見下ろすソラ、見えないソラ
浮上してきた影の正体はザリガニだった。
ザリガニって後ろ向きに泳ぐしか出来ないんじゃなかった? コイツ普通に頭から浮上してきたんだけど……
俺は落下しながらザリガニの頭目掛けて落ちている最中だ。
「ソラ!」
メリーがこちらを心配してか声をかけてくれたが、そのせいで、ザリガニの意識がメリーに向いてしまった。
ザリガニは、大きなハサミを鋭くメリー目掛けて突いているが、メリーは回転移動で避ける。
俺はザリガニの背に乗る形で落ちたが、そのまま顔の方へ向かう。
そんなにデカいハサミしか無いんじゃ、体の近くは攻撃のしようが無いだろ。このまま目を溶かしてやる。
顔が近づいてくると、ザリガニは俺の存在に気づいたらしい。ハサミを背の方へ向けたいのか、バンザイのようにハサミを持ち上げるが、そこで腕の動きは止まった。
「デカけりゃ強いってもんでも無いんだよ!」
俺は頭から目に向かって飛んだが、ザリガニの顔の周りにはシャボン玉みたいなのが、たくさんついていた。
「なんだ? 目がどこかわからない……目くらましか?」
シャボン玉に突っ込んで、そのまま突き抜けようとしたら、玉はザリガニから離れ、空に浮かんでいく。それに包まれた俺も玉を破壊できず、そのまま浮かんでしまった。
「なんだこれ、割れないぞ」
ザリガニは用は済んだとコチラからメリーに再び攻撃目標を変えていた。
ハサミは強そうだが、メリーのスピードにはついていけてない。
ペコリはどこ行った?
辺りを見回しても見当たらない。ペコリに限ってヤラれたとは思えないが――ザリガニの顔の近くがなんか少し歪んで見えた。
シャボン玉のせいか?
突然ザリガニの目の片方が消えた。
「なんだ!? 新手か?」
ザリガニの顔の辺りで、ペコリの姿がゆっくりと現れた。
どっ……どう言うことだ? 消えてた?
ザリガニも慌てているのか、口の周りが泡だらけで、先程のようにシャボン玉になる気配が無い。
俺も駆けつけたいが、未だにシャボン玉に包まれたまま浮かんでいる。これはどういう攻撃なのか、どうにかして、玉を割らないと――そう考えていると何かがこちらに向かって飛んでくる。
鳥がこちら目掛けて飛んできていた。羽を大きく広げ滑空している。俺の知ってる猛禽類って感じで、鋭そうな嘴に鋭い目、大きいが知ってるサイズ感だ。
鷲のようなその鳥は、こちらの玉に向かって爪を立ててくる。
「よし、割ってくれ!」
期待して見ている俺に向かってくる爪が、あり得ないサイズに伸びた。まるで死神の鎌のように両方の足から玉ごと俺を刈りとるつもりかもしれない、
これは少しヤバイと感じて、体を縮めて爪から逃れる。
「危ねぇ。知ってる鷲だとしても能力が異世界クオリティかよ」
シャボン玉は割れ、俺は落下が始まる。鷲はグルッと一回り飛んだあと再びこちらに向かってくる。
スライムはそんなに美味そうな姿はしてないと思うが……目がギラついている。どうしても俺を食べるつもりらしい。
鷲が再び俺を捉えようと爪をこちらに立てて近づいてくる。手を伸ばせば届く距離まで来た時、俺は身体を膨らませた。鷲も爪を伸ばしてきたが、そのまま鷲の身体を包み込む。
俺に包まれて羽ばたけなくなった鷲は、抗うことも出来ずに俺と共に落下する。俺は落ちながら鷲を溶かして万全の形でザリガニの上に落ちた。
ザリガニは痛みのせいか、視界を奪われたせいか、ハサミをひたすら振り回しているが、ペコリが大きく膨らんで、ザリガニの顔に食らいついていた。
「なっ……あいつデカくもなれるのかよ。俺だけの能力だと思ってたのに……」
ザリガニは、顔に張り付いたペコリにハサミを叩きつけるように殴るとペコリが吹き飛ばされた。
俺は背中にいるから攻撃こそされないが、背中からでは何も出来なかった。背中は包めないし、殴っても殻が硬くてダメージがあるように感じない。
「何か、何か倒す手段は無いか」
ペコリみたいに顔に張り付くのが一番だが、大きくてすぐにダメージを与えるのは難しい。
逃げるメリーも命中率が下がって余裕そうだが、攻撃する気配は無い。ペコリは遠くへ飛ばされて見当たらない。俺は背中で攻撃手段が無い。
どうするか悩みながら、背中の上で色々見て回る。ザリガニは嫌そうにハサミを振り上げているが、背中側にはハサミがまったく届かない。
「細っ!」
腕の付け根を見つける想像以上に細かった。よくあの重そうなハサミをこの細さで支えられるな。
背中の上から腕の付け根に降りると、そのまま付け根に取り付いて溶かし始めた。
ドンと地面を叩く音が聞こえると、ザリガニは飛び上がって、湖の中へ逃げた。おそらく腕から引き剥がそうと言うことだと思うが、水中に入るとグンッ、グンッとリズミカルに水圧が身体にのしかかって来る。
凄い速さで泳いでいる気がするが、周りが濁って見えないので、よくわからない。
腕から話されないように、必死にしがみつきながら、溶かしていると急に水圧が軽くなった。なんとか腕を1本外すことに成功したみたいだ。
その拍子にザリガニとは離れてしまったが、ドーンと鈍い音が響いた。ザリガニが何かしたのか?
魔力視で居場所はわかるが、何があったかまではわからない。水中での戦いは不利なので、陸を目指して逃げる。
陸に上がって、ザリガニの姿を探そうとするが、追いかけてくる気配が無い。
えっ? 終わり?
「ソラ! 無事で良かった。アイツは?」
「ソラ! 僕もアイツ食べたいのに全部食べたの?」
いや温度差……
「あぁ、よくわからん。腕1本は切り離したけど、本体は暴れてどっか行っちまった」
メリーは苦笑い、ペコリは喜んでる。どちらにせよ湖の中をなんとかしないといけない時点で、アイツと再開する可能性は高そうだけど……
「生きてるにしろ、死んでるにしろ、湖の中を調査するしかない。じゃないとフォスティ達の住処にも影響あるかもしれないしな」
「それはそうなんだけど、何も調べるの? ただ潜っても意味ないでしょ?」
いや、俺を見るなよ。
俺だって分かんねーよ。
「なんか変わったものとか探すしかない……かな」
勢いで来たものの正直諦めて帰りたい。なんでこんなことすることになっちゃったのか……
「探すって言っても潜ったら暗くてほとんど見えないよ?」
確かに!
「壁沿いと底だけでも漁るか……あの緑の草を一掃するか……」
そう言うとメリーが苦々しい顔をしていた。まぁ俺も草を食い尽くすのは遠慮したい。美味くないからな。
「まぁそのうち美味しくなるかもしれないよ?」
ペコリさん……メンタル強っ。
「じゃあ食べながら見える範囲で頑張るか……」
正直ほぼ手探りで探すだけでも、何日も掛かりそうなんだが……
戦闘の緊張感も無くなったが、やる気も無くなってしまった。
進まない足をゆっくり進めて湖に飛び込む。
まずはさっきの鈍い音の正体を確かめたい。俺はさっきのザリガニが泳いでいったであろう方向へ進む。
改めて見ると水の中の汚れは、黒っぽい藻がほとんどのようだ。食べながら進むが本当に不味い。
沈むにつれて少しつづ暗くなっていく。
ここら辺りだと思うんだが、何か痕跡が無いのか? 多分壁にぶつかった音だと思うんだけどなー
《キミ、スライム? やっぱり落ちちゃったの?》
突然、念話が聞こえた。
《どこに居る? 俺が見えてるの?》
やっぱり落ちたってどういうことだろう?
辺りを見回すが、それらしいのは見えない。そもそもスライム自体が水の中では見つけにくいんだが……
《ここ、ここ、目の前の穴の中だよ》
会話しながらもゆっくり沈んでいた俺の目の前には、デカい穴が空いていた。水が湧いてるのか、周りの藻のようなものがくるくると舞っている。
《穴の中に居るようには見えないんだが……》
《ふふっ、ちゃんと居るのになー》
穴の中がたまに光るというか、シャボン玉の表面みたいな虹色のようなきらめきがあるというか……
ゴボボボッ。
じっと眺めてたら突然、目の前の水が溢れたかのような水圧で押し出される。
《なんっ……《やっぱりキミ、スライムだね。上に連れて行ってあげる》
凄い勢いで浮上していくが、スライムらしいものが見えず、俺は頭の中が?で埋め尽くされていた。




