困惑
【この部屋は、二人では出られません】
もうすでに5回は頭の中で反芻している。
窓の外を見ると、少し薄暗くなっていた。俺も澪もあれから一言も喋っていない。物思いにふけっているわけではない。
ただただ、「わからない」だけだ。
何度、頬をつねったかは自分でも覚えていない。でも、何度頬をつねってもなぜか痛いのだ。
「水谷君…?」澪が口を開いた。
「どうかしましたか?」
「これ、やっぱり現実だよね」
澪の声が震えていた。
そうなんだよな。これは現実だ。信じたくなかったことを突き付けられる。目を背けたいのはきっと澪も同じだろう。
「二人では出られないってどういうことだと思う?」
「いや分からない…でも言葉の通りだと思いますけど…。」
「というか、閉じ込められてるんだよね。」
「そうなんですよね、そうですよね。」
周りを見渡す。
さっきまでは二人では出られないという表示にのみ気がとられていたが、反対側を見ると、生活ができそうなものが備えられていることに気づいた。
水道、ミニキッチン、トイレ、シャワールームまである。ここからでも見える。見える?なぜだ。
そして唯一の出入り口らしきものはドアノブはないし、完全に施錠されている。
「紺野さんって同じクラスですよね。たしか文化祭の実行委員やってたような。」
「うん、そうだよ。お化け屋敷の装飾、すごく上手で助かったぁ~」
「大したことしてないですよ。」
そうだ。澪はクラスで中心的な役回りをしていた。
俺は話しかけたことも、話しかけられたこともない気がする。
澪はいつも明るくクラスメイトに接していたなと思いだす。
かくいう俺は、クラスでもパッとしていなかった。どうしてこんな俺が澪と。
「というか、閉じ込められてるんだよね。」
「そうみたいですね。」
「なんでこうなったんだろう、悪戯かな?」
「悪戯にしては悪質ですって…。」
なにかのドッキリ番組に巻き込まれたかとも思った。でもどこを見ても隠しカメラらしきものは見当たらない。ふと窓の外を見ると、分厚い雲が空を覆っていた。もう暗くなっていた。
俺たちはこの無機質な空間に閉じ込められていて、どういうわけか二人では出られない。やっと状況が分かってきた。急に冷や汗が出てきた。
俺はこれからどうすればいいのか、そしてここから出られるのか。
澪の方を向くと、澪もこちらを向いていた。