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第1話 追放と『花園』。

新作でーす。

1話ごとに語り手が切り替わるめんどくさい系の話です^^


第一話はメイン主人公、グレシア視点です。一人称。

「グレシア・マスフィルドよ。聖女の地位を謀った罪は許されるものではない。即刻、この国からの追放を申し渡す!」

 摂政殿下のよく通る、言葉の強さと内容のわりに感情の全く感じ取れない声を、聞き流す。


「ご下命、承りました」

 ただそう承諾の意を、いつも通りに述べてから、あ、そうだ、わたしもう聖女じゃないんだった、と思い出すが、まあどうでもいい話だな、と、そのままカーテシーを行う。


 兵士に引っ立てられて荷馬車辺りにでも積まれるのかと思ったら、誰も近づいてこない。

 仕方ないので、自分の足で、ひとりきりで、堂々と退出する。


『偽聖女』なんだから、別に触ったってバチは当たらないわよ?


 ……くらいは言ってもいい気がしたけど、摂政殿下の前でやることではないだろう、多分。



 わたしの現在の名は、グレシア・マスフィルド。

 マスフィルド子爵の庶生の令嬢、ということになっているけど、実際には養女だ。血の繋がりなどない。


 偽聖女呼ばわりで追放刑になったのだし、規定通りなら、今頃籍は抜かれているんじゃないかしら?


 誰も近づこうとしないまま、わたしは予定通りに歩みを進める。

 向かう先は、いつもの居場所だ。


『オルフェリアの花園』。

 他国からそう呼ばれている、王城の真横にある、厳重に壁に囲われた花園が、この国の聖女の居場所。

 わたしも、今朝方まで公式に、そこの住人だった。


 ……実は、今後もそこにいることが、既に決定事項なのだけど。


 追放刑?

『花園』って、この国の所属じゃないから、この場所に入るのは国外に出るのと同じ、なのよ。


 『花園』の、ひとつきりの門には、いつも通りの衛兵。

 彼らもわたしを妨げることはない。


 だからいつも通り、会釈と共に門をくぐる。

 今回の追放刑の実態とは、わたしがこれからは、二度とこの門をくぐることがない、それを貴族たちに周知する、それだけのことなのだ。


 ……要するに、茶番ですわね。



「おかえりなさい、今代も追放劇でしたの?」

「劇ですらなかったですわ。殿下も棒読みでしたもの」

 先代様が、迎えの挨拶と共に、華やかな香りのハーブティーを出してくださったので、有難く頂きながら、感想だけを端的に述べる。


「あらあら、困った殿下ですわね。余程貴女を手放したくなかったのかしら」

 うふふ、と笑う麗しの先代様は、わたしより十歳と幾年か、年長だ。とてもそうは見えないけれど。


 彼女も、追放刑を宣告されて、この『花園』の終生の住民となったクチだ。

 まあ実は、この国の聖女の大多数がこの道を選ぶのだけれど。


 ちなみに、荷馬車に云々は、先々代様の時の『演出』だ。

 その行き先は、当然この『花園』。


 聖女の任期は多少のブレはあるけれど、原則として十五歳からの十年間。

 だいたいの聖女はその間に完全に婚期を逃すからか、じゃあもうここで暮らすのでいいわ、と、決めてしまう人が大半なのだ。


「グレシア、戻ってきちゃったの?

 貴女、ここに来たときはまだ十三だったから、行き先もあったでしょうに」

 その先々代様が、わたしにそんなことを言うけれど。


「いえ、貴族家から放り出されてしまった場合に生きていくための知識がなさ過ぎて、逆に無理ですよ」

 わたしがマスフィルド家に見いだされて養女となったのは、六歳の時だ。

 だから、貴族の娘としての最低限の教養と、聖女として必要な知識以外は、持っていないのよね。


 そんな状態で契約解除されて市井に戻されても、多分生きてはいけない。

 実の両親も、既に居場所が判らないそうだし。


「あー、そういえばそうね……庶民組で居残りになった人少ないから、忘れがち……っと」

 先々代様はそう述べると、くるりん、と優雅に宙返りして姿を消した。


 そう、この『花園』に居続けると、わたしたちは人ならぬものへと徐々に変わっていく。


 その行く末は……実体のない、精神だけの存在。

 花の精霊、そんな風に解釈する人もいる。


 そして、このことは、『花園』の外へは、決して教えてはならない極秘事項でもある。

 なので普段は、当代と先代の聖女しか、外から来た人間には会うことがない。


「……すまない、せっかくの貴女の晴れの舞台であったものを」

 先々代様が姿を消したのは、摂政殿下が現れた、そのせいね。


「いいえ、地味な庶生のわたしには、ちょうどよかったかと」

 そう、あの追放劇は、摂政殿下も演者側なのよ。


 ただこの方、どうにも不器用というか、演技の才能に恵まれておられなくて。


「次代様はコルウェン侯爵家の姫君ですから、追放劇は必要ないでしょうけど……」

「それが既にこちら入りを強く要望されていてな、どこから話が漏れたものか」

 次の聖女はもう決まっている。コルウェン侯爵家のアリシア姫だ。


 この国の聖女は、持って生まれた素質で、なれるかどうかが決まる。

 つまり、この『花園』による改変への適性があるかどうか、だ。


 そして現在のこの国で、その適正がある人間の大多数は、追放されなかった聖女の子孫だ。

 元庶民のはずのわたしも、どこかでその血を引いているらしい。


 追放されない組は基本的に貴族家の妻として迎えられているから、庶民にこの資質が出るのは稀なんだそうだけどね。


「アリシア様のお祖母ばあ様が元聖女でいらっしゃるから、その線かしら」

「だが、秘密の誓いは立てるであろう?」

 確かに追放されない場合は、円満に職を退き、『花園』の秘密を決して語らぬこと、という誓いを立てるのだけれど……


「恐らくアリシア様のほうが勝手に読み取ってしまったんじゃないですかね。

 わたしはできませんけど、先代様は経験がおありだそうですし」

 追放劇の数日前に話し合った結論をちょっぴり漏らしておく。


 殿下は秘密の保持に関してはこっち側なので、ある程度の秘密は共有していただくのよ。


 摂政殿下、この国の王弟マウリシオ様は、終生をこの『花園』そのものに捧げると誓った、聖女の騎士――『花の騎士』と呼ばれる、この国唯一の男性なのだから。

次回はマウリシオ視点になります。

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