十二話「アイドルの尻」
ある日の晩。美尻はだらーっとソファーに寝転がりテレビを見ていた。
「では聞いてください。わたしの三十五番目に可愛いところ!」
テレビでは美尻が普段見慣れない、可愛らしい衣装を身にまとった七人組のアイドルが何やらあまり他の歌手が歌わない様な特殊な歌を歌っていた。
「わたしの可愛いところを三十五個挙げないとお前は年末までに死ぬことでしょう~♪」
なんとまあ物騒な歌詞だ。と普通の人は思うが美尻は「なんだこの子たち!!!可愛い~!」とテレビの前に張り付く。
玲子は、「あら?その子たちが前言ったSWEETSZIPPERよ?」と偶然美尻が彼女たちを見つけたことを驚く。
「やっぱ僕のタイプは水色の子だな~!」美尻は目で水色の子を追いかける。
「それが嫌だったらお前はわたしに尽くして墓場まで人生を共に歩みましょう~♪」
テレビから聞こえてくる物騒な歌詞についてはなにも言及しない二人。
玲子は「これが最近流行ってるのよ。どこ行ってもずっとこの子たちの曲が流れてる。縦動画アプリでも永遠に耳にするわ。頭に残るのよねぇ。この曲。」と美尻に説明する。
さっそく彼女たちについて調べ出す美尻。「水色の子は真ん中まなかちゃんかぁ!僕も会いたいな~~!」美尻はスマホの画面を眺める。
玲子は、「握手会とか定期的にやってるみたいよ?」とアイドルに興味を示す美尻に教える。
「ぇえ!?」と美尻は握手会について調べ出す。「こんなに可愛いアイドルがいるんだから黄金の尻を持ったメンバーが一人はいるはずだ!!!!!」と毎度の如く最初だけは気合いを入れる美尻。
「あなたアイドルの尻触ったら連行されるわよ!!!!」と玲子は美尻に叫ぶ。
美尻は「絶対触らない!!!撮らないことを約束する!!!!この目で確かめるだけだ!!!」と返答した。
玲子は、「本当に!!?」と美尻に問う。
「本当の本当だ!!!!」美尻はそう言うと、「いくぞ!!!!握手会!!!真ん中まなかちゃんに会うために!!!!」と決心した。
「またいつものがはじまった…」と玲子はため息を零す。
真っ先にCD屋に行く美尻。玲子もその後をついていく。
「確か初回限定盤のCDを買えば握手券が入っているんだな~!」
美尻は店内を周りアイドルの握手券が入ったCDを探す。
「あったあったあったよーん!!!!」美尻は嬉しそうにアイドルの握手券が入ったCDを購入する。もちろん、玲子の分も二枚だ。
「あなたも、行動力には長けてるわね」玲子が言うと、美尻は「好きになっちゃったんだもーん!!!!」と幸せそうにCDを見つめる。
玲子は、「本当に握手会行くの?何も知らないままで」と言うが、「当日までに調べる!!!!!!」と美尻は張り切っている様子だった。
夜間。SWEETSZIPPERの音楽を何度もループする美尻。「かべって曲が好きだなぁ~」とパソコンに向かって一人呟く。
「かべよかべよちょっとだけ~♪苛立ち放ってもいいのかな~♪いつまで性懲りも無く♪なんで?♪」
何度も曲をループする美尻。「ぐへへ…」あまりの可愛らしい世界観に、美尻の表情はどんどん歪んでいく。
SWEETSZIPPERに関する知識を深めた美尻。いよいよ当日の朝が来た。
美尻は、メンバーカラーの服に着替える。「どうだ玲子!!!!水色一色だぞ!!!」美尻の言葉に、玲子は「ミーハーって感じね」と少々呆れ混じりにいった。
「いざ!!!!握手会へ!!!」美尻は会場に向かう。
玲子も共に握手会会場へ同行する。
「うわぁ、混んでるなぁ…」美尻は辺りをキョロキョロと見渡す。玲子は「それだけ人気ってことよ」とうなずいた。
真ん中まなかと張り紙が出されたレーンに並ぶ二人。美尻は順番が来るのを淡々と待つ。
ついに美尻の番が来た。美尻は、「まなかちゃ~ん!!」とまなかに手を振る。
「僕ちゃん今日まなかちゃんに会いに来たの~~!」とまなかにやらしい目を向ける美尻。
まなかは、「へえ~?会いに来てくれてありがとう~!!!」と自然体の笑顔を向ける。
直後、玲子に嫌な予感が走る。
「まなかちゃぁん!お尻触らせて~~~!!!!」
美尻が机を飛び越えてまなかの尻に飛びつき、尻の写真を撮影する。
まなかは、「きゃぁぁぁぁ!!痴漢!痴漢よ!!!!」と声をあげた。
その害悪っぷりに美尻へ会場の注目が集まる。
警備員に連行される美尻。美尻は「玲子ぉ~!助けてくれ~!!!」と玲子に手を伸ばす。
玲子は、「こいつと知り合いって思われたくない…」と気まずそうに呟いた。
警備員に会場から追い出された美尻は、「うわぁぁぁぁん」と子供のように泣きじゃくる。「まなかちゃんのお尻…」と嘆く美尻。
今回ばかりは、玲子も「撮影しないって言ったじゃない!それに、尻も触らないって!」と美尻を怒る。
美尻は「玲子と全てのアイドルオタクへ…ごめんなしゃい……」と謝った。
「で、まなかさんは黄金の尻だったの?」と美尻に問う玲子。美尻は、「違う…」とがっくり頭を下げながら言った。
「じゃあ、また最初から黄金の尻を探すしかないわね」玲子 は正直そろそろ飽きていた。なんでこんなやつのそばにいるんだろう。と本気で考えていた。
「真ん中まなかちゃんに嫌われちゃったかなぁ?」と目に涙を溜める美尻。玲子は、「これを機に行動を見つめ直すことね」と美尻に優しく伝えたのだった。




