8 夜の女神に愛を捧ぐ
あの日、アウローラは初めてフェリクスとの約束を破った。アウローラが夜にひとりで外出していたことが父にバレ、監視付きで謹慎を命じられてしまったからである。それから三日後、ロレーヌ伯爵家は朝から大騒ぎだった。屋敷内の人があまりにも慌ただしく動き回っているため監視に事情を聞いたところ、何を思ってか急遽ロンバルティ辺境伯がロレーヌ伯爵家を訪れることになったらしい。そして今、アウローラは目の前で寛ぐ美しい彼をじとりと睨んでいた。
「おはようアウローラ。今日も良い天気だな」
「大雨よ」
女性に笑顔を見せることなど一切ない、冷酷無慈悲な辺境伯様は一体どこに行ったのだろうか。実際の天気は真逆だというのに爽やかに微笑む彼の言葉を一刀両断すれば、フェリクスは楽しそうに声を上げて笑った。
現在アウローラの部屋にはフェリクス以外の誰もいない。監視も家族も、フェリクスの『お願い』で退出したのだ。
「それよりフェリクス、約束を破ってごめんなさい。さっき見たと思うけれど、監視を付けられてしまったのよ」
「気にするな。夜の自由時間を何より楽しみにしている君が急に来なくなったから心配したが、無事ならそれで良い。俺の方ももう少し気を遣うべきだった。何かされたか?」
「少しね」
絞め殺されるところだった、とは言わない。アウローラもどれほどフェリクスに愛されているか理解しているのだ。あの時の出来事をすべて話せば、アウローラが復讐する前に彼が手を下してしまうだろう。そうなれば別の意味で計画が頓挫する。それだけは絶対に避けたい。アウローラは最も彼らが苦しむ形で断罪したいのだ。
「へぇ……証拠は取ってあるのか?」
「もちろん。フェリクスは私がただで苦しめられるような女だと思っているのかしら?」
「違うな。やられた分は倍以上で返すのが俺の惚れたアウローラ・ロレーヌという女性だ」
「その通り」
フェリクスと日中に会うのは久しぶりだ。多忙ゆえに普段は夜に作戦会議をしているので、今日は話し合いの時間が短い。婚姻の儀は三日後に迫っているし監視があるから彼と会えるのは今日が最後になるだろう。最後の作戦会議をしようと姿勢を正せば、アウローラの意図を読み取ったらしいフェリクスも同じようにしてくれた。
「さて、最後の準備を始めましょう」
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