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神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
題7章:夏の大会 受け継がれる意思

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43/62

女子予選開始、コートに咲く花

翌朝、窓の外から響く蝉の鳴き声が、すでに気温が上昇し始めていることを告げていた。 私は早朝に目を覚まし、鏡の前で公式試合用の白いスコートに袖を通した。清潔な布地が肌に触れるたび、昨日までの練習の日々が、今日という「結果」を求める一日へと繋がっていることを実感し、指先が小さく震える。


「みゆ、準備はいい?」


リビングへ降りると、お姉ちゃんがすでに朝食を用意して待っていた。

「うん、大丈夫。……湊兄さんは?」

「もう出たわよ。男子は今日試合がないけれど、会場の視察と練習コートの確保があるんですって。……あの子、自分の試合以上に気合が入っているみたいね」


お姉ちゃんは、私の分のお皿を並べながら、いたずらっぽく目を細めた。

「昨日の夜も、あなたのラケットの重さをこっそり確認していたわよ。……『今のこいつなら、このバランスが一番振り抜けるはずだ』なんて、独り言を言いながらね」


「……兄さんが?」

胸の奥が、熱いもので満たされていく。口では厳しく突き放すようなことを言っても、兄さんの心はいつだって、私のプレーを一番近くで見守っている。その事実が、私に戦うための勇気を授けてくれる。


玄関を出ると、夏の濃い緑の匂いが立ち込めていた。駅へと向かう道すがら、スマホが震える。


『みゆ、おはよう! 今日は絶対勝てる。俺も朝練終わったらすぐに会場に向かうから。自分を信じて、思い切り暴れてこいよ! 会場で待ってる。』


陽太からの、真っ直ぐで力強いメッセージ。 画面から彼の明るい笑顔が浮かんでくるようで、強張っていた肩の力がふっと抜けた。 兄さんが授けてくれる「静かな自信」と、陽太がくれる「前向きな活力」。その両方を抱えて、私は決戦の地へと向かう電車に乗り込んだ。


会場となる総合運動公園は、到着した時点ですでに異常な熱気に包まれていた。 真夏の太陽が容赦なくアスファルトを焼き、陽炎がコートの向こうでゆらゆらと揺れている。 会場入り口で待ち合わせていた美咲と合流し、私たちは星和学院の女子部員たちが集まる陣地へと向かった。


「おはよ、みゆ。顔色、悪くないわね」 美咲が私の背中を軽く叩く。 「美咲もね。……いよいよだね」 「ええ。合宿であれだけしごかれたんだもん。1年生だからって、ナメられたままじゃ終われないわよ」


私たちは公式の練習コートへと移動し、軽く打ち合いを始めた。 ボールを打つたびに、身体の中に眠っていた合宿の記憶が呼び覚まされていく。打点、足運び、呼吸。 その一つ一つが、今日この場所で勝利を掴むために、これ以上ないほど研ぎ澄まされていくのを感じていた。


ふと、フェンス越しに、会場の設営を確認している男子部の一団が見えた。 その中心に、周囲を威圧するような静かな気迫を纏った湊兄さんの姿があった。 兄さんは一瞬だけ、私のいるコートに視線を向けた。 言葉は交わさない。けれど、その鋭い眼差しが「不甲斐ない試合はするな」と、私に無言の激を飛ばしているのが分かった。


(見てて、兄さん。私、今日、絶対勝つから)


私は兄さんの視線から逃げることなく、より深く重心を落とし、目の前のボールを力強く叩き抜いた。


「整列!」


顧問の坂上先生の声が、大会会場の喧騒を切り裂いた。星和学院女子テニス部のメンバーが、真新しいコートの脇に一列に並ぶ。先生の手には、本部へ提出するオーダー表が握られていた。


「初戦のオーダーを発表する。ダブルス2、水瀬・松本。ダブルス1、小林・佐藤。シングルス3、高城。シングルス2、伊藤。シングルス1、鈴木だ」


名前を呼ばれた瞬間、私の背筋に冷たい緊張が走った。団体戦の勝敗を左右し、チームの士気を決定づける「先陣」に、1年生の私たちが選ばれたのだ。


坂上先生は眼鏡の奥の鋭い瞳で、私と美咲を交互に見据えた。

「水瀬、松本。お前たちを先鋒(D2)に置いたのは、合宿での結果を考慮した、松本の根性は1年生の中では群を抜いている。水瀬は河村との形式戦で水瀬(兄)と高城の試合で勝利を収めた結果も参考にした。1年生だからと気負う必要はない。お前たちが合宿で積み上げてきた成果を、そのままコートにぶつけてこい。星和の勢いはお前たちが作れ」


「はい……!」

「お任せください!」


私と美咲の声が重なる。先生の「練習の成果を期待している」という言葉が、重圧を確かな自信へと変えてくれた。


「第1試合、ダブルス2。星和学院、水瀬・松本ペア。コートに入ってください!」


審判のコールとともに、私たちは照り返しの厳しいコートへと足を踏み入れた。その瞬間、フェンス越しにひときわ大きく、聞き慣れた声が届いた。


「みゆ! 美咲! 落ち着いていけよ! 練習通りやれば絶対勝てるから、自分を信じろ!」


声を枯らして叫んでいるのは、朝練を早めに切り上げて駆けつけた陽太だった。隣には田中くんもいて、大きく拳を突き上げている。

「陽太……」

その真っ直ぐな応援が、強張っていた私の指先に確かな熱を吹き込んでくれた。陽太と誓った「隣に立つ」という約束。泥臭く食らいつき続けた彼の背中を思い出し、私はぐっと足元に力を込めた。


しかし、陽太の声に励まされて視線を巡らせたとき、私はさらにその奥、本部席近くの大きな木陰に立つ、凛とした人影に気づき、思わず息を呑んだ。


湊兄さんだった。


男子部は第1シードで今日は試合がないはずなのに、兄さんは腕を組み、微動だにせずこちらを凝視していた。 陽太のような派手な声援はない。けれど、陽太の叫びよりも鮮明に、その沈黙の視線が私の全身を射抜いていた。それは、昨夜の廊下で見せた「兄としての自制」と、すべてを見透かそうとする冷徹な「指導者」の目。


(先生の期待に応えなきゃ。陽太との約束も。……でも、それ以上に、兄さんに認められたい。私がただ守られるだけの『妹』じゃないことを、このコートで証明したい……!)


相手ペアは他校の3年生。1年生である私たちを見て、鼻で笑うような余裕を見せている。

「みゆ、集中。相手、左利きだよ。スライスに気をつけて」

美咲が隣で短く呟いた。

「わかってる。美咲、最初のサーブ、思い切って打って。前は私が仕留めるから」


審判が右手を上げ、試合開始を告げる。


「第1試合、星和学院、水瀬・松本ペア、サービス。プレイ!」


「15-0(フィフティーン・ラブ)!」


美咲のサービスエースで幕を開けた試合は、開始早々から激しい火花を散らした。 相手の3年生ペアは、私たちの「星和学院1年生」という肩書きにプライドを刺激されたのか、なりふり構わず攻めてくる。特に後衛の選手は、体格差を活かした重いストロークを、執拗に私のバックハンドへと集めてきた。


(狙われてる……!)


中学テニスの定石。経験の浅い下級生を狙い、ミスを誘ってリズムを崩す。 けれど、彼女たちは知らなかった。私がこの一週間、世界ジュニアを狙う湊兄さんの、あの「消える」ような速度のノックを何百球、何千球と受け続けてきたことを。


「……遅い」


思わず口から漏れた言葉は、自分でも驚くほど冷淡だった。 相手の渾身の強打が、スローモーションのように見える。私は湊兄さんに叩き込まれた通り、重心を極限まで低く保ち、ボールの跳ね上がりをライジングで捉えた。


「30-0(サーティ・ラブ)!」


鋭く鋭角に突き刺さる私のクロスに、相手は一歩も動けない。 フェンス越しに、陽太が身を乗り出して叫ぶのが聞こえる。

「いいぞ、みゆ! その打点だ! 練習通り、足動いてるぞ!」

陽太の声は、まるで私の背中を力強く押す手のひらのようだ。彼の真っ直ぐな応援を受けるたび、私の身体は羽が生えたように軽くなる。


しかし、一球ごとに私は無意識に「その先」を探してしまう。 本部席近くの木陰。腕を組み、微動だにせずこちらを見つめる湊兄さんの視線。 陽太の応援が私に「勇気」をくれるなら、湊兄さんの視線は私に「覚悟」を強いる。

『みゆ、お前のテニスに迷いは要らない。コートに立つなら、一人の選手として俺を納得させてみせろ』 かつて練習中に言われたあの厳しい言葉が、幻聴のように耳の奥で鳴り響く。


「みゆ、来るよ! ネットプレー!」

美咲の鋭い叫びに、私は反射的に前へ飛び出した。 相手が苦し紛れに放ったロブ。風に流され、太陽の光と重なる難しい打球。 普通の1年生なら、眩しさに目を細めて守りに入る場面。けれど、私は逃げなかった。


(今……今、見せてあげる。私が、兄さんのノックで何を得たのかを)


空中で身体を捻り、一切の軸をぶらさずにラケットを振り下ろす。湊兄さん直伝のジャンピング・ボレー。 「パァン!」という乾いた乾いた破裂音が、夏の静寂を切り裂いた。 ボールは相手のラケットを弾き飛ばし、ベースラインの内側に深々と突き刺さる。


「ゲームセット! ゲームカウント 6-2、水瀬・松本ペア!」


勝利のコールが響き渡り、私と美咲は手を取り合ってコートを後にした。ベンチに戻ると、坂上先生がタオルを片手に、珍しく目尻を下げて私たちを迎えてくれた。


「水瀬、松本。見事な先制点だ」

先生の声には、確かな信頼がこもっていた。

「特に水瀬、相手の執拗なバック攻めによく耐えたな。あのライジングでの返し、そして最後のボレー……合宿で湊に叩き込まれたフットワークが、お前の身体に完全に馴染んでいる。期待以上の立ち上がりだぞ」

「ありがとうございます……!」

先生の言葉に、胸が熱くなる。湊兄さんのあの過酷な特訓は、単なる厳しさではなく、私をこの大舞台で戦わせるための「翼」だったのだと、改めて実感した。


しかし、団体戦はまだ終わっていない。 続く「ダブルス1」の2年生ペアが、安定した試合運びで第2戦目を制した。 「次、決めてくるわ。みんな、準備しておきなさい」

第3試合、シングルス3のコートへ向かうのは、部長の高城先輩だ。彼女がコートへ足を踏み入れた瞬間、会場の空気が一変した。


星和学院のエース。その圧倒的なオーラに、相手選手は試合前から気圧されているのが分かった。 高城先輩のプレーは、まさに「完成形」だった。 女子中学生離れした鋭いサーブ、そして狙い澄ましたフラットショットが、火を噴くように相手コートの隅々を射抜いていく。


「15-0(フィフティーン・ラブ)!」 「30-0(サーティ・ラブ)!」


一分の隙もない。高城先輩は、私たち下級生が見せた勢いをさらに巨大な奔流へと変え、相手を文字通りねじ伏せていく。彼女の背中は、「名門・星和を背負う」ことの覚悟を無言で示していた。


(……すごい。これが、全国を狙う人のテニスなんだ)


私は、ベンチからその光景を食い入るように見つめた。 高城先輩が放つ一球一球に、女子部全員の願いが乗っている。そして、その視線の先――本部席の近くには、依然として腕を組み、冷徹なまでに静かな眼差しでコートを監視する湊兄さんの姿があった。


高城先輩が勝利を決め、トータルスコア3勝0敗でチームの初戦突破が確定した。 その後、第4試合のシングルス2こそ落としたものの、第5試合のシングルス1・鈴木先輩が老獪なテニスで勝利を拾い、結果として4勝1敗。星和学院女子テニス部は、最高の形で二回戦へと駒を進めた。


「……っ、よし! 星和学院、初戦突破だ!」


第5試合の鈴木先輩が最後のボールを叩き込み、チームの勝利が確定した。


「整列! 礼!」

「ありがとうございました!」


ネットを挟んでの挨拶を終え、ようやく公式戦の緊張が解けた。 高城部長を中心にベンチ前へ戻ると、坂上先生から短い総評があった。

「初戦突破、まずは及第点だ。明日の二回戦はさらに厳しい戦いになる。各自、アイシングとストレッチを徹底し、今日の反省をノートにまとめておくように。……よし、現地解散! 熱中症に気をつけて帰れ」


「「「お疲れ様でした!!」」」


部長の号令で、女子部員たちは一斉に片付けを始め、三々五々、最寄りの駅やバス停へと向かって散らばっていった。

「みゆ、先に着替えてくるね! 後で合流しよ!」

美咲も他の部員たちに呼ばれ、賑やかに部室テントの方へと消えていく。


ようやく一人になり、火照った顔をタオルで拭いながらコート脇のベンチで荷物を整理していた、その時だった。


「みゆ! すごかったぞ、あのボレー! 練習であんなの見たことねえよ!」


人混みが途切れた隙間を縫うようにして、陽太が駆け寄ってきた。練習を終えたばかりなのだろう、シャツを汗で滲ませ、顔を上気させた陽太が私の目の前で大きく拳を振り上げる。その屈託のない笑顔と、混じりけのない称賛が、試合後の孤独な高揚感に心地よく染み渡る。


「陽太……。わざわざ来てくれたんだ。応援、ちゃんと聞こえてたよ。本当に力になった」

「おう! 明日の俺たちの試合も絶対見に来いよな。今日のみゆのプレー見たら、俺もじっとしてらんねえよ。絶対……」


陽太がさらに一歩、熱っぽく感想を伝えようと距離を詰めた、その時だった。


「……浮かれるのはそのくらいにしておけ、陽太」


背後から響いた、低く、落ち着いた声。振り返ると、いつの間にか湊兄さんがそこに立っていた。解散していく女子部員たちの喧騒の中で、彼だけが凛として、周囲を正すような静かな威厳を放っている。


「あ……湊さん」


陽太が反射的に姿勢を正した。湊兄さんの視線は、まず陽太へ、そして私へと向けられた。


「みゆ。今日の試合、第4ゲームの3ポイント目……あそこはクロスのロブではなく、センターへのアタックで沈めるべきだった。相手の重心が左に寄っていたのは、あの距離なら見えていたはずだ」

「……っ。はい。少し、迷いました」 湊兄さんは私に歩み寄り、私のラケットを手に取った。ガットのテンションを確かめるように指先で弾き、鋭い音を響かせる。


「ボレーの打点も、あと数センチだけ前だ。そうすれば、もっと楽にコースをコントロールできた。……だが、あのジャンピング・ボレーの判断は悪くない。練習の成果は出ていたな」


兄さんの大きな手が、私の頭にそっと置かれた。それは、幼い頃から変わらない「兄」としての温かい手だった。


「湊さん、でも、一年生でこれだけのプレーができるのは本当に凄いことだと思います」

陽太が、私の頑張りを認めてほしいというように、湊兄さんへ言葉を添えた。 湊兄さんは陽太の方へ視線を向け、わずかに目を細めた。


「陽太。お前がみゆを評価してくれるのは嬉しいが、今は褒めるよりも課題を自覚させる時だ。……明日はお前の番だろう。今日のみゆの粘りに負けないプレーを期待しているぞ。お前なら、もっと高いレベルで戦えるはずだ」


「……! はい、頑張ります!」


陽太が顔を輝かせる。それは明白な「期待」の言葉だった。湊兄さんは一度だけ頷くと、私の肩を軽く叩いた。


「行くぞ、みゆ。身体を冷やして、クールダウンを始める。明日以降の試合も、今のままでは体力が持たないぞ。ケアの方法を教えてやる」

「あ……うん。陽太、また明日ね! 頑張って!」


私は、気合を入れ直した様子の陽太に手を振り、湊兄さんの後を追って水道近くの木陰へと向かった。


兄さんは無言のまま、用意していた氷嚢ひょうのうと冷えたタオルを私の首筋に当てた。

「……冷たっ」

「動くな。血管が集まっているところを効率よく冷やさないと、疲労が抜けないぞ」


兄さんの声は、先ほど陽太に向けた厳しさは影を潜め、私を労わる穏やかなトーンに戻っていた。


「……兄さん、さっきは陽太に厳しく言うからびっくりしちゃった。でも、応援してくれてるんだよね」

私が尋ねると、兄さんはタオルの位置を微調整しながら、静かに答えた。


「ああ。あいつは才能があるが、まだ自分の限界を決めている節がある。お前の試合を見て刺激を受けたのなら、それをさらに引き上げてやりたかっただけだ。……それに、みゆ。お前のプレーを誰よりも近くで見守り、正しく導くのが俺の役目だと思っている」


言葉は、至極真っ当な「兄としての、そして先輩としての情熱」に満ちていた。兄さんは私の首筋のタオルを外すと、汗で張り付いた私の髪を優しく整えた。


「お前は俺が教えたことを着実に吸収している。誇りに思うぞ、みゆ。だから、自信を持って俺の言葉についてこい」 「……うん。ありがとう、兄さん」


兄さんの瞳にあるのは、妹の成長を純粋に喜ぶ光。 私はその信頼に応えたいと、強く思った。夕暮れのコートで、私は「正しい兄」である湊兄さんの隣で、明日への決意を新たにしていた。


更衣室に入ると、心地よい疲労感とともに、制汗スプレーの清涼な香りが立ち込めていた。ユニフォームを脱ぎ、火照った肌を拭って制服に着替える。鏡に映る自分の顔は、勝利の興奮が冷めやらず、まだ少し上気していた。


「お待たせ、みゆ! 湊先輩、まだ外にいてくれてる?」

着替え終わった美咲が、弾んだ声で話しかけてきた。私たちは一緒に更衣室を出て、校門へと続く並木道を歩き始めた。


「うん、待っててくれるって。ケアのアドバイスもしてくれたんだ」

「いいなぁ、本当に。厳しくてストイックだけど、みゆのことになると本当にマメだよね、湊先輩」

美咲はカバンを揺らしながら、感心したように笑った。


「さっき陽太と話してた時もさ、湊先輩が割って入った時、一瞬空気がピリッとしたけど……結局、陽太のやる気を引き出しちゃうんだもん。さすが男子部のエースだよね。みゆへの指導も、傍で聞いてて私まで勉強になっちゃった」


美咲の屈託のない言葉に、私はホッと胸をなでおろした。

「……そうだね。兄さんは、私にも陽太にも、もっと強くなってほしいんだと思う」

「あはは、最強の兄妹だもんね! ま、あんな完璧なお兄さんに見守られてるんだから、みゆももっと強くなれるよ。あ、私はあっちのバス停だから! また明日ね!」


「また明日!」 美咲と別れ、一人になった私の前に、夕陽を背負った湊兄さんの影が長く伸びていた。


「遅かったな。忘れ物はないか?」

「大丈夫。……待たせてごめんね、兄さん」


二人で駅への道を歩き出す。湊兄さんは、私の重いラケットバッグを当然のように自分の肩に担ぎ直した。

「……明日は男子の出番だ。俺の試合も、しっかり見ておけ。お前に教えた技術を、俺がどう体現するか、その目に焼き付けておけ」

「うん。絶対、一番前で応援するね。兄さんのテニス、大好きだもん」


私が素直な気持ちを伝えると、兄さんは少しだけ照れくさそうに視線を逸らし、それから優しく私の肩を引き寄せた。

「ああ。期待に応えてやる」


沈みゆく夕陽が、私たちの影を一つに重ねていく。 言葉では「導く兄」として振る舞いながらも、私を支えるその大きな手からは、私を決して離さないという静かな決意が伝わってくるようだった。


おはようございます。

作者のFERILUです。


『神様の身代わりー光の兄と罪の妹ー』

を読んでくださりありがとうございます。


県大会1日目の様子でした。

もし他のメンバーの試合の様子とかも少佐に描いて欲しいとかあればご意見お願いします。

今のところ、そこまで深堀は考えていません。

知っている知識って、テニプリとかで触りを知っている程度ですから…


次は男子の試合に移ります。

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