1 物語を始めましょう
新作、『アウローラ・ロレーヌの華麗なる復讐計画 ~皆様、仲良く地獄へ落ちましょう!~』になります! お楽しみいただけますように!!
人目も憚らず婚約者と戯れ、見せ付けるように口付けを交わす。顔を上げたアウローラは目の前でうっとり微笑む婚約者に視線を向けた。
今日は週に一度の『婚約者との時間』で男爵家に来ている。婚約者の名前はフランツ・アクトン。輝く金髪に透き通った碧眼を持つ彼の長所と言えば、その美しい顔くらいのものだ。頭は弱いし大した戦闘能力も持っていない。ロレーヌ伯爵家の長女であるアウローラと婚約を結んだと思えば、こうして見せ付けるように別の女と愛を育んでいるのだから、性格に関してはお世辞にも褒められたものではなかった。
「────フランツ様。お取込み中申し訳ありませんが、今日は私とお茶をする予定でしたよね?」
いつも同じことを言っているが、形だけでもと思い今日もこの言葉を口にする。寝台の上で絡み合う姿が天蓋越しに見えるのもいつも通り。時折上がる、媚を売るような高い声。乱れた呼吸音。天蓋に遮られているとはいえ、アウローラには人前でこのようなことをする神経が分からない。室内に漂う甘ったるい香水と汗の匂いに耐えながら指摘すれば、フランツはわざとらしく溜め息を吐いて動きを止めた。
「うるさい。嫉妬は醜いぞ、アウローラ! また僕らの時間を邪魔する気か!?」
いえ、邪魔をしているのは彼女の方ですよ、とは言わない。なぜならフランツは本気でアウローラが邪魔している側なのだと信じており、余計なことを言えば面倒なことになるのが分かり切っているからだ。
アウローラは毎週何時間も馬車に揺られ、整備されていない道路を通る度に足元から伝わってくる振動に耐えながらアクトン男爵家を訪れている。それなのにアクトン男爵家の者は当主夫妻どころか、使用人ですらアウローラを歓迎しない。こうしてお茶も出されず、席にも勧められないのがその証拠だ。極め付けは婚約者であるはずのフランツ。彼に関しては婚約者に掛ける第一声がこれなのだから本当に救いようがないと言えるだろう。
「ではフランツ様、まだ来たばかりですが私はお暇しても?」
「ふん、勝手にしろ」
「……そうですか」
最初からお呼びでないと思っているのが伝わってくる。見下すように笑う彼に一礼し、アウローラは部屋の外に出た。廊下を歩きながら叫び出したくなるのを必死に堪える。ここが彼の前ならばアウローラは遠慮なくフランツへの呪いの言葉をぶちまけただろう。『あの脳味噌下半身男、この私を呼び出しておいて失礼ね! さっさと地獄に落ちればいいわ!』と。
アウローラは本来、この容姿とは似ても似つかないほど気の強い性格だ。一歳下の妹がアウローラよりもかわいらしい性格をしていたゆえに両親から愛されることはなく、それどころか虐げられるようになってしまった。そんな姉の姿を見て育ったのだから、当然妹であるマリーもアウローラを見下している。使用人だって自分の生活がかかっているのだから庇うはずもない。表向きは仲良しな家族として通しているけれど。
そんな環境で育ってきたから少しでもマシになるよう、普段は大人しく過ごしている。しかし本当の性格は変わっていないのだから、いつまでも周囲の人間に見下されたままでいるはずもなく、今は復讐のために準備をしているところだ。
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