと、普通の魚、だった。それは今もはっきりと覚えている。
長い時の間に、吾と同じ身の上の者が居ないかも探したが、無駄に終わった。
そもそも、そんな怪魚の噂自体を、聞かなかった。
聞いたと思ったら大昔に吾がぼやいた話に尾ひれが付いただけだったのが一番堪えた。
何故そんな余計なことを話したのだ、とも思ったが、似たものを探すには情報を与えるしかないので、仕方がない事だった。
吾が生まれた東の大陸は、太古よりずっと、小氏族が争い続ける無法の地だ。
争いが絶えぬ故に、食料の生産は改善されることなく、人口が増えることもないが故に、どの氏族も強大な勢力に育つことができないのだ。
氏族ごとに見てくれが極度に違うのも良くなかった。己と違う見た目の者を、氏族という小集団は受け入れないのだ。
西の大陸の方はといえば、どこに行っても、そこまで極端な見た目の者はいない。
吾の今の姿も、どうやらこの西大陸の民には普通に紛れ込めるものだった。
そう、今の吾の姿は、魔法を行使したものが蘇らせようとした息子とやらの、それだからな。
消えた国は、在りし日には西大陸の一部だったのだから、そりゃあそうなるだろう。
ともあれだ。
今の吾は、吾が全く関与していなかったはずの罪への神罰とやらを受けさせされている。と言えなくもない。
なんで腹が減って魚を食っただけで、赤の他人の罰を負わされるのか?
そんな不条理は許せんだろう?
ついでに碌な目に遭わせてくれなかった東大陸も滅茶苦茶にしてやらねば、気が済まなないし。
だから。
海神の愛し子と呼ばれる小娘を擁する国ユーレラの王に取り入り、ヒトの姿が混ざった魚の話を、海神の子の話にすり替えて話してやったら、まんまと騙されてくれた。
神罰とやらは荒れる海。
庶民の家が流されることはなかったが、船はすべてダメになる大騒動だ。
ユーレラ王は、小娘を殺し、共に食った重臣たち共々首を斬られ、海神の祭壇に捧げられた。
それで荒れる海は落ち着いたもんだから、一応神もいるんだな、と納得していたら、この王が己の民に呪詛を振りまく悪霊に変化した。
海に出る民の、波長の合うものを昏倒させ、最後には命を奪い己の力に換えるとは、生前のあの愚かな王に出来る事じゃあないはずだが。
だが、そのおかげで、オルフェリアという内陸国を知ることができた。
その地にある特殊な植物が、呪いを除去する力を持っていたのだ。
そして。
吾が世界を壊すための計画に最も必要な性質も、この薬の使われない枝部分に。
そう、ユフレナ、と言ったか。この植物と出会わなければ、吾の計画はもっと遅れていただろう。
今や東の大陸の愚かな小氏族どもは滅びに瀕し、ユーレラも王を喪い、薬漬けの愚民が暴れては倒れてもはや見る影もなく。
ユーレラの愚王を唆して東回りで遠征させたプレニアまでは上手く行っていたのだ。
何が、いけないのか。計画を、もう一度精査せねば。
こいつが自分で薬試してたら話は始まらなかったんだけどなー(まて




