4 冷酷無慈悲な人
何事もなく夕食を終え、就寝準備を整えたアウローラは部屋の灯りを消してベッドに入った。それから十分ほど経過した後、部屋に誰かが入ってくるのが気配で分かる。間もなくして姿を見せたのはアウローラの就寝を確認しにきた侍女だ。大人しいアウローラでも何か仕出かすかもしれないと疑われているため、こうして監視のようなことをされているのである。だがそれもいつも通りのこと。狸寝入りでやり過ごしたアウローラは部屋から侍女の気配が離れていくのを確認し、ベッドから起き上がった。
「さて、動きましょう。やっと自由時間だわ……!」
ナイトドレスの上にクローゼットから出した外套を着てヒールのない靴に履き替える。バルコニーに出たアウローラは靴を手に持ったままバルコニーの手すりに上がり、そのまま近くの木に飛び移った。アウローラは屋敷の端の方にある小さな部屋に追いやられているため、バルコニーのすぐ目の前は屋敷の敷地内の森になっている。
雲に隠されていた月が姿を見せた。月明かりの下、いつものルートで木に飛び移れば、真っ赤な薔薇色の髪と冷静さを感じさせるサファイアのような青い瞳が輝く。薄暗く影の掛かったその顔は、自らを『かわいい女性』と称するマリーの姉らしく、とても整った顔立ちをしている。
警備に気付かれないよう音と気配を消して次から次へと木の上を跳んで移動し、いつもの場所に到着したアウローラは立っていた木から飛び降りた。ここは森の中腹あたりで、恐らくアウローラだけが知っている地下道の入り口だ。昔からお転婆で、こうして自然の中を走り回った結果見つけたもの。ここを通って屋敷の外に出れば、後はフードで顔を隠して街道を走るだけだ。こんな服装でも、夜で人がいなければ問題ない。
ロレーヌ伯爵邸から少し離れた、アウローラの目的地。それはこの国では公爵位に匹敵する権力を持つロンバルティ辺境伯の屋敷だった。
「────こんばんは、今宵も美しい夜空ね。フェリクス、あなたはもうご覧になりまして?」
「ああ。たった今、君がそこの窓から侵入してきた時に。いい加減こんな時間に男の寝室に侵入するのはやめないか?」
「あら、そんなこと言って窓の鍵を開けっぱなしにしているのは誰かしら? これでは歓迎しているとしか思えなくてよ」
呆れた顔でベッドに腰を掛け、ワイングラスを手にするフェリクス。そんな彼の隣へ当然のように腰を下ろしたアウローラはいたずらっぽく微笑む。何だかんだ言いつつアウローラにも自分と同じワインを手渡してくれるのだから、『冷酷無慈悲な辺境伯』と言われていても本当は優しいのだ。他の方にももう少し優しくすればこんな不名誉な二つ名で呼ばれなくて済むのに、とアウローラは思う。本人は気にしていないようだけれど。
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