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第13話 噂話と推測。

この回もグレシア視点ですよ。前話の翌日。

「そういうわけで、花の騎士様はアルゲンティア国をもお疑いのようですわ」

『花園』に戻ったアリシア様から、そのような結論をまず聞かされます。


「あの国は大陸の統一を裏の国是に掲げているという噂も昔からございますしね」

 先代様がそう述べて溜息を一つ。


 大陸の統一など、国を分かつための神意がある以上、あり得ない事ですのにね。


 ただ、この大陸の国は、かつては十四か国ありました。

 今は九か国です。


 喪われた五つの国のうち一つだけは、神罰を受け海に沈み、ユーレラとトーリアの間を隔てる、大きな島々と複雑な海流を持つ海になり果てたそうですが、残りの四つは、今はアルゲンティア国に統合されています。


 武力併合ではありません。

 傭兵として他国の支援に行くための経路を借りると称し、そこに補給地点を築き、それをベースにして実効支配し、自国以外との交通を阻害し、最終的には経済的に音を上げた国を吸収してきた、基本はその繰り返しです。


 まあ、我が国に侵攻を試みた結果、衰退が加速して消えていった国もありますけれど。

 うちの国に嫌がらせめいた侵略を試みるのは新興宗教勢力が多いので、国単位の数字にはあまり現れない感じですけどね。


 建国よりアルゲンティアと隣り合わせであったオルフェリアが無事なのは、他国の軍を通すことが神意により不可能な為でしょう。


 他国は併合されてゆく国をみて、そうならぬよう防備を固めたため、これまでどうにかなっていました。

 オルフェリアから見てアルゲンティア国の反対側にあるファンダニア国だけは、アルゲンティア国から見て何もうまみがないという理由で放置されていると聞きますが。

 国土の大半が砂漠で、畑を作れないのだとか。



 恐らく、ユーレラ国は、ユフレナの薬の事さえなければ、アルゲンティア国にここまで搾取されることはなかったのでしょうが……


 ……そもそもかの国のかつての王がやらかした結果が、かの国の風土病と呼ばれていたものだそうなので、自業自得、なのでしょうかね。


 いや、あのおとぎ話が改悪されたような酷い話が発端だとすれば、それは。


「……最初にホラ話を吹き込んだものがそもそもアルゲンティア国の間者だった、とかがありうるんですかね」

 随分と壮大な話ではあります。最終的に国を落とすのに三百年、いえ発端からだともっと時間が流れているような?


「あまりにも古い話ですから、確認のしようもございませんね。

 ただ、アルゲンティア国の裏の国是とやらが本当なのだとしたら、十分にあり得ます。

 ここまで順調に大きくなり続けたのは、時間をかけたから、でもあるのですから、きっと」

 先代様の説明に納得します。


「短期的な効果を求めて侵略戦争を行えば、神罰が下ります。

 それはかつて海に沈んだ国、今は名前すら失われた水底の廃墟が示しているのですから、他国もそれは承知しているはずですもの」

 アリシア様にも説明されてしまいました。


 すみません、わたし、薬学が楽しすぎて集中しすぎた結果、歴史と政治はちょっと苦手でして。


「とはいえ、我らが『花園』が、我が国の民にすらおとぎ話扱いされ始めている世相でもございますから、油断は禁物ですわ。

 いえ、だいたいのことは彼らが自分の責任を負わされることになるのでしょうけど」

 そしてアリシア様の率直な所感にくぎを刺す先代様。


「それにしても滅びたというユーレラ国は今後どうなるのでしょう」

「内陸の農地が使い物になるならコーテリアとアルゲンティアが狙うでしょうね。

 そうでない場合は……アルゲンティアが併合するわね。あの国は海への直接の出口がいまだにないから、こんな機会を逃すはずないわよね」

 素直に疑問を口にしたら、先々代様から明確な推測がお出しされました。


 アルゲンティアの西はユーレラ、南はトーリア、南東はホーレリア、と取り囲まれていて、実はアルゲンティア自身も内陸国なのよね。

 トーリアとの間にある大きな塩湖のおかげで、製塩はできるから我が国よりは塩や海産物は得られるようだけど。


 我が国やアルゲンティアの北側は、人が越えることどころか、立ち入ることすらできない『神の裳裾山脈』があって、人類はその先に何があるかすらよく知らないのが現状です。


 海から回り込んだことがあるコーテリア人の船乗りの手記には、氷に覆われた海の先に神々の住まう地があるのだ、とありましたけど、どうなんでしょうね。


 この『神の裳裾山脈』があるおかげで、比較的北にあるオルフェリアやアルゲンティアの最初の領域でも、農業に適した温暖な土地があるのだとは植物学の講義で聞いた話です。


「プレニア国の方も今はどうなっているのか」

「そっちは北部が大雪で埋まって、オルフェリアとの交通が遮断されているそうよ。神意かもしれませんわね」

 隣国の状況もあまりよいとは言えないのを思い出し呟いたら、先々代様からそんな情報が寄せられました。


「オルフェリアでは雪は積もっておりませんよね?」

「国境のこちら側では降ってもいないそうよ。例年より少し寒いらしいけど、冷害が起こる程ではないだろうって」


 四季というもののない、通年穏やかで温暖な気候のオルフェリアに雪は降りません。

 この『花園』は、『神の裳裾山脈』の麓にあり、山の冷気の影響を受ける区域があるので、多少は寒冷地の植物もいますけど……


 これは、『花園』がここにあるからです。

 全ての花が、何時も、何時までも咲き誇る、神々の楽園の残滓、それが『花園』なのですから。

 オルフェリアの国民はそのおこぼれに預かっている、とも言えますね。


「なんにせよ、まだ情報が足りませんね?」

「すべてを明らかにしたところで、我々のすることは変わらない気もしますけどね」

 決定的な情報が足りないよね、と首を傾げたら、先々代様からもっともなお言葉が。


 確かに、わたし達……聖女・元聖女の仕事は、この『花園』を守り育てること、正にそれだけです。


 国の防衛はオマケのようなものだなんて宣言したら、花の騎士様はともかく、一般の国民の皆さんには怒られそうですけどね。

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