12 彼の色
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フランツ・アクトン男爵令息とアウローラ・ロレーヌ伯爵令嬢の婚姻の儀、当日。家族全員無言の重苦しい空気の中、教会に到着したアウローラは待機していた準備係の人に連れられて控室に向かった。数人がかりなのでスムーズにヘアメイクとドレスアップが進んでいく。微調整等をされる間、邪魔をしないよう大人しくしていたアウローラだが、ドレスアップの時のみ『あまりきつくコルセットを締めないで』とお願いした。
本来なら婚儀の時だからこそ気合いを入れていつもより締めるものだが、アウローラはこれから大切な勝負の場に立つのだ。動き辛いのは困る。
「アウローラ様。こちらのアクセサリーはフランツ様のお色ではございませんが……このままでよろしいのでしょうか?」
「はい、そのままで問題ありません」
「……かしこまりました」
アウローラが婚儀の準備で選んだアクセサリーは小さなダイヤモンドのイヤリングと青いサファイアのネックレスだ。彼女の言う通り、どちらもフランツの色ではない。ネックレスはアウローラの瞳と同じ色だが、これはアウローラを表したものではなかった。
アウローラの取引相手、フェリクス・ロンバルティはきらめく銀髪に、美しいサファイアの瞳を持っている。ここまで言えば分かるだろう。今日のアクセサリーはすべて、フェリクスをイメージしたものである。
愛する女性とその婚約者との婚儀など始まる前だとしても見たくないが、そういう取引なのだから仕方ないな……と苦い顔で呟いた彼に提案したのだ。『それなら、あなたの色のアクセサリーを身に纏うのはどうかしら?』と。その言葉に彼が大賛成したため、このような衣装になっている。元々大嫌いな婚約者の色など身に着けたくないと思っていたのでちょうど良かった。
「あなた方、私の支度が終わったらすぐにこの部屋を出てくださいね。式が始まるまでの待機時間、ここにいることは許しません」
「な、なぜでしょうか……?」
「面倒なことに巻き込まれたくはないでしょう? 知っての通り私はフランツ様に愛されていないし、何なら浮気までされています。そして今日はその浮気相手も参列すると聞きました。何かしらの騒ぎになるのは確定と言えるのでは?」
正直に言うなら、ロアナとアウローラの修羅場ではなく断罪の場から離してあげたいだけ。彼女達は丁寧に任された仕事をしてくれただけでアウローラを苦しめるようなことは一切していない。断罪の時、かなりの確率で誰かしらが暴れることになると予想している。
アウローラの言葉を聞いた彼女達は驚きに目を見開いた後、少し考え込んでから頷いた。きっとアウローラとフランツが不仲であるという噂を思い出していたのだと思う。自分のためにも、その判断が正しい。
準備を終えた彼女達は席を立ったアウローラに頭を下げた。
「お心遣い、感謝致します。どうかアウローラ様の未来が明るいものでありますように」
「今日は婚儀という大切な場でのお支度を手伝わせていただき、ありがとうございました。とっても美しゅうございますよ」
アウローラ様の花嫁姿を見られたこと、とても光栄に思います。そう言って優しく微笑んだ彼女達は扉の前でもう一度深く頭を下げ、控室から出て行った。
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