第11話 観測と推定。
再びグレシア視点。メイン主人公は一応この子なので。
時系列は前話と同時期かちょっと後。
「どうも周辺の情報を確認しましたところ……海の方から、あの国はもう終わった、などという不穏なお話が」
結局どうやっても、ユーレラ国の内部を探ることはできなかった、と前置いてから、先々代様が海神様の眷属様方から頂いたらしい情報をくださったのですが……
ユーレラ国が、終わった?
薬がないままに風土病の蔓延でもあったというのでしょうか。
いえ、あの病は海に出ない民には一切現れない、そう聞いたはずですが。
「あと、風土病の原因もそちらから教わりました。
口封じの誓約が切れたとかで……あれ、病ではなく呪いだそうですわ」
そして、誓約が切れた原因は、王家がその係累の一筋すら残さず、完全に滅びたからだ、と。
なんとまあ。呪い、なんて実在するんですね。
「呪いだなどと……何に呪われたというのか」
アリシア様が眉を寄せます。多分、わたしも同じような顔をしていそう。
「そもそものおおもとをただせば、かつて、海神様の愛し子であった娘を……殺して食らった王がいた、というのです」
「……食う?愛し子という存在は、ほぼ、ヒトでありましょうに……食う、ですって?」
しょっぱなからとんでもない言葉を聞かされてしまい、わたしも、アリシア様も、言葉が出せません。
それに疑問を呈することが出来たのは、先代様だけでした。
だって、それって、本来ならその時点で国ごと滅びるレベルの大罪ではありませんか?
神々の愛し子とは、ヒトの内から選ばれ、神を慰撫する存在です。
聖女同様、長年勤めると、人の理から少し外れた存在になるのも確かですが、それでも生き物としては、ヒトのはず。
『花園』で眠っているとされる神の愛な子様は、創世神様の御子、つまり半神でいらっしゃるのでそれとはまた別です。
万一こちらの方に危害が及んだ場合、恐らく人類は滅びるでしょう。
その程度には、格が違います。
そもそも、そのような真似が本当にできるかどうかすら判りませんが。
「ええ、なんでも、海神様の愛し子を食らえば不老不死が得られる、という大嘘を当時の王にまことしやかに吹き込んだ不埒者があったそうで」
「……それって、どこかで似た話を聞いたことがあるような……」
恐ろしい話なのに、なんだかどこかで聞いた気がする、という感覚。
いえ、その話自体は恐ろしいとまでは思わなかったはずです、当時のわたし。
「……わたくしも聞いたことがございますね。確か、そのお話で食べられてしまうのは、魚の一種であったように思うのですけど」
先代様もその話は聞き覚えがあるとおっしゃいます。
……本当はわたしが今は先代で、先代様が先々代様なのだけど、まだ頭が切り替わっていないので、ついそう呼びそうになるし……わたしの頭の中ではいまだに元王女殿下が先代様なのよねえ……
(あーあーあー、私が話したことありますね!確か、東大陸に伝わるおとぎ話だと聞き覚えていますねえ。
上半身がヒトに似た妙な魚を食べたら死ねなくなった、という話で、人間を食べたなんて話じゃなかったですけど!)
幸い、その場に元の話をご存じの方が、といいますか、確かにわたし、この方の声でお話を伺った覚えがありますね!……四十五代目様だったかしら?
「そうでしたそうでした。確かに四十五代目様から伺いましたわ。
『味はまったくの魚のそれであったのに』、というくだりを覚えておりますわ」
「ああ、言われてみればそうですね。
わたしの方は、東大陸におとぎ話のような文化があると思っていなくて驚いた覚えがありますね」
そういえば、その話って最後はどうなってたっけ……まだ死ねずに東大陸を彷徨っている、だった気がしますね?
この国だと、おとぎ話の類に出てくるのは人の目には見えづらい小人さんや魔法を使う妖精さん、時折神様のお使い、とかが大半なので、よく判らない魚と人間しか出てこない話は斬新にも感じましたっけ。
「……つまり、東大陸の何かが絡んでいる可能性もある、のでしょうか」
アリシア様が首を傾げてそう呟きます。
「積極的な関与だとは思い難いですが、この物語があやふやな記憶を介して伝播した結果、内容が自分たちが知っている物事に置き換えられて、その結果として、おかしなことになった可能性自体は否定できませんわね」
先代様が仰る通り、口づての物語というのは、だんだんに変化していくものだ、と、わたしたち『花園』の住人は知っています。
わたしたちが子供の頃に聞かされた物語のいくつかは、そうやって変化したものだと、師匠や古株の皆様に教わった時の衝撃たるや!
物語が最初に現れた頃には発明されていなかったものが取り込まれたり、果てには話の筋書き自体が変わってしまっていたり。
この『花園』に関する情報だってそうです。
今の人たちは、『花園』の護りの力を知らない方も多いそうですから。
現役聖女の頃にお会いした、『花園』を、単なる金になる薬草園だと思っている商人の方とか、結構衝撃でしたよねえ……
確かこの国の方だったから、余計にびっくりしたような。
でも今はもうこの国にはいらっしゃらないはず。
『花の騎士』様と宰相様を怒らせてしまわれましたからね、あの方。
この国は暮らしやすい国ではありますが、王家の方に睨まれてしまえば、そうも言っていられません。
この国の法では、国からの追放という正式の制度が適用されるのは聖女だけなので、恐らく自主的に国を去った、と思うのですが……
……なんだかあの商人の行く末も、きちんと調べた方がいい気がしますね……?
東大陸のおとぎ話の件共々、ちょっと『花の騎士』様に調べて頂くべきでしょうか。
東大陸の御伽噺はホラーと殺伐寄り、西はフェアリーテイル寄り。




