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神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
第3章:幸福の境界線

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8/19

曇り空のバースデー

陽太の誕生日当日は、昨日のリビングでの不穏な空気が嘘だったかのように、穏やかで温かな雰囲気で始まった。


学校から帰ると、家の中は食欲をそそる芳醇な香りで満たされていた。リビングの天井には、私と湊兄さんが作ったオレンジ色の輪っか飾りが楽しげに揺れ、テーブルには雫お姉ちゃんが腕によりをかけた豪華な料理が並んでいる。メインのスペアリブは照りよく焼き上がり、摘みたてのハーブが彩りを添えていた。

昨日のあの冷たい声も、縋るような手の震えも、まるで私の悪い夢だったのではないかと思えるほど、お姉ちゃんはいつもの「完璧な水瀬雫」として、穏やかに立ち働いている。


「わあ……! すげえ、これ全部手作りかよ!? まるでお店じゃん!」


招かれた陽太は、リビングに入った瞬間に目を輝かせ、驚きで口をあんぐりと開けた。


「当たり前でしょ! 私と兄さんで、陽太のために一生懸命準備したんだから」

「陽太くん、誕生日おめでとう。さあ、主役なんだから遠慮しないで座って。今日はたくさん用意してあるからね」


湊兄さんが爽やかな笑顔で椅子を引くと、陽太は「あ、ありがとうございます」と照れくさそうに頭をかきながら席に着いた。

食事が一段落したところで、オレンジ色のラッピングに包まれたプレゼントを渡すと、陽太は宝物でも扱うような手つきで慎重に包装を解き、中から出てきたテニス用のリストバンドをじっと見つめた。


「……これ、湊さんが練習で使っているのと同じメーカーのだ。かっこいい……」

「陽太はオレンジが好きでしょ? 兄さんがね、『これなら今の陽太くんに一番似合うよ』って一緒に選んでくれたんだよ」


私が胸を張って言うと、陽太は「サンキュ……大事にする」と小さく呟き、すぐにそれを腕に装着した。夏休みの練習でこんがり日焼けした陽太の肌に、鮮やかなオレンジがよく映えていて、私はそれを見ただけで、胸に溜まっていた昨夜の不安が少しだけ溶けていくのを感じた。


食事の最後、お姉ちゃんが真っ白な生クリームと宝石のような果物に彩られた、大きなデコレーションケーキを運んできた。

「さあ、陽太くん。これも食べてちょうだい。あなたが12歳になるのを祝って、心を込めて焼いたのよ」

「うまっ……! なんだこれ、今まで食べたどのケーキよりもうまい……!」


陽太は大きな一口を頬張ると、感激したように声を上げた。お姉ちゃんはその様子を、慈しむような、どこか聖母のような微笑みを浮かべて見つめていた。その優しさに甘えるように、陽太が本当に心からの感嘆を込めて、無邪気な一言を放った。


「やっぱり雫さんの料理は最高です。将来、雫さんのご飯を毎日食べられる人が羨ましいですよ。旦那さんになる人は世界一の幸せ者だなぁ」


その瞬間。

和やかだった食卓の空気が、まるで瞬間凍結したかのように静まり返った。

お姉ちゃんのフォークを持つ手が止まり、その微笑みが、まるで陶器の仮面のように固定された。


「……ありがとう。嬉しいわ」


お姉ちゃんの声は、どこか遠い場所から響いているように空洞だった。彼女は視線を落とし、小刻みに震える唇で、誰にも聞こえないような低い声で呟いた。


「(……私たちに、そんな資格はないわ。……誰も、この家には入れない。誰も、私たちの秘密には……)」


「えっ? 雫さん、何か言いました?」

陽太が不思議そうに首を傾げた。お姉ちゃんはすぐに顔を上げ、いつもの穏やかな笑顔を作り直したが、その瞳の奥には、昨夜リビングの暗がりに宿っていたあの深い闇が、色濃く淀んでいた。


「いいえ、なんでもないわ。少し、飲み物のおかわりを持ってくるわね。陽太くん、ゆっくり楽しんで行ってちょうだい」


お姉ちゃんは椅子を引いて立ち上がり、キッチンへと消えていった。その背中は、見えない重荷を背負っているかのように、どこか酷く寂しそうで、今にも崩れ落ちてしまいそうに見えた。


「お姉ちゃん……」

心配になってキッチンの方を見送る私に、湊兄さんがそっとテーブルの下で私の手を握った。兄の手は温かかったけれど、その指先はわずかに震えているように感じられた。湊兄さんも、気づいているんだ。お姉ちゃんが抱えている「何か」に。


楽しいはずの誕生日パーティー。それなのに、私の胸には、まるでお祝いの飾りの影が長く伸びるように、拭いきれない不安がじわりと広がっていた。

おはようございます。

作者のFERILUです。


『神様の身代わりー光の兄と罪の妹ー』

を読んでくださりありがとうございます。


今回は陽太の誕生日を水瀬家でお祝いをする話でした。

楽しさと今後のストーリーに関わる伏線を入れています。


最初の方のエピソードを自分で読み返していると、

ボリュームが少なく読み応えがないなと思えてきたので、

今後時間ができたらリライトしてみたいと思います。


少しでも続きが気になると思いましたらブックマーク、お気に入り登録していただけると幸いです。

高評価頂けると励みになります。


コメント・評価も受け付けていますのでお気軽に感想やレビュー、誤字脱字報告お待ちしています。


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