烈日の誓い、そして次の舞台へ
男子テニス部の劇的な逆転優勝からわずか一時間。会場の熱狂が冷めやらぬ中、午後の女子団体決勝戦の幕が上がった。対戦相手は、男子と同じく因縁の修徳館だ。
「女子団体決勝、D2。星和学院、水瀬・松本ペア対、修徳館ペア。試合を開始します!」
審判のコールが響き、私は初夏の眩しい日差しが照りつけるコートに立った。 対峙する修徳館のペアは、鍛え上げられた体躯から威圧感を放っている。けれど、不思議だった。フェンスの向こうで湊兄さんたちの激闘を見ていたせいか、彼女たちが纏う空気は、兄さんの放つ凍てつくような殺気に比べれば、どこか穏やかにすら感じられた。
「みゆ、緊張してる? 大丈夫、私たちが絶対勝つからね」
隣で美咲がラケットを握り直し、私を鼓舞するように声をかけてくれる。
「……うん。大丈夫だよ、美咲」
私は一度深く息を吐き、フェンス越しに湊兄さんを見た。兄さんと目が合った瞬間、心臓が跳ねた。『みゆ。……お前のテニスをしろ』。その冷徹なまでの期待が、私の迷いを焼き尽くす。
第1ゲーム、修徳館のサービス。
「はっ!」
相手の後衛が放ったサーブが、私のバックサイドへ突き刺さる。会場からは「速い!」とどよめきが起きた。けれど――私の瞳は、その軌道を克明に捉えていた。
(……見える。兄さんのサーブに比べれば、止まって見えるくらい……!)
私は最小限の予備動作で、完璧な落下地点へ足を踏み出した。だが、ラケットがボールを捉えた瞬間、衝撃が腕を突き抜けた。
「っ……!? 重い……っ!」
速度は見切っていた。しかし、相手の打球に乗せられたパワーが、私の細い腕を無慈悲に弾き飛ばす。湊兄さんの球は「鋭く貫く」ものだったが、修徳館の選手の球は「重く押し潰す」ような圧力があった。私のラケットは面を保てず、ボールはあらぬ方向へと飛んでいく。
「15-0!」
(……見えていても、まともに受けたら弾かれる。今の私の筋力じゃ、正面からぶつかったら負ける……)
続くポイントでも、相手は私のパワー不足を見抜いたように、深く重い球を執拗に集めてきた。返そうとするたびに手首が悲鳴を上げ、ラケットが握り直せないほどに震える。
「ゲーム、修徳館! 1-0!」
「ゲーム、修徳館! 2-0!」
あっという間にリードを広げられる。美咲が必死にカバーしようとしてくれるが、私のところでリターンが浮いてしまい、格好の餌食にされる悪循環が続いた。
「ゲーム、修徳館! 3-0!」
チェンジコート。絶望的なスコアに美咲の顔も曇る。 ベンチに座る私を、フェンス越しの湊兄さんは微動だにせず観察していた。その視線が、合宿の夜に教えられた言葉を呼び覚ます。
『力に頼るな。剛を制するのは、柔だ。相手の力を利用しろ』
(……そうだ。まともに打ち合っちゃダメなんだ。兄さんの練習で、私は何を学んだの?)
私は震える手でラケットを握り直し、深呼吸した。 第4ゲーム。再び襲いくる重圧のかかったストローク。私は今度はラケットを強く握りしめるのをやめた。インパクトの直前、わざと打点をわずかに後ろに引き、相手の打球の回転をなぞるように、しなやかにラケットを滑らせる。
「……っ!」
まるで合気道のように、相手のパワーを吸収し、その反発力だけを乗せて逆クロスへ「流した」。
「15-0!」
初めて、相手の足元を射抜くリターンが決まった。 相手選手が目を見開く。力ずくでねじ伏せていたはずの1年生が、突然、自分の力を逆利用して反撃してきたのだ。
「みゆ、今の……!」
「美咲、わかったよ。力で勝負しなくていいんだ。相手が強く打てば打つほど、私のリターンは鋭くなる」
私の「先読み」と「受け流し」が、ついに噛み合い始めた。 湊兄さんの球を見続けてきたこの数週間。私の感覚は、知らず知らずのうちに一般の選手のレベルを遥かに超え、その打球の「質」を解体できるまでになっていたのだ。
(もっと柔らかく。もっと鋭く。……そうじゃないと、あの人の隣には立てない)
私の瞳には、もはや対戦相手の姿すら映っていなかった。見ているのは、フェンス越しに私を支配する、あの絶対的な「王者」だけ。
「ゲーム、星和! 3-1!」
反撃の狼煙が、初夏のコートに高らかに上がった。
パワーの差を技術と予見で埋め、私は冷めた頭で、次の一手を選んでいた。
「ゲーム、星和! 3-3! イーブン!」
審判のコールが会場に響き渡った瞬間、星和ベンチから地響きのような歓声が上がった。 序盤、修徳館の重戦車のような打球に翻弄され、防戦一方で 0−3 まで追い詰められたあの絶望的な展開が、今は遠い過去のことのように塗り替えられていく。
(……軽い。さっきまであんなに重かったボールが、今は羽みたいに感じる)
私が湊兄さんとの特訓で、文字通り心身を削って叩き込まれた「受け流し」の技術。相手の剛速球を力で撥ね返すのではなく、その威力を柔らかな関節の動きで吸収し、角度だけを変えて相手のコートへ送り返す。私がその感覚を完全に掴み始めてから、コートの主導権は目に見えて私たちの手に移っていた。
修徳館のペアは、明らかに動揺していた。決まったと思ったスマッシュが、まるで魔法のように足元へ沈められ、渾身のストレートが、軽々と逆クロスへ流される。決定打をすべて無効化され、彼女たちの顔には焦りと苛立ちの色が濃く滲み始めた。
その異様な光景に、観客席の空気までもが変質していく。
「おい、録画のターゲットを変えろ。修徳館の選手じゃなくて、あの1年生だ……」
コートサイドでメモを取っていた他校の偵察部隊が、慌ててビデオカメラのレンズを私に向け直した。
「水瀬湊の妹……。湊のような暴力的なパワーはないが、あの予測の精度と関節の柔軟性は異常だ。湊のテニスが『破壊』なら、彼女のテニスは『無効化』。……これは放置していい素材じゃないぞ。徹底的にデータを取れ。今後の脅威になる」
スパイたちの冷徹な視線が突き刺さるが、今の私にはそれすら心地よい。 一方、コート上の修徳館ペアも、王者のプライドにかけて即座に作戦を切り替えてきた。私の底知れない守備範囲と、打球を殺す「いなし」を嫌い、ターゲットを隣の美咲へと明確に絞ってきたのだ。
「ターゲット変更! 前衛の松本を狙え! 一年生なら、一点を集中攻撃すれば必ず綻びが出る!」
執拗なまでに美咲の足元を狙う、鋭く重いショットの連発。美咲の顔に緊張が走る。 しかし、今の私には相手の肩の入り方、手首の角度、そして視線の僅かな動きで、次の一球がどこへ放たれるか、数秒先の未来のように手に取るようにわかっていた。
「美咲、右! 踏み込んでボレー!」 「わかった!」
私の短く鋭い指示。美咲は一切の迷いなく、右側へ一歩大きく踏み出した。そこに、獲物を狙う鷹のように相手の打球が吸い込まれていく。 ――パァン! 待ち構えていたかのような美咲の完璧なリターンが、修徳館の冷徹な狙いを真っ向から粉砕した。
「4-3! 星和学院、ついに逆転!」
「みゆの読み、本当にすごい……! まるで背中に目がついてるみたいだよ!」
美咲が額の汗を拭いながら、興奮気味にハイタッチを求めてくる。その手のひらの熱さが、私たちの絆を再確認させてくれた。 フェンスの向こう側では、陽太が身を乗り出し、「いいぞ! そのまま押し切れ!」と顔を真っ赤にして拳を突き出している。そして、その後ろで腕を組んだままの湊兄さんが、満足げに口元をわずかに、本当にわずかに緩めるのを、私は見逃さなかった。
だが、さすがは名門・修徳館。ここからが本当の地獄だった。 彼女たちは敗北の恐怖を力に変え、再びなりふり構わぬパワープレイで押し返してくる。私の「受け流し」も、蓄積した腕の疲労で僅かに精度が狂い始める。一進一退の、息もつかせぬ泥沼のラリー。 「4-4」 「5-4」 互いに一歩も引かない展開に、観客も固唾を呑んで見守っている。
(……次が、最後。絶対に、ここを勝ち取る)
第10ゲーム、私のサービスゲーム。相手は最後の賭けに出るように、再び私に重い打球を集めてきた。一球ごとに腕が千切れるような衝撃が走る。けれど、湊兄さんのあの暴力的な打球を浴び続け、涙を堪えてラケットを振り続けたこの一ヶ月間が、私の精神を鋼のように支えていた。
(兄さんの球に比べれば、これくらい……!)
最後の一本。追い詰められた相手が放った、苦し紛れの高いロブ。 真夏の太陽が逆光となり、ボールが光の中に溶け込む。誰もが「見失った」と思ったその瞬間、私は湊兄さんに教わった「視界をぶらさないフットワーク」で、最短距離を駆け抜けた。
「――これで、終わり!」
渾身の力ではなく、相手の重さをすべて奪い取るような最速の振り抜き。 パァン、という乾いた音が会場に響き、ボールは鋭い弧を描いて相手コートの角、白線の上に突き刺さった。
「ゲームセット! 6-4、星和学院、水瀬・松本ペア!」
「やったぁぁぁ! みゆ、勝った、私たち勝ったんだよ!!」
美咲が泣き出しそうな顔で飛びついてくる。私はその小さな温もりを抱きしめながら、フェンスの向こうの陽太へと視線を送った。陽太は満面の笑みで、何度も、何度も大きく頷いてくれている。
コートを去り、戻ってきた私たちを、坂上先生がこの上なく穏やかな表情で迎えてくれた。
「水瀬、松本、実に見事だった。序盤の 0−3 という絶望的な状況から、よく自分たちを信じて立て直したな。特に水瀬、修徳館の誇るパワーを、自分の技術へと昇華させて封じ込めたのは大殊勲だ。お前たちのこの勝利が、星和に勝利の女神を呼び込んだ。よくやったな」
先生の深く温かいねぎらいの言葉に、張り詰めていた緊張が解け、視界がじんわりと滲む。 けれど、星和学院の戦いは、まだ幕を閉じたわけではない。
「みゆ、美咲、最高のバトンをありがとう。……次は、私たちの番ね」
D1のコートへ向かう、佐藤先輩と伊藤先輩。 私たちの劇的な勝利で、会場の空気は完全に星和のものになっていた。
「佐藤先輩、伊藤先輩、頑張ってください!」
私たちの声援を背に、星和の2年生ペアが、さらなる勝利を目指してコートへと足を踏み出した。
美咲と一緒にフェンス越しに声を張り上げる。男子のベンチからも、陽太が「佐藤、お前の姉貴すげーな!」と、春花先輩の弟である佐藤健二くんに話しかけているのが聞こえた。
試合は、まさに意地と意地のぶつかり合いだった。
「あや、前! 決めて!」
春花先輩の鋭いクロスショットを起点に、伊藤先輩が果敢にネット際へ飛び出す。しかし、修徳館のペアも徹底したロブ攻勢で彼女たちを揺さぶる。
「……さすが修徳館ね。前半のリードもものともせず、もう立て直してきている」
私の隣で、出番を待つ高城部長が鋭い眼差しでコートを見つめていた。 一進一退の攻防が続き、ゲームカウントは5-5。最後は修徳館の執拗なストレート攻撃に一歩及ばず、セットを落としてしまった。
「ゲームセット! 修徳館、7-5!」
「ごめんなさい、みんな……!」
肩を落として戻ってきた二人を、坂上先生が温かく迎える。
「気にするな。お前たちの粘りが、チーム全体の士気に繋がる。無駄な一本なんて一つもないぞ。あとは、今日の試合で何処が欠けていたかしっかり見直せ。それがお前たちへの課題だ」
対戦成績1勝1敗。勝利の天秤が揺れる中、S3のコートへ向かったのは3年生の鈴木先輩だった。 鈴木先輩は、いつも高城部長の隣で静かに微笑んでいる安定感抜群の選手だ。派手なエースを狙うタイプではないけれど、そのプレイスタイルは驚くほど堅実だった。
「……信じられない」
私は思わず呟いた。 鈴木先輩は、どんなに厳しいコースを突かれても、まるで最初からそこにボールが来ると知っていたかのように淡々と返球を続ける。ミスをしない。ただそれだけのことが、どれほど相手にとっての絶望になるかを、彼女は身をもって示していた。
「鈴木先輩、一歩も引いてない……」
「ええ。唯は星和で一番『折れない』選手なのよ」
高城部長の言葉通り、修徳館の選手が焦りから自滅していく。鈴木先輩は最後まで表情一つ変えず、淡々と、けれど確実に勝利を掴み取った。
「ゲームセット! 6-3、星和学院、鈴木!」
「やったぁぁ! 2勝目!」
美咲と抱き合って喜ぶ。これで星和学院の2勝1敗。 いよいよ優勝まであと一つ。バトンはついに、星和の「女王」高城部長へと渡された。
私はふと、男子部員たちが集まるフェンスの向こう側を見た。 陽太が飛び跳ねてガッツポーズをする横で、湊兄さんは椅子から立ち上がり、私に向かって短く頷いた。その瞳には「よく見届けておけ」という無言のメッセージが込められているようで、私は再びコートへと向き直った。
「女子団体決勝、S2。星和学院、高城選手対、修徳館、藤堂選手。コートに入ってください!」
いよいよ、大トリの幕が上がった。女子部の絶対的支柱である高城紗良部長がコートへと足を踏み出す。対戦相手の藤堂選手は、修徳館が「確実な一勝」を期して送り出した実力者だ。
「部長、頑張ってください!」
「私たちは信じてます!」
私と美咲はフェンスに張り付き、祈るように声を張り上げた。高城部長は優雅に一度だけ振り返ると、私たちに凛とした笑みを向けてくれた。
試合が始まると、そこには1年生の私たちには未知の領域のテニスが広がっていた。 高城部長のテニスは、湊兄さんのような暴力的なパワーでも、私の「先読み」による回避でもない。相手の得意なショットを、あえて同じ、あるいはそれ以上の精度で打ち返し、相手の自信を根底から打ち砕くような「支配」のテニスだった。
「……すごい。何なの、あのコントロール……」
美咲が息を呑む。 高城部長は、相手が渾身の力で打ち込んでくる高速クロスを、さらに鋭角に、針の穴を通すような正確さでリターンしていく。
修徳館のベンチからは、動揺と焦りが混じった声が漏れていた。
「……ッ、何なんなのよあの星和の部長は! 去年は県大会の早い段階で消えてたはずでしょ!?」
「データがないの……! 去年ノーマークだったのが完全に裏目に出たね。あんな精密なテニス、対策なしで攻略できるわけがないわ!」
控え選手たちが、なすすべもなく圧倒される自校のエースを見て顔を青くしている。
「ゲーム、星和! 4-0!」
フェンスの向こう側、男子のエリアでは陽太が言葉を失って立ち尽くしていた。湊兄さんは腕を組み、満足げな表情でその光景を眺めている。
「高城は、相手を『絶望』させる方法を誰よりも知っている。……ある意味、俺よりタチが悪いな」
湊兄さんの低い声が風に乗って聞こえてきた。
最後は、追い詰められた相手が放った決死のスマッシュを、高城部長が吸い付くようなボレーで優しくドロップショットに変え、ネット際へ沈めた。
「ゲームセット! 6-1、星和学院、高城!」
その瞬間、審判の声がかき消されるほどの歓声が沸き起こった。
「……終わった。私たち、本当に優勝したんだ!」
私と美咲はどちらからともなく抱き合った。2年生や3年生の先輩たちも、涙を流しながらコートへ駆け出していく。
先日の県大会に続き、この地区大会でも成し遂げた男女アベック優勝。星和学院テニス部が、名実ともにこの地区の絶対王者として君臨した、歴史的な瞬間だった。
表彰式を終え、夕闇が迫り始めた頃。後片付けを終えた私は、部室の裏で一人、手に残るラケットの感触と、優勝旗の重みを思い出して震えていた。 「みゆ」 低く、落ち着いた声。振り返ると、そこには湊兄さんが立っていた。
「……兄さん」
「よくやった。……今日の試合、お前の成長は俺の想像を超えていた。高城の指導もあっただろうが、お前自身の意思が、あの勝利を掴んだんだ」
兄さんが歩み寄り、私の頭に大きな手を置いた。いつもの冷徹さは影を潜め、そこには純粋な称賛と、妹を慈しむような穏やかな熱が宿っていた。
長く、熱い一日が終わろうとしていた。表彰式を終え、部員たちが片付けを済ませてバスへと向かう中、私は忘れ物を確認するために誰もいなくなったサブコートへと戻った。
西日に照らされたコートは、激戦の跡を残して静まり返っている。そこには、既に二人の先客がいた。湊兄さんと、陽太だ。
「……膝の具合はどうだ、陽太」
湊兄さんが、ラケットバッグを肩にかけながら静かに問いかける。
「はい。坂上先生にアイシングをしてもらったので、だいぶ楽になりました。……湊さん、今日は本当にありがとうございました」
陽太は深々と頭を下げた。その姿は、朝までのどこか危うい後輩のそれではなく、修羅場を潜り抜けた一人の選手としての落ち着きを纏っていた。
「俺に礼を言う必要はない。お前を動かしたのは、お前自身の意志だ。……だが、今日掴んだ『視覚』の感覚、忘れるなよ。それが全国で戦うための最低条件だ」
「はい!」
陽太の力強い返事が、夕暮れの空に響く。 私はそんな二人の、師弟のようでもあり、戦友のようでもある空気感を壊さないよう、ゆっくりと歩み寄った。
「あ、みゆ。忘れ物か?」
陽太が私に気づき、少し照れくさそうに笑う。
「うん。ベンチの近くに水筒を忘れちゃって……。二人とも、まだ反省会してたの?」
「湊さんと、少しだけこれからの話を。……みゆも、今日は本当にお疲れ様。松本とのダブルス、最高だったよ。隣で見てて、鳥肌が立った」
「陽太こそ。あの場面からの逆転、見てるこっちが心臓止まりそうだったんだから。でも、本当にかっこよかったよ」
私たちが笑い合っていると、湊兄さんが不意に視線を、茜色に染まる遠くの空へと向けた。
「……さて、帰るか。地区大会はあくまで通過点だ。俺たちの本当の目標は、まだ先にある」
湊兄さんの言葉に、私と陽太は顔を見合わせた。 怪我、棄権の危機、そして強豪たちの執拗な攻め。この数週間に起きたすべての出来事が、今の私たちを形作っている。
「兄さん……。私、テニスを続けて本当に良かった。自分の中にある『強さ』を、今日初めて信じられた気がするの」
私の言葉に、湊兄さんはわずかに目を細め、私の頭にポンと手を置いた。その手はとても大きく、温かい。
「そうか。……なら、次はそれを『揺るぎないもの』にする番だな」
夕闇が迫る中、私たちは三人並んで歩き出した。背後には、今日私たちが刻んだ熱戦の記憶を飲み込むように、長い影が伸びている。
美咲との絆を取り戻し、陽太が覚醒し、そして湊兄さんが完全復活を遂げた夏。 星和学院テニス部の物語は、ここで終わりではない。 この烈日の下で交わした誓いは、やがて来る全国という最高の舞台で、さらなる熱量を帯びて輝き始めるはずだ。
私はバッグを握りしめ、前を行く湊兄さんと陽太の背中を追って、力強く一歩を踏み出した。
おはようございます。
作者のFERILUです。
『神様の身代わりー光の兄と罪の妹ー』
を読んでくださりありがとうございます。
大会編終了です。
全国大会の前に学園の話に一旦戻ります。




