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やわらかい侵略  作者: 新 絆
森の世界

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38/39

解決したくない

 フォスティが湖に飛び込むと、困惑しつつも仲間たちが一人、また一人と後を追った。


 俺達はメリーと無事を喜びながらお互いの状況を話し合った。


 メリーの方は、何度か襲われそうになったけど、回転したことで、相手が逃げたらしい。確かに一度離れれば、フォスティも“見つけられない”と言っていた気がする。

 

 一度底までついたメリーは、なんとか水面に出ようと考えた結果、壁を登ってきたそうだ。俺の粘着液は、水の中では散ってしまう。

 

 メリーはどうやら粘着液をなんか変化させて水の中でも使えるようにしたようだ。

 

 俺も覚えたい――あとで、練習しよう。


 ザバッ


 フォスティ達が湖から上がってくると、陸に先に上がった2人が、遺体を引き上げるのを手伝う形で陸へ上げた。運ばれてきた遺体は3体。


 遺体は全て少し腐敗して膨らんでいるように見えるし、足が何かに擦ったような感じでボロボロだった。


 間違いなくスライム相手では無いな。


「すまなかった。この姿を見ればお前達では無いというのは明らかだな」


 フォスティも俺と同じように考えたみたいだ。

 

「フォスティ達は何故、俺達が襲撃者だと思ったんだ?」


「最近の話なんだが、仲間に行方不明者が出ている。この3人は、4日前に捜索隊を志願した3人だ」

 

「湖の中にいるとは……」


 後ろに控えている川蜥蜴(スピュタリル)族の一人がつぶやいた。

 フォスティが引き継ぐように続けた。

 

「そうだな……俺達は、外で何かに襲われたと考えて警戒していた。そこに現れたのが、スライムと蜂だった」


 チラリッとペコリの方を見る。


「騒ぎで犯人が逃げるのを嫌った俺は、スライムがヤラれたのを見てから蜂を槍で射抜いた。そして辺りの警戒に戻ったんだ。まさかあんなに小さくなってからでも生きてるとは、思わなかったが――見捨ててすまなかった」


「んー? でも助かったよ。蜂も美味しかったし、なんの問題もないよね?」


 謝る意味がないと言わんばかりにニコニコ答えるペコリ。

 

 お前は凄い奴だな。

 吸われた時は、なかなかな恐怖感があったと思うんだが、本当に何事も無かったように。


 ……まさか本当に忘れたとかないよね?


「警戒していた理由はわかったよ。この感じだと敵は湖の中にいるみたいだけど、遺体はどう弔うの?」


 俺が今後どうするのか尋ねるとフォスティは困っているように顔をしかめた。


「どうかしたのかしら? 水の中の生物は水葬するのが普通と聞きましたけど」


 今まで静かにしていたフィリアが、ペコリの上から教えてくれた。そういえば、ペコリも頭に椅子、みたいなの作ってる。俺だけの技だと思ってたのに……


「あぁ……そのとおりだ。水に清めてもらうのが習わしだ。彼らの場合は、仲間を助けるために死んだから儀式をせねばならないが、いま族長を巣から連れ出すわけに行かない」


「あの……」


 メリーが、声を出すと皆がビクッとした。


「湖に大きい魚がいたんだけど、それは敵とは関係無い? 今までの話を聞いた感じだと元々湖の中に脅威はなかったってことでしょ。 それにしては随分と大きい魚がいたんだけど、襲われないのかな?」


 メリーが話し終わると、フォスティは何かを気づいたように呆けた顔を引き締めた。


 メリーの話では、湖の壁をどうにか登ろうとしている時にそのデカい魚は現れたらしい。暗かったのもあるため、ハッキリとは見えないが、大きな口と何か紐みたいなもので地面に何かしていたのを見たそうだ。


「静かにしてたら底の土を撒き散らして、どっかに行ったんだけど、フォスティ達でも飲み込まれそうな口だった」


 また……デカいのかよ。どうやって戦うよ。


「そんな魚は見たことも無い。そいつが仲間を……」


 フォスティは拳を握るとブルブルと震えていた。


「フォスティ様、差しで口で申し訳ありませんが、判断が早すぎるのではありませんか? 仮に敵だとしてもまずは、状況を判断することが先決かと」


 フィリアが静かに声をかけていた。

 確かに倒すかどうかは、もう少し考えたほうがいいよな。

 俺も少し好戦的になっていたことに気づいた。


「フィリアの言うとおりだな。会話が出来るかどうかはわからないが、まずは相手を見に行こう。メリーと二人で行ってくるよ」


「何故だ! 俺達の問題だ。俺達が行く! ソラ達はここで待ってるがよい」


「いや、君たち水の中で会話出来ないんだよね? まだ何もわからないのに、戦うことになっても困るでしょ?」


 フォスティが、悔しそうに唸る。


「ハンベエ、ペコリ、フィリアは、蜂がまだいるかもしれないから気をつけてくれよ」


 俺はメリーをチラッと見て湖に飛び込む。

 

 あとから飛び込む音が聞こえた。

 

 《ソラ、魚は本当に底の方だよ》

 《わかった》


 二人で後ろを泡立てながら底を目指す。

 

 湖の底が見えてきた。辺りに何かがいるようには見えないが、魔力視では確かに大きな何かがいるのがわかる。


 デカイな……また飲み込まれて倒さなきゃいけないんだろうか――いかん、また好戦的になってる。別に戦いたい訳じゃないんだ。


 意思疎通出来るんだろうか?


《そこのお魚さん、聞こえますか?》


 ……


 まったく反応が無い。

 近づいてみる。


《もしも〜し?》


《俺の住処はここじゃない……早く戻りたいんだ》


 なんか聞こえた。

 おぉぉ……


 突然泥の中から大きく開けられた口が飛び出してきた。口の周りに触手みたいなものが見える。


 まだ少し距離があると思っていたが、周りの水ごと吸い込まれる。

 

「くっ……食われる」


 慌てて逃げようとするが、吸い込む勢いが強い。

 

《ソラ!》


 俺は咄嗟にデカくなってなんとか口に収まらないサイズで引っかかった。

 

「危ねぇ」


 食われなかったのは良かったがサイズ的にギリギリの状態で、このままだとそのうち吸い込まれそうだ。口の中を見ると刺々したまるで針の絨毯のような短い歯が見える。


「これ、あの足の怪我の原因では……」


《ん? 口に入ってこないな〜》


 吸う勢いが強くなると引っかかってた部分が外れ、吸い込まれたが、体が何かに引っ張られているせいで、口の中でグルグルと糸の切れた凧のように体が暴れる。


《ソラッ……縮んでぇぇ》


 後ろを見るとメリーが俺を引っ張っていた。俺は慌てて体を小さくするが、メリーは支えるので精一杯のようで、体が太いホースのように伸びてしまっている。


 俺も再び水の力で泳ごうとするが、まったく進まない。水の勢いが吸い込む力に勝てないようだ。


 そんな些細な抵抗も虚しく、口が閉じていくと水流がさらにキツくなった。俺とメリーは離なれなかったが、なんの抵抗も出来ない。


 あっ……


 逃れるのに必死で口が閉じ始めている事に気づかなかった。今度こそ死ぬのか……


 パクッ


 あれ?

 意外と隙間が空いてたおかげでなんともない。ただ自分の体は一体どんな形状になってるかはわからないが。なんだろうか。


 おおぉ、吸い込むのが止まってる間に、メリーが引っ張ってくれてる。なんか体が、歯の間をニュルニュルと滑る感覚が斬新だ。


《もぉ、ソラはもうすこ〜し、慎重になったほうがいいよ》


 助けられたら速攻でお説教された。結構な危機だった筈なのに、メリーの方が怖いかもしれない。


《気をつけるよ。助かった》


《あれっ? いなくなった……》


 髭が動いたと思ったら、口を上に向けて開けてきた。

 口の上にくっついてるのに気づかれた。ようだ


《残念だが、流石に口の上についた俺達を喰うのは無理だと思うぞ。いい加減話を聞け。お前はどこから来た?》


 喋るとはいえ、ただのナマズの表情は読めないが、何かを考えてるんだろうか?


《俺は、住んでた湖がなんか変になったから泳いできた》


《……変になった? 水が無くなったとかか?》


《違う……なんか水が変わった感じだ》


《毒か……? とにかく環境変化したってことなら原因を特定すれば改善するかもしれない》


《本当か? 俺は戻りたい……ここは水が綺麗……》


《そうか。じゃあ戻せるか調べてやるから、川蜥蜴(スピュタリル)族を喰うのを止めてくれ。彼らの依頼で俺達はここに来たんだからな》


 《……無理だ。スピュ……タリル族? わからん。 それに食べれるものは、食べるものだ》


 なんてことだ。とりあえず戻ろう。

 

 《とりあえずわかったよ。もう一度来たらお前の住処に帰る道を教えてくれるか?》


 《無理だ……どこから来たかわからん。ここは餌も少ない。元の住処に戻るまでは、とにかく喰えるものは、少しでも喰うしかない》


 ……腹ぺこってことか?

 じゃあ食い物用意してやるって事じゃ、たぶん解決しないよな。

 

 はぁ……でも解決しないとフォスティ達が困るからな……


 まずは何処からか他の湖に行ける道を探す必要がある。その先に何があるのかも気をつけなければいけないだろう。

 

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