表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
第2章:陽太へのときめき

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

騒がしい教室の視線

校門の入り口で湊兄さんの背中を見送ると、私の世界からはふっと色彩が抜けたような、寂しい感覚が残る。中学二年生の湊兄さんが向かう校舎は、小学生の私たちが通う校舎とは少しだけ離れている。そのわずかな距離が、今の私にはとても遠いものに感じられた。


「……はぁ」


「おいみゆ、いつまでボーッとしてんだよ。鼻の下伸びてるぞ」


余韻に浸る間もなく、真横から無遠慮な声が降ってきた。陽太だ。彼はラケットバッグの紐を指一本で引っ掛けながら、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。


「伸びてないわよ! 湊兄さんがカッコよすぎるのが悪いの」

「はいはい、ブラコン乙。……さっさと教室行くぞ。予鈴鳴っても置いていくからな」


陽太は呆れたように肩をすくめて先に歩き出す。六年生の教室に入ると、そこには既に騒がしい朝の風景が広がっていた。私と陽太が並んで教室に入った瞬間、教壇の近くにいたクラスメイトの男子たちが、冷やかすような口笛を吹いた。


「お、また朝から夫婦漫才か? 陽太とみゆ、ほんと仲良いよな」

「バッ……! 誰がこんなガサツなのと!」

「そうだぞ、俺に失礼だろ。みゆみたいな『お兄ちゃん命』な奴、俺のほうが願い下げだっつーの」


陽太が鼻で笑いながら自分の席に座ると、すぐに数人の女子が彼を囲んだ。

以前までは泥だらけで走り回るだけの「ただの男子」だった陽太だけど、六年生になってから、少しずつ様子が変わってきた気がする。

背も伸びてきたし、日焼けした横顔が以前より精悍に見える。何より、スポーツ万能で誰にでも裏表なく接する彼は、いつの間にかクラスの女子から「カッコいい男子」として意識される存在になっていた。


「ねえ陽太、次の休み時間パス回ししようよ。陽太がいると勝てるからさ」

「陽太、昨日言ってたテニスの動画、URL送ってよ。弟が見たいんだって」


陽太は「おう、いいぜ」と無造作に応えながら、楽しそうに笑っている。女子たちと盛り上がっている彼の姿を見つめていると、私の胸の奥に、得体の知れないモヤモヤとした何かが広がった。


湊兄さんが女子に囲まれている時は、ただ「自慢のお兄ちゃんだから当然」という誇らしさと、強烈な独占欲を感じる。けれど、陽太が他の女子と楽しそうにしているのを見るのは、それとは違う、胸がザラつくような、落ち着かない気分になるのだ。


「……なによ。朝からデレデレしちゃって」


私は自分の席に座り、わざと大きな音を立てて教科書を取り出した。

すると、女子との会話を切り上げた陽太が、ひょいと私の席を覗き込んできた。


「みゆ、何突っ立ってんだよ。早く準備しろよ、そこのネボスケ」


「……うるさい。ネボスケって言うな!」


陽太が振り向きざまにニッと笑って私をからかう。その無邪気な笑顔が、私の抗議を一瞬でかき消してしまう。

クラスメイトの冷やかし、陽太の少しだけ大人びた横顔、そして彼を囲む女子たちの視線。


湊兄さんを想う時の、息が止まるような陶酔とは違う。

キリキリとした焦燥感と、小さな独占欲。

一二歳の少女の心の中で、二つの「特別な感情」が静かに、けれど確実に騒ぎ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ