25 とある女性の物語
「ローラ、取引の件について俺が選んでいいと言ったな。二言は?」
「ないわ」
「そうか。じゃあ取引は続行、君は俺と結婚する」
……流れから考えて、取引はここで終了だと言われるのかと思った。フェリクスに言った通り、前言撤回するつもりはない。だがなぜそうなるのかが疑問だ。
「俺への迷惑など考えなくていいんだ、ローラ。そんな風には思っていない。それに君が刺されたのは俺の不注意だった。申し訳ない」
「…………」
「自然の中で駆け回ることを好む君だ。片腕が機能しないことに気付いた時、どれほど絶望しただろうと考えると後悔が止まらない。今まで辛い思いをしながら生きてきて、復讐をきっかけにようやく新しい人生のスタートを切れるところだったのに」
その言葉を聞いて、アウローラは目を見開いた。理解してしまったからだ。さっき、右手が使えなくなったことを話した時にフェリクスが辛そうな顔をしたのは、自分のことのように悲しんでくれたからだと。同時に思う。こんなにも優しい人なのに……これのどこが、『冷酷無慈悲な辺境伯』なのだろう。アウローラは彼以上に優しい人を知らない。出会ってまだ一年も経っていないが、アウローラが困っている時に手を差し伸べてくれるのはいつもフェリクスだった。
「本当に、後悔はしない?」
「ああ、するはずがないな。こんなにも愛している女性と結婚できるのだから」
「……分かったわ」
フェリクスの判断に任せると言ったのだ、今更その言葉を撤回するつもりはない。だがせめて彼が一緒にいて飽きない女であれるよう、今後の身の振り方を考えよう。
「ローラ、良いことを教えよう。俺は生まれゆえに戦いに身を置く人間と多く繋がりがある。その中に片腕で戦う女性がいるんだ。母上もそうだが、本来辺境伯夫人は戦う必要がない。その代わりに夫のサポートをするのが仕事だ。だが君は俺と一緒に戦うことを望むだろう? 興味があるなら声を掛けておく。話だけでも聞いてみるつもりはないか?」
……ああ、やはりこの男は本当に優しい。アウローラの幸せを一番に考えてくれているのが伝わってくる。普通の貴族女性は外で走り回らない。戦闘なんて論外だ。そうでなくとも、愛する人を危険な場所に連れて行きたい人はいないだろう。それでもフェリクスは許してくれるのだ。結婚の条件である『自由を縛らない』ということを忠実に守ってくれている。
「願ってもない申し出だわ。ぜひ、お願いします」
「もちろんだ」
アウローラが彼の隣に立って共に戦えば、彼の危険も少しは減るだろうか。前線に出られなくなっても後方支援くらいは────この優しさで溢れた陽だまりのような笑顔を、アウローラは絶対に失いたくない。
「それから、改めて私の復讐に協力してくれてありがとう」
まだまだやることは残っているが、そもそもこの計画はフェリクスがいなければ実現しなかった。だから心からの感謝を込めて頭を下げる。
復讐計画進行中、アウローラはこのフェリクスと夫婦関係になること以外にも何かお礼をしたいと言った。フェリクスは結婚できるなら残るは愛くらいしか欲しいものがないと言っていた。残念ながら、今はまだ愛をプレゼントすることは難しそうだ。それでもアウローラなりに考えたことがある。
アウローラは何度かフェリクスとキスをしたことがあるけれど、そのどれもが彼からのものだった。だから────
「これからは妻としてよろしくね、フェリクス……!」
首に手を回せるのは片腕だけ。今は動けないので自分からではなく彼の方から近付いてきてもらわなければならない。それでも、生涯フェリクス・ロンバルティのことを隣で支えると密かに誓って。
はじめての自分からのキスは、きっと大成功だ。だって自分の持てる精一杯の愛を詰め込めた。あのフェリクスを照れさせることができた。そして何より、世界一の幸せ者だと感じられたから。
◇
フランツ・アクトンとアウローラ・ロレーヌの突然の婚約破棄騒動が話題になって数年、国内ではとある小説が人気を集めていた。それは『皆様、仲良く地獄へ落ちましょう!』というひとりの令嬢の復讐劇だ。その作品の主人公は最後、長年自分を苦しめていた家族や婚約者を断罪し、自分を愛してくれた男と幸せになるらしい。断罪された者は今も主人公が苦しんだ以上の苦しみを与えられているのだとか。
ところで、この作品は実際にあった出来事なのだという噂がある。それが真実か嘘かは定かではないが……主人公のモデルなのではないかと囁かれている女性は過去、同じような境遇だったのだとか。
夫や子供を愛し、同じだけの愛を返され、怪我で一本しか使えなくなった腕でも戦線に立つという、その強く美しい女性の名を、アウローラ・ロンバルティと言うそうだ。
こんにちは、山咲莉亜です。最後までご覧いただきありがとうございました! 『アウローラ・ロレーヌの華麗なる復讐計画 ~皆様、仲良く地獄へ落ちましょう!~』はこれにて完結となります!
この物語の主人公、アウローラは長年周囲の人間に苦しめられてきたのにも関わらず、卑屈になることなく強く真っすぐ生きる女性でした。書きながら味方のひとりもいないのにすごいなぁと思っていたのですが、家族を恨む気持ちが芽生えたのが結構早かったので『いつか復讐してやる!』という気持ちだけを生きる糧にしていたのかなと思います。
アウローラが暗い感情を見せたのはフェリクスに結婚をやめないかという話を持ち掛けた時だけです。家族に対してはとっくに吹っ切れていましたから。自分にとって大切な人だからこそ幸せになってほしくて、でも離れたくないという葛藤があったのだと思います。自分以外の誰かを想ったこの時だけ、普段と様子が違いました。
なんて、いくらでも語ってしまいそうなのでこのあたりで終わろうと思います。また、本日18時に登場人物をまとめたものを公開します。番外編等もいつか出すかもしれません。その時はぜひよろしくお願い致します!
改めまして皆様、お読みいただきありがとうございました! また次回作でもお会いできたら嬉しいです!! 山咲莉亜
ご覧いただきありがとうございます!
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