23 数年前なら
◇
目が覚めたら、視界いっぱいに広がっていたのは真っ白の天井だった。妙に体が重く、寝台で横になったままぼうっとしていれば、ふと同じリズムで繰り返す機械音が耳に入る。その機械から伸びるコードはアウローラの腕や胸元に繋がっていた。
そのまま顔を動かすと、今度は誰かの姿が視界に入った。それが誰なのか知りたくてゆったりとした動作で顔を見上げる。すると僅かにでも人が動いたのを気配で察したのか、椅子に座ったまま眠っていたその人はそっと瞼を開けた。瞼の下に隠れていた宝石のように美しいサファイアの青は、アウローラの大切な人、フェリクス・ロンバルティのもの。
「アウ、ローラ」
「……フェリクス?」
「ッ、目覚めたのか! 医者を呼んでくる!!」
目を覚ましたアウローラを見て一瞬間の抜けた顔をしたフェリクスは、すぐに我に返って廊下へ出た。そして偶然廊下にいたらしい医者を呼び寄せる。部屋の外からはパタパタとこちらに走ってくる足音が聞こえた。
「アウローラ様! よく、お目覚めに……!」
まだ状況を把握しきれていないアウローラを置き去りにし、医者は急いでフェリクスを追い出して診察を始めた。ここに来る前の記憶が馬車の中で途切れているため、どうなっているのかと聞けば、アウローラは出血多量で一週間ほど生死を彷徨っていたらしい。
婚姻の儀を行うはずだった教会と王立病院は王城を中心に、正反対の場所に位置している。そのため馬車を全速力で走らせても辿り着くまでに時間がかかった。止血していたとはいえ、あれだけの怪我を負えばそう簡単に血が止まるはずもなく、結果手の手術が終わっても目覚めなかったのだと。そして数年前であれば助かっていなかったとも言われた。この国の医療技術はこの三年ほどで急激に成長したから。
「この一週間はいつ命を落としてもおかしくない状態でしたが、一度目覚められたのならもう大丈夫でしょう。念のためこの後検査し、もう何日かは入院していただきますが」
「そうですか……お世話になりました」
「いえいえ、これが私共の仕事ですので。調子の悪いところはありませんか?」
「……私の手、治っていますね。手術痕はありますけど」
そもそも出血多量で生死を彷徨う原因となったのは手のひらの傷だ。ナイフが刺さったまま中指の方へ向けて力を込められたのもあり、かなりの範囲で肉が裂けていた。それが縫った痕こそ残っているが、それほど目立つものでもないくらい綺麗に治っている。さすがに折れた骨はまだ完治していないけれど。
「はい。……アウローラ様、嫁入り前のあなたに傷を残してしまい申し訳ございません」
「あっ、いえ! お気になさらず! 充分に綺麗になっていますし、命を救っていただいただけでも感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます……!」
謝罪させたくて言ったわけではない。医学に詳しくないアウローラでも、あれだけの傷をここまで目立たないようにするにはとても大変だったのが分かる。すごく腕のいい医者が丁寧に手術してくれたのだろう。
「そう言っていただけると救われる思いです」
「……検査の前に少し、話したいことがあるので彼と二人にしてもらっても?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
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