十三話 「ヤンキーの尻」
美尻は玲子と出会う前、たった一人で生活していた。なぜだか毎日が退屈で、前職の職場と自宅の往復生活。
代わり映えの無い日常を送れることはかけがえのない事だが、当時の美尻はその事に気づいていなかった。
それが、美尻が「尻」と出会うきっかけである。
「おい三郎!! なんでまともに仕事出来ないんだ!! 集中力が欠けている! 業務中にウロウロ周りを歩くな!」
職場で上司に叱責される美尻。美尻は、「はーい…」としょんぼりする。
「だいたいお前はいつもいつも…」叱責の豪雨は止まない。それどころか、JPOPのサビ部分かのように盛り上がりを見せる。
その日の帰り道。美尻は、「あ〜…仕事…めんどくさいなぁ…」なんて愚痴を吐きながら、フラフラと夜道を歩いていた。
いまにでも職場を離れたいと思っていた時。まるで運命のように目の前に美人の後ろ姿が現れる。
美尻は、「僕ちゃんのお尻〜〜〜!!!!」とその小さな尻に、本能のままに飛びついた。これが美尻にとって、はじめての変態行為だった。
「きゃぁぁぁぁ!!!!!」小さな尻の持ち主は悲鳴を上げ、美尻に回し蹴りを食らわせる。美尻はその衝撃で電柱に顔をぶつける。
「なにすんだよ!!! この変態!!!」振り返った美人は金髪ロングヘアで、ピンク色のスカジャンを身にまとっていた。
その整った顔で、名も知らぬ美人は美尻を睨みつけた。
美尻も自分の本能が制御出来ないまま尻に飛びついた事を、「???」と不思議に思う。
「なんで自分はこんなことを! みたいな表情辞めなさいよ、警察に突き出すからね」と美尻の首根っこを引っ張る美人。
美尻は「辞めろ辞めろ辞めろって!!!!」とヤンキー娘に連れて行かれながら叫ぶ。
「じゃあ痴漢した罰として私に住む場所を提供して。」強気に美尻の胸ぐらを掴む美人。美尻は、「まずは事情を話して貰わないと〜〜後ぉ、名前教えて〜?」とたじろぐ。
とりあえずマンションまで美人を連れ込んだ美尻。何故だか罪悪感さえ覚える。
美尻は「ねぇ、君、一体誰なの? すっごい綺麗な尻してるよね。」と美人に顔を近づける。
「私は玲子」と美人は名乗る。玲子は腕を組みながら紙タバコを吹かし、「ママに家を追い出されたの。しばらく住まわせて」と言いながら美尻の額を指で軽く弾いた。
美尻は「むふふ、玲子ちゃん、僕思いついちゃった!」とニヤニヤした表情を浮かべる。
「?」と首を傾げる玲子。美尻は、「僕の最大のビジネスの助手やって〜〜〜」と玲子に頼む。
玲子は、「それが条件?」と美尻に問いかけた。美尻は「そうそう、条件!!!!」と嬉しそうにうなずく。
「はぁ、手伝ってやるか、仕方ないわね…」と美尻に言葉を返した。美尻は「やったぁぁぁ! 玲子ちゃん大好き〜!」と玲子に飛びつく。
玲子は「気安く触るなぁぁぁ!」と美尻の鳩尾を殴った。
吹っ飛ぶ美尻。美尻は衝撃で家の壁にのめり込んだ。
「ぐへへ…」それでも幸せに感じるのはなぜだろうか。と美尻は思うのだった。
後日。四十過ぎのオジサンと二人暮らしにも慣れた頃。美尻は、企画書を玲子に読ませた。玲子は、「はぁ? 美尻研究所?」と目を細める。
「そう!!!! 玲子ちゃんみたいに綺麗な尻をした人間がこの世に存在するのなら、世界一美しい究極の尻を持った人間がどこかにいるはず! それを玲子ちゃんと二人で探すんだよ!!!」と上機嫌で語る美尻。
玲子は、「ただの変態ブログじゃない!!! 私は付き合わないわよ!!」と叫ぶが、美尻は「じゃあ玲子ちゃん追い出すよ???」と玲子を脅す汚い手を使う。
脅された玲子は、「いいわよ!! どんな尻でも上等よ!!!」と立ち上がり決意表明する。
「そうだよお尻だよ!! お尻!!! 僕の人生で一番必要なもの、お尻なんだ!!!!」美尻は自分の天才的な閃きに感動した。
玲子は、「私はとんでもない変態とひとつ屋根の下で暮らしているみたいね…」と頭を抱える。
こうしてはじまった玲子と美尻の同居生活は、思いのほか楽しいものだった。
数年後。
いつも通りの充実した朝。玲子が、「大変! 大変よ!!!」とまだ夢の中にいる美尻を叩き起す。
「なんだよ玲子!!!!」美尻は目覚め悪そうに目を擦りながら急に起こされたことに対して怒る。
玲子は「美尻研究所、大型ニュースサイトに取り上げられたわ!!!」と目を輝かせる。
「本当か!!?」とリビングに走って移動しパソコンの画面を見つめる美尻。SNSで数万回拡散され、アクセス数が一気に増加していた。
「うわぁぁぁ…」美尻は思わず感激する。涙が出てしまいそうなぐらいに。パソコンを閉じると、美尻は「玲子!!!! 世間は黄金の尻を求めているんだ!!! 僕たちは求められているんだよ!!!」と喜ぶ。
玲子は、「こんなものでも続けていると世間に評価されるのね〜…」と感心した。
「玲子!!!! ずっと僕についてこい!!! 黄金の尻が見つかるまで!!!!」
美尻はソファーに片足を乗せカッコつけながら正面に向かって指をさした。
玲子は、「まあヤンキーやってるより面白そうだし、いっか…」と呟くのだった。




