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練習の日々は光の如く過ぎていった。


今日はライブを来週に控えた日曜日。

総合的なトレーニングをする最終日。


それぞれが、ひたすらによりよいものを作るために調整していた。

ルナとアクアは集中して、ミーナによるダンスの入念なチェック。

ネージュとビオラ、アイビスとアウラは、順番にコウによるボイスチェック。

空いている側がルナとアクアに合流してダンスチェックを受ける。


防音室の中、ビオラとネージュはマイクを挟んで向き合う。

「……違うわね。まだ『重なっている』だけで『混ざり合って』いないわ」

講師のコウが、鋭い耳で二人のユニゾンを遮る。


「「この心を凍らせてよ……」」

『Alba Neige』のサビ。

ビオラの完璧な音程と、ネージュの震えるような情緒が、まだわずかな境界線を描く。

「ビオラの歌にはまだ孤高が残ってる。

その気高さを少し『崩して』ちょうだい。

ネージュの痛みに寄り添うように。

ネージュはビオラを信じて、もっと声を預けなさい」


二人は視線を合わせる。

――雪の中に、体温を感じるような感覚。

「ネージュ。

わたくしの声を『外套』だと思ってくださいませ。

あなたを寒さから守り、温めるためのものですわ」

「……ビオラ。うん、わかった。甘えさせてもらうよ」

伴奏が流れる。

ネージュの歌声が、孤独な雪のように舞い落ちる。

そこにビオラの声が、そっと包み込むような抱擁となって重なる。


ビオラは自らの完璧なピッチを、わずかにネージュの揺らぎに合わせて「共鳴」させる。

歌い終えた瞬間、スタジオに深い余韻が残る。


コウが満足げに口角を上げる。

「……合格。

完璧な『救い』のデュエットになったわ。

本番、客席を大いに泣かせなさいよ」

「「ありがとうございました」」


ビオラがダンスルームの扉を開けると、

「全員、動きを止めない! その一歩がライブの命運を分けるわよ!」

ミーナの怒声が、鏡張りの壁を震わせる。

ビオラとネージュが、すぐにダンスに合流する。

入れ替わりで、アイビスとアウラがコウの元へ向かう。


防音室の中、アイビスとアウラはマイクを挟んで向き合う。

『Volare Ibis』のイントロが流れる。


アイビスの軽やかな高音が、閉ざされた空間を鮮やかに彩った。

「ねえ 今君は何してる……」

弾むようなアイビスの歌声。

「鏡に映る、その姿……」

アウラの力強いアルトが重なる。


だが、コウの指が鋭くストップをかけた。

「アイビス、あなたは空を飛びたいんじゃないの?

その声じゃ、まだ翼が重いわ。

アウラはアイビスを支えようとしすぎて、自分の熱を殺してる。

二人とも、もっと交流しなさい」


二人は顔を見合わせる。

アイビスがいたずらっぽく笑い、アウラの肩を叩いた。

「アウラ、遠慮しないで。アウラの声を私は必ず生かす。

もっと高く飛んでみせるから」

「……わかりました。

アイビスの声、私が全力で押し上げます!」


再び音が鳴り響く。

アウラの深く、大地を揺らすような低音が、アイビスの歌声に「上昇気流」を生み出した。

アイビスはその風に乗り、今まで以上に自由な、輝かしい高音を響かせる。

二人の声が重なるサビでは、まるで一羽の鳥が、暗雲を突き抜けて太陽へと向かうような、圧倒的な希望が満ち溢れた。


「……いいわ。その『爆発力』、忘れないで」

コウがようやく、満足げに頷いた。


ダンスルームにアイビスとアウラが戻ると、他のメンバーは休息をしていた。

ルナとアクアは滝のように汗を流しており、レッスンの激しさが一目で伝わってくる。


「二人とも、戻ったわね。

悪いけど、これで休憩は終わり。

ラスト、通すわよ!」

ミーナの鋭い声に、全員が即座に立ち上がる。


「「「「「「はい!」」」」」」

六人の声が重なり、空気を震わせた。


ミーナが再生ボタンを叩いた瞬間、練習室の密度が一変する。

腕の角度、視線の高さ、重心の移動。

鏡に映る六人の影は、もはや個別の人間ではなく、一つの巨大な「氷の華」が脈動しているかのようだった。


ビオラは、ひそかにメンバーへ微弱な身体強化魔法を編み込んでいく。

まだ微かに残る彼女たちの不協和音を魔力で調整する。

そして 自身をリズムの核とし、全ての動きを一筋の糸で紡いでいく。


ダンスが進むにつれ、お互いの動きを合わせるのに、メンバーは視聴覚に頼らなくなった。

間と息遣い。

お互いの動きを視覚で追うのではなく、音を聞くのでもない。

ただ、隣にいる仲間の存在を肌で感じ、魂で繋がる。

そこには、人智を超えた大いなるシンクロが体現されていた。


「――お疲れ様。今日で、私の教えることは全て伝えたわ」

ミーナがデッキの音を止めた。

その顔には、いつもの鬼教師の厳しさは微塵もなかった。

教え子たちを戦場へと送り出す、一人の表現者としての誇りに満ちた表情だった。


練習室に沈黙が降りる。

全員が荒い呼吸を繰り返しながらも、その瞳にはやり遂げた者だけが持つ、澄んだ光が宿っていた。


ビオラはそっと胸をなでおろす。

ひそかに行使した身体強化の魔法――それは、確かにメンバー能力を補助するものだ。

しかし、今この瞬間に体現された完璧なシンクロナイズは、決して魔法だけの力ではない。

六人の心が、一つの「氷の華」として結実した結果だった。


「さあ、いつまでも浸ってないで。

フィッティングルームへ移動!」

ミーナの合図で、一同は疲労は覚えながらも、期待に胸を膨らませて移動した。


フィッティングルームの重い扉が開かれると、

その中心には、鍛え抜かれた美しい体躯を持つ衣装担当のセツナが仁王立ちしていた。


「ひいいっ!」

その圧倒的な存在感に、アウラが反射的に悲鳴を上げる。


セツナは眉をぴくりと動かしたが、次の瞬間、アウラの表情は驚喜へと塗り替えられた。

「わああ……っ!」


そこには、新調された六人分の衣装を着たマネキンが整然と並んでいた。

鏡張りの壁に反射する照明が、衣装を鋭く輝かせている。


深いロイヤルブルーのベルベット生地を基調とし、随所に氷の結晶を思わせるシルバーの装飾。

氷の華をイメージしたそれは、豪華なジャケットとふわりと広がるスカートのセットアップとなっていた。


「Ice Doll」という名の通り、冷徹なまでの美しさと、内側に秘めた情熱を象徴する、

まさに彼女たちの「戦装束」だった。


アウラの素直な反応に、まんざらでもなさそうな様子を見せたセツナだったが、

すぐに表情を引き締めて告げる。

「各自、自分の衣装を確認しなさい。一ミリの妥協も許さないわよ」


セツナの指示を受け、メンバーはマネキンに近づきそれぞれ衣装をみる。

「一曲目の『Glacies』は全員お揃いの衣装よ。

そして、外側を脱ぐごとに個性が露わになる仕組みになっているわ」


メンバーがマネキンからジャケットとスカートを外していく。

その下には、真っ白な雪を模した共通デザインのシャツが現れた。

早替えを想定し、着脱しやすいスナップボタン仕様になっている。


「二曲目の『Alba Neige』では、上はシャツで揃えつつ、ボトムスに個性を出したわ」


アウラは元気いっぱいのホットパンツ。

アイビスは、翼を模した軽やかなレースが幾重にも重なるキュロット。

ネージュは、シースルーのレイヤードを活かした、儚くも芯の強い七分パンツ。

ルナは、鋭い銀のラインが入ったカーゴパンツ。

アクアは、流水の刺繍が施されたアクティブなハーフパンツ。

そしてビオラは、濃淡の効いたブルーが気品を添えるスカパン。


「アウラ、ミーナさんの特訓を受けていて良かったねえ」

惜しげもなく脚を出す衣装を前に一瞬固まったアウラだったが、アイビスの言葉に即座に気を取り直した。

「はいっ、命拾いしました!」


セツナが軽く咳払いをして、話を続ける。

「アウラ、その体型を維持するのよ。

……そして最後、シャツを脱いで完成形になるわ」


全員がシャツを取り去ると、トップスの意匠が劇的に変化した。

カラーは青で統一されながらも、その造形は六人六様だ。


アウラは、自然体を強調するノースリーブ。

アイビスは、愛らしさが際立つパフスリーブ。

ネージュは、繊細な肩のラインを見せるチューブトップ。

ルナは、チェーンがスタッズされたネックが光るハードなTシャツ。

アクアは、洗練されたワンショルダー。

そしてビオラは、幾重にも重なるチュールが幻想的な高貴さを醸し出していた。


「やっぱりアウラ、絞っておいて良かったわね」

露出の増えたアウラの衣装を見て、ネージュがいたずらっぽく笑った。


「さあ、さっそく着てみて。修正が必要なら今すぐやるわよ」

セツナの合図とともに、一同は一斉に個々の試着室へ移動した。


着替えを終えて出てきたメンバーからは、次々に感嘆の声が上がる。


「……すごい。このベルベット、肌触りが最高だわ」

アクアがジャケットの感触に目を細める。

厚手の高級感ある生地でありながら、激しいダンスを想定して驚くほど軽量に仕立てられていた。


「スカートも全然動きの邪魔にならないね」

ルナが感心したように言うと、セツナは当然だと言わんばかりに鼻を鳴らした。


「というかさ……」

ネージュが呟くと、全員の視線が自然と一箇所に集まった。


「ビオラ、やば過ぎ」

アイビスも呆然としたように驚嘆する。


重厚なジャケットを纏い、広がるロングスカートを従えて佇むビオラは、

周囲を圧するほどの気高きオーラを放っていた。

彼女の佇まいが自然に滲み出て、かつてローゼンブルクに咲く孤高の華と謳われた、その姿を彷彿とさせた。


「同じ衣装のはずなのに……」

自分と見比べ、どこか納得がいかなそうなアウラ。


「まあ、まだアウラには早かったかな。

……あ、いやいや! アウラもよく似合っているよ!」

つい本音が出て、ルナが慌ててフォローを入れる。


「それにしても、ね……」

アクアが言葉を失い呟くと、セツナがその想いを引き取るように口を開いた。

「……文句なし。ビオラ、あなたはこの衣装のために生まれてきたみたいね」


「光栄ですわ」

ビオラが優雅に微笑み、その場でカーテシーを披露する。


「うおぉ……っ」

完成されたその所作に、ネージュが思わずのけぞった。


「もう、皆ふざけてないで、衣装替えをしてみてちょうだい」

セツナの声に促され、メンバーたちは一斉にジャケットとロングスカートを取り去った。


真っ白な初雪を思わせる共通のシャツに、それぞれの個性が宿るボトムス。

二曲目『Alba Neige』のための装いへと姿を変える。


アウラは、健康的な太腿を惜しげもなくさらけ出すホットパンツ姿だ。

「やっぱり、ちょっとスースーする……」

「アウラ、それはあんたのダンスのバネが一番綺麗に見える丈よ。自信を持ちなさい」

セツナの冷徹な指摘に、アウラは自分の脚をまじまじと見つめ、覚悟を決めたように拳を握った。


一方、ビオラのスカパン姿は、アクティブな丈でありながらも、

濃淡の効いたロイヤルブルーが絶妙な気品を添えていた。

「ビオラ、その短さでも『お転婆』にならないのが凄いわ。

……というか、脚の形が綺麗すぎて彫刻みたい」

アイビスが感嘆の声を漏らす。


「アイビスもよく似合っているよ」

ネージュが微笑むと、アイビスはキュロットのレースをふわりと広げて、その場でくるりと回った。

翼のような軽やかさが彼女の個性を引き立てる。


「ネージュも曲にピッタリね」

アクアの言葉に、ネージュが柔らかく頷く。

彼女が纏うのは、脚のラインを美しく拾いながらも、ふくらはぎで止まる絶妙な七分丈のパンツだ。

どこか儚げな彼女の雰囲気を、動きに合わせて翻る裾がより印象的に演出している。


「ルナはやっぱカッコいいな」

アイビスが目を輝かせる。

ルナは、銀のラインが鋭く走るカーゴパンツ姿だ。

リーダーとしての規律と、激しいステップにも動じない力強さが、そのシルエットに同居していた。


「アクアこそ、本当に着こなすよね」

ルナが視線を向ける先で、アクアが不敵に笑う。

アクアのボトムスは、力強いスタッズが施されたハーフパンツ。

都会的でスタイリッシュな彼女に、ハードな金属の輝きが驚くほど自然に馴染んでいた。


「さあ、最後よ。シャツを脱いで。

それが新生『Ice Doll』の真骨頂よ」


セツナの合図で、スナップボタンが外される音が連続して響く。

シャツを脱ぎ去り、三曲目『Volare Ibis』のための最終形態となった瞬間、

フィッティングルームの空気は最高潮に達した。


「……これよ。これが私が完成させたかった絵面だわ」

セツナが腕を組み、満足げに目を細める。


アウラのノースリーブは、彼女のエネルギーを。

アイビスのパフスリーブは、まるで羽ばたく翼のような軽やかさを。

ネージュのチューブトップは、儚げな色香を。

アクアのワンショルダーは、より洗練された美を。

ルナのチェーンスタッズネックは、グループを支える強固な「芯」を。

そして、ビオラのチュール。

幾重にも重なる青い薄衣が、彼女の動きに合わせて霧のように揺れる。

それは冷たい氷の世界に咲いた、一輪の幻想的な花だった。


「やっぱりアウラ、絞っておいて良かったわね」

再びネージュが、露出の増えたアウラのウエストラインを見ていたずらっぽく笑う。

「……はい! ミーナさんの地獄のトレーニングに感謝です!」

アウラが元気よく、しかしどこか必死な面持ちで答えると、室内にどっと笑い声が広がった。


「よし、完璧。修正なし」

セツナが力強く宣言する。

「あんたたち、本番でこの衣装を『ただの服』にするか、

『伝説の装束』にするかは、あんたたちのパフォーマンス次第よ」


「「「「「「はい!!」」」」」」

六人の決意に満ちた声が、鏡張りの部屋に響き渡った。

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