表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

目覚め

無機質。この言葉がふと浮かんだ。


蛍光灯の青白い光が天井から降り注いでいる。窓は一つあった。昨日のニュースでは、今日には梅雨明けすると言っていたはずなのに、なぜかしとしとと雨が降っている。


俺――水谷佑都(みずたにゆうと)は、床に背中をつけたまま、しばらく起き上がれなかった。頭がぼんやりしている。眠っていたのか、気絶していたのか、それすらわからない。


「……どこ、だよ、ここ……」


つぶやいた声は、やけに響いた。


そのときだった。


「……え?」


もうひとつ、声が響いた。


女の声。誰だ?


顔を向けると、部屋の隅に、俺と同じように床に座り込んだ女がいた。


紺野澪(こんのみお)

クラスメイトだ。名前くらいは知っている。文化祭実行委員をやっていた気がする。でもたまにプリントを配ってるときに目が合った程度で、話した記憶はほとんどない。


そんな彼女が、俺と同じようにここにいた。


澪も目を見開き、俺を見ていた。


「……水谷、くん……?」


名前を呼ばれて、少し驚いた。俺のこと、覚えてたんだな。


「紺野さん?何が、どうなったか知ってます?」


「わかんない。目が覚めたら、ここにいて……」


澪の声が震えていた。両腕で自分の体を抱くようにしている。


「……ドア、ない…か。」


立ち上がって壁を探る。手のひらで表面をなぞっていくと、ようやく片隅に金属の扉のようなものが見つかった。取っ手はない。窓も覗き穴もない。ぴたりと閉じられている。


その上部には、モニターのようなものが埋め込まれていて、白い文字が表示されていた。


【この部屋は、二人では出られません】


「……は?」


澪が、息を呑んだ音が聞こえた。


俺も、一瞬、目を疑った。


文字は、動かない。止まったまま、ずっと表示されている。


そのとき、天井のスピーカーから、冷たい機械音のような声が流れてきた。


「現在、この部屋には二名が収容されています。収容されている人数が二名では扉は開きません。」


澪が、目を見開いたまま言葉を失っていた。


俺も同じだった。


収容されている?二名では出られない?


「……一人になれば、出られる……ってことか?」


言ってから、自分の声が冷たく響いた気がした。


澪が、小刻みに震えている。


「なにそれ……嘘だよね……冗談でしょ、こんなの……」


「冗談にしては、ずいぶん悪趣味じゃないですか?」


壁を叩いてみた。金属音が響くだけ。どこかにカメラがあるのか、監視されているような気配もある。


澪は立ち上がると、扉の前に駆け寄って拳で叩いた。


「誰か! 開けて! ここから出してよ! 誰かいるんでしょ!? ふざけないでよっ!!」


その叫びも、冷たい壁に吸い込まれていくだけだった。


俺たちは、閉じ込められていた。


わけもわからないまま、2人きりの密室に――

そして、目の前のモニターには、あまりにも無機質な言葉が浮かんでいる。


【この部屋は、二人では出られません】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ