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神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
第5章:一番近い光のそばで

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放課後のチャイム、始まりの体験入部

中学校生活が始まって数日。新しい環境に慣れようと必死な私たちの日常に、一日の終わりを告げる放課後のチャイムが響き渡った。


「やっと終わったぁ……。数学、全然意味わかんなかったんだけど」

隣の席の松本美咲が、机に突っ伏しながら大きく伸びをする。

「美咲、また寝てたでしょ。……さあ、片付けよう。今日は待ちに待ったテニス部の新入生歓迎オリエンテーションなんだから」


私が教科書をカバンに詰め始めると、教室内が何やらそわそわとした空気に包まれた。 「……あの、水瀬さん」

前の席の男子が、消しゴムをいじる手をもじもじさせながら振り返った。

「あ、はい。どうしたの?」

「その、もしよかったら……。この後、一緒に購買とか……」


彼が勇気を出して口を開いたその瞬間、教室の廊下側の窓が、外側からガラリ! と音を立てて全開になった。


「みゆ! 何モタモタしてんだ、行くぞ! 大野部長の挨拶が始まっちまう!」


窓枠に肘をかけ、身を乗り出すようにして声を張り上げたのは、隣のA組の陽太だった。 あまりに遠慮のない大声に、私に話しかけていた男子はビクッと肩を跳ねさせ、顔を真っ青にして前を向き直してしまった。教室中の男子たちの視線が、一斉に陽太へと注がれる。それは、自分たちが抱いている「水瀬さんへの淡い憧れ」を、土足で踏みにじっていく幼馴染への強烈な嫉妬の色を帯びていた。


「もう、陽太! 教室までそんな大声出さないでって、朝も言ったでしょ」

私が呆れ顔で歩み寄ると、陽太は窓から身を乗り出したまま、教室内をじろじろと見回した。

「……あ! お前、本当だったんだな。午前中にマジック借りた時はパニクってて流してたけど、マジでみゆと同じクラスだったのかよ、松本!」


「今さら!? 散々さっきまで廊下でも話してたじゃない! 本当に失礼しちゃうわね、河村くんは!」

美咲がカバンを抱えて立ち上がり、陽太に抗議の視線を送る。

「悪い悪い、みゆのセーラー服姿、昨日からずっと見てても見飽きねーから、他のことが目に入らねぇんだわ!」


陽太はケラケラと笑いながら、私を急かすように手招きする。その無意識かつ破壊力のある言葉に、クラスのあちこちから「チッ」という舌打ちが聞こえた気がして、私は顔が燃えるように熱くなるのを感じた。


「ほら、陽太。みんなの迷惑になるから、もういいから早く戻って! 廊下で待っててよ!」

「おう、分かった! 廊下で待ってるから、さっさと準備しろよな!」


嵐のような気配を残して、陽太の顔が窓の外に消える。

「……みゆ。河村くん、あれ天然でやってるなら罪深いよね」

美咲が苦笑しながらカバンを肩にかけた。

「……ごめんね、美咲。あの子、昔からこうなの」


私は一度だけ教室を振り返った。そこには、私たち二人の親密な空気に入る隙を見つけられず、唇を噛み締める男子たちの姿があった。 家族という完璧な箱庭から、社会という名の教室へ。 そこで私を待っているのは、自慢の湊兄さんが君臨する部活動の世界。


廊下で待っていた陽太と合流し、私たちは駆けるようにしてテニスコートへと向かった。校舎を出ると、春の夕暮れに近い柔らかな光が視界いっぱいに広がり、風に乗ってテニスシューズが砂を噛む心地よい音が聞こえてくる。


「ようこそ一年生! 待ってたぞ!」


コートの入り口で、とびきり大きな声で迎えてくれたのは、男子テニス部部長の大野健斗先輩だった。その隣には、副部長のような落ち着きを纏った3年生の渡辺直人先輩や、快活に笑う2年生の岡田慎吾先輩、佐久間良先輩たちが並んでいる。


「まずは女子部の先輩たちを紹介するわね。部長の高城紗良です!」 凛としたショートカットで、モデルのようにスタイルの良い高城部長が手を振る。3年の鈴木唯先輩、木村美久先輩、そして2年生の小林芽衣先輩たち女子部の先輩方は、みんな華やかで優しそうなオーラを纏っていた。


「わあ……素敵。やっぱり女子テニス部にして正解だったわ」 美咲が目を輝かせながら呟く。新入生の列には、田中奈緒ちゃんや星野莉奈ちゃん、男子側には田中瑛太くんや佐藤健二くんの姿もあり、コート内はこれまでにない活気に満ち溢れていた。


そして、コートの中央。一際高い打球音を響かせ、デモンストレーションのためにラケットを構えていたのが、わが家の自慢、3年生エースの湊兄さんだった。


「……湊先輩、やっぱり次元が違う」 陽太が、言葉を失ったように兄さんの姿を見つめている。 湊兄さんが軽くラケットを振るたび、ボールは鋭い軌道を描き、コートの四隅に設置されたマトを次々と弾き飛ばしていく。その圧倒的な実力と、一切の無駄がない美しいフォーム。新入生たちからは、拍手さえ忘れるほどの感嘆の溜息が漏れた。


「さあ、見学はここまでだ! 今日はオリエンテーション、みんなでマト当てゲームをやるぞ!」

大野部長の号令で、コート内は一気にお祭り騒ぎになった。


「みゆ、見てろよ。俺、絶対湊さんの目の前で一番にマトを抜いてやる!」

陽太は目を輝かせながら、真っ先にラケットを握って列に並んだ。その瞳には、先ほどまでの「幼馴染」の緩さは微塵もなく、一人の競技者としての熱い火が灯っていた。


私も、雫お姉ちゃんが早起きして作ってくれたお弁当で元気いっぱいになった身体で、ラケットを手にする。 家では優しいお兄ちゃん。でも、こうして大勢の視線を釘付けにする湊兄さんの姿は、まるで太陽のように眩しくて、妹の私まで誇らしさで胸が熱くなった。


「水瀬さん、ナイスショット! さすが湊くんの妹ね、筋がいいわ」

高城部長に肩を叩かれ、私は照れくさそうに笑った。 完璧なエースとして輝く兄。その背中を、誰よりも熱い視線で追いかける陽太。 そして、その二人をすぐそばで見守りながら、同じ風を感じることができる私。


「……一本! よっしゃあ!」

陽太がマトを射抜き、湊兄さんが「やるな、陽太」と短く、けれど嬉しそうに呟く。


家族という温かな「箱庭」の延長線上に、こんなにも刺激的で眩しい世界があったなんて。 春の夕暮れ、オレンジ色に染まるコートで、私たちはそれぞれの夢を乗せたボールを、どこまでも高く打ち上げた。


おはようございます。

作者のFERILUです。


『神様の身代わりー光の兄と罪の妹ー』

を読んでくださりありがとうございます。


今回は上級生の紹介です


大野おおの 健斗ゆうと3年A組

水瀬みなせ みなと3年C組

渡辺わたばべ 直人なおと3年A組

岡田おかだ 慎吾しんご2年B組

佐久間さくま りょう2年C組


高城たかぎ 紗良さら3年B組

鈴木すずき ゆい3年C組

木村きむら 美久みく3年C組

小林こばやし 芽衣めい 2年A組

佐藤さとう 春花はるか 2年B組

伊藤いとう あや2年A組


未確定の部員も出番が来たら順次追加します。


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