湖、知らないの?
湖、知らないの?
地上について、俺はペコリを見る。
ソワソワして、視線も合わせない。
随分気まずそうだ。
珍しいが、でもここで甘やかすわけにもいかない。
「ペコリどういうことだ? どこに行ってた?」
俺はペコリを睨みつける。
「えっーと、みんなで移動してたじゃない? その時に美味しそうなのがいたからちょっと追いかけたんだよね」
へへっと笑っているペコリを見ながら、やっぱり飯かよ……
「で?」
「そんな怒んないでよ。追いかけたらなんか凄い早いのか急に消えてさー、見えなくても追ったんだけど、気づいたらなんかデカい水たまりのとこに出たんだよ」
デカい水たまり――って湖じゃないの?
いや、異世界ならではの、デカい水たまりってのがあるのかな。
でもそれよりまだ蜂出てこないじゃん。
追いかけたのが、蜂なのか?
「それから?」
「ソラ、怖いよ。水たまりに出たらね、近くの木に不思議な何かがついてたんだよ」
怖い? そりゃそうだろ。
もう少し早くペコリが逃げてきてたら儀式が台無しになったかもしれないんだぞ!
「何かってなんだよ?」
「わかんないよ。でもそこからさっきの蜂が出てきたんだよ。それで、食べようと思ったら刺されちゃって……」
お前……
「刺されて、慌てて逃げてきたってことか?」
ペコリは、首を振る。
「あいつらの槍に刺されると、なんか体の中から何かが凄い吸われていくんだ。そうすると力が抜けてきて、身動き取れなくなっちゃうんだ。自分の何かが減っていくのに動けなくなるんだ……」
「……しかも目の前に美味しいそうなのがいるのに、食べれない」
食べれないでガッカリするのはやめてくれ。
今はそういう空気じゃないだろ……
「…食べられないってわかった時は、正直ショックだったよ」
……まだ言うか。
「よくそれで逃げられたな」
「なにかが一瞬横切ったのは分かったの。気づいたら蜂は死んだみたいで、なんか棒みたいなのが刺さってた。そのおかげで僕は槍から逃げれたんだけどね。だから美味しく頂いたんだけどね」
最後の『だから』の意味が分からん。
しかも喰う余裕はあったんかよ。
その余裕は何なんだよ。もう少し慌てなさいよ。
「で? それで帰ってくれば、問題なかったんじゃないのか?」
「いやー、蜂を食べ終わったら、木についてる変なのから蜂がたくさん出てきちゃって……一応撒いたつもりだったんだけどね」
木に蜂の巣があったのか……そして逃げ切ったつもりが、3匹だけ追跡されたと。
そもそも助けてくれた人は誰だったの?
「ソラ様、お話し中すみません。私ご挨拶したいのですが」
おっと、そうだった。
ペコリには、ちゃんと紹介しないと後が怖い。
「ペコリ、こちらが儀式に参加された王女フィリア様だ。無事儀式を終えられ、女王となったんだが、これから俺達と一緒に行動することになった」
「フィリアが一緒に来るの? フィリアは、何食べるの?」
おぉ、ペコリがちゃんと会話してる。
感動だが、コイツ本当にペコリか?
二人の会話が落ち着いたのを見計らって、拾った枝で刺してみる。
ジュウ……
普通なんか反応するだろ。これはペコリだな。
「よし、じゃあ次はペコリの言う水たまりに行くぞ」
「えっ、蜂がまだ居るんじゃないの? 大丈夫なの?」
メリーが慌てて引き止めてくるが、俺は止まる気はない。
「ペコリ!」
「ハイ!」
おぉ、まともな返事。本当に誰だよ。
「お前助けてくれた奴に礼はしたのか?」
「んー、誰かわかんなかったからしてないや」
「というわけで、ペコリを助けてくれた奴にお礼を言いに行く」
「はぁー、わかったよ。仕方ないね」
メリーは、ペコリを呆れた目線を送りながら同意してくれた。
「メリー、モンダイない。オレがマモる」
ハンベエの言葉にメリーも、ご機嫌が治ったみたいだ。
ペコリを先頭に俺達は、水たまりを目指した。
最後尾ではハンベエに警戒を頼んだ。
フィリア様は、俺の上に乗って一緒に移動している。
フィリア様は、ずっと「キャハハ」と楽しそうだが、声はまずいので、抑えるように頼んだ。
口を抑えているのか時折くぐもった笑い声が聞こえる。
先の方で森が途切れるのが見える。
《ペコリ、止まれ》
俺はグループ念話を使い、みんなで一度集まる。
「ペコリ、あの辺りが蜂がいた所か?」
ペコリが了承するのを見て、俺は確認する。
「蜂がまだ居るはずだ。まずはそっちを倒すべきか、それとも避けて恩人を探すべきか、どうする?」
「蜂を倒しに来たんじゃないんだよね? なら助けてくれた人を探すだけで良いんじゃない?」
まぁ蜂に気づかれずに済むならそれでもいい。
「あの蜂美味しいぞ?」
うん、ペコリ戻ってきたな。
今は美味いかどうかはどうでもいい。
「オレは、ソラに、シタガウ」
なるほど、まぁハンベエは蜂には襲われないだろうしな。
「メリー、ひとつ確認したいことがあるんだが、俺達が湖で助けてくれた人を探すとして、問題起きないと思うか?」
俺は話しながらペコリをチラッと見る。
「あぁ……」
メリーは納得してくれたようだ。
「じゃあ戦うとして、何か案がある人?」
……
いない。
まぁ仕方ないな。
正直俺もわからない。
「ソラ様差し出がましいとは思いますが、目的を忘れては本末転倒かと」
フィリア様は気を使って黙ってくれてたのか。
「フィリア様、俺達は一緒に旅をする仲間です。変な気遣いはせず、思ったことはすぐ発言してください」
「それと今後は、敬称もやめてください」
「ふふっ、ではソラも敬称はおかしいわよ」
……確かに。
「そうだな。フィリアの忠告は受け取ったよ」
フィリアも俺も思わず吹き出した。
「別に普通に勝ったんだから、気にせず食べるのはダメなの?」
ペコリはブレないが一理ある。
そして空気も読まない。
そもそも普通の蜂よりデカイのに、群れてない可能性もあるのでは?
「なぁ、皆って泳げる? この先に湖があるなら最悪でも泳いで逃げれば良くない?」
俺はこれは完璧な案だろうと思ったんだが……
皆顔に?が浮かんでいる。
「ソラ、泳ぐって何? 全員初めて湖見るのに、湖に関することわかるわけないんだけど?」
しまった。
またメリーさんのオマエだけ何故知ってる?というお怒りが溜まってしまった。
「こほんっ、泳ぐってのは水の中を進めるか?って意味だ。別に湖じゃなくて川でもわかるだろ?」
メリーさんの視線が冷たい。
「ソラ、オレは、泳ゲナイ」
「私は水に入ったことが無いわ」
なるほど……
「じゃあハンベエは、俺と湖に飛び込もう。俺がなんとかしてやる。フィリアは俺が包んで溺れないようにするから大丈夫。メリーとペコリは、とりあえず飛び込んで泳いでみてくれ」
まぁスライムは呼吸してないし、沈んでも死なないだろう。
「わかったよ」
ペコリはキョロキョロしていて、返事をする気が無いようだけど、まぁ……また食い物のことでいっぱいだろうから放って置こう。
「じゃあ蜂が大量に来たら逃げる――だが、まずはペコリの恩人を探すとしよう」
「大量って、少なかったら戦うの……?」
メリーは戦いを避けたそうに少し声が小さかった。
「そうだな、三匹くらいなら先の戦いと同じだし戦おう。避けることばかり考えて、俺達がやられるわけにはいかない」
俺達は方向性を決めて森から出た。
そこには確かに湖があった。
とても綺麗な水が溜まっていた。
出てきたのは良いが、蜂に気を取られ過ぎて恩人の情報がゼロじゃないか?
「ペコリ、助けてくれたのはどんな形だったとか覚えてないのか?」
「うん、覚えてないって言うより、見てないよ」
……
見てない――それは、見つけようがないのでは?
まぁとりあえず探そう。
コミュニケーションが取れればわかるだろう。
湖の中にいる生物とかだったりするかな?
水辺は生き物が多いんじゃないの?
凄い静かな所だな。ここだけ日が射して景色がキラキラしてる。
メリーも湖に感動してるのか、呆然としてるみたいだ。
鳥の声も聞こえてくるが、メリーは反応しない。
ペコリは言わずもがなだけど、鳥の行方を追っている。ハンベエは、メリーの近くで周りを警戒してくれているようだ。
「ソラ、湖とはこんな大きな水溜りなんですね。とても綺麗です」
湖の水面が不自然に揺れた。
俺は何か居るのか?と水面を覗きこんだ。




