十話 「巨乳研究家 胸野二郎 助手探しの巻」
世の中には二つの人間がいる。胸を追い求める者と、尻を追い求める者だ。
一時期は彼のブログのほうが例の男のブログよりも多い人に見られていた。が。しかし。
例の男のブログのほうが最近は見られている。悔しい。胸野は机を叩く。
「私も美人な助手が欲しい!! なぜだ、なぜあの男には美人な助手がいるんだ!! 私もボインな助手が欲しい!!!」
胸野は叫ぶ。心からの切実な願いを。遠くでパソコンをカタカタ打つ母。「私じゃダメなの?」そう言うのは胸野の母、ヨシコ。
「なんで私の唯一の助手がこんな老いぼれたお母さんなんだ!!! 仕上げはお母さんじゃないんだよ!」
胸野は愚痴を零す。
「失礼ねぇ!!! 誰が老いぼれよ! アンタの変態ブログ手伝ってやってるんだから文句言わないでよ!!!」
ヨシコは怒る。
胸野は「はい…」としょんぼりした表情を浮かべる。
三秒後。「絶対に助手を探して母親と決別するぞ!!!」と決心する胸野。
「やれるものならやってみなさい!」
ヨシコも負けていない。
SNSでパパ活募集のハッシュタグを見つけた胸野は、その中の一人に連絡を送った。
それからは、女性のアカウントからの返信をただじっと待つばかりだった。
やがて通知音が鳴る。返事が表示された瞬間、「よし」と小さくつぶやき、ぎゅっと拳を握った。
約束をした当日。待ち合わせ場所に向かう胸野。
事前情報通りなら、アルという名前の女の子が来るはずだ。胸野は胸を弾ませる。
「ボインな女の子だったらどうしよう…」
今から妄想が止まらない。
数分遅れで、「お待たせしました~!」と少女がやってくる。
「うほほ!!!」
胸野はその少女の揺れる胸に、気持ちが高ぶる。
制御が外れた胸野は真っ先に「胸の写真撮らせてくださいよ~!!!」と少女に飛びつく。
「きゃー!!!!!」
少女が声をあげる。「ねぇ、アルちゃん? アルちゃんなんですよね??」と擦り寄る胸野。
「わッ、私がアル、アルだけど! なんなのよ!!!」
少女は叫ぶ。
「私のアルバイトしませんかぁー? アルだけにぃ」
胸野は無理やり笑いを取ろうとする。
「いっ、嫌ぁぁぁぁ!!!」
アルは目の前の変質者を拒み、パタパタと走り去っていった。
「待ってアルちゃぁぁん! 行かないでー!!!!」
胸野が追いかけたその先で、美尻とぶつかる。
「きゃっ」
胸野は美尻を見上げた。
「なんだお前か、どうした。そんなに慌てて」
美尻が言うと、胸野は「アルちゃんを追いかけてください~!!!」と前に手を伸ばす。
「なんだ、女の子を取り逃したのか」
遠くを走るアルを見ながら言う美尻。
「わ…私の助手候補だったんですけど…」
胸野は落ち込む。
「助手候補? 嗚呼、お前助手いなさそうだったからな」
胸野が助手候補を探している状況に、美尻は納得した様子だ。
「美尻さんはいいですね、美人な助手がいて…」
胸野は嫉妬する。
「美人助手が欲しい…か。僕が玲子と暮らすようになったのも偶然だったからな…」
玲子と出会った当時を思い返す美尻。
「ぅぅう…美尻さん、あなたが最後の砦です、一生のお願い…玲子さんを…玲子さんを私にくださぁぁい…」
泣きつく胸野の額を、美尻は指で弾き飛ばす。
「渡す訳無いだろ。僕の助手だぞ」
美尻の言葉に、胸野は「ぅうう…やっぱりそういう関係なんですか」と、勝手に失恋したような気分になる。
「全く。あっちは二十代だ、四十も過ぎたおじさんが本気になる方がおかしいだろ」
関係を否定する美尻。
「でも、玲子さんは美尻さんにとって大切な人なんでしょう?」
胸野がそう問うと、
「さあ、どうだろうな」
美尻は穏やかな表情をみせた。
「ぁぁぁぁ! その顔、絶対大切だって思ってるやつですよね!!」
胸野は叫ぶ。
「さあ~」
誤魔化して歩いていく美尻の背中に、
「私、こうなったら、玲子さんを助手にします!! 油断してたら玲子さんを攫っちゃいますからね!!!」
胸野は宣言した。
美尻はどこか嬉しそうに、「全く…。玲子も人気者だな」と呟いた。




