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やわらかい侵略  作者: 新 絆
森の世界

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結婚飛行

結婚飛行

 儀式の朝が訪れた。

「レギーナ様、それでは失礼します」

「えぇ、フィリアに宜しくね」


 レギーナ様は、どこか少し悲しそうに見えた。

「ソラ、見送るのに暗いのは良くないよ」

「そうだな。メリー。俺達に出来るのは、フィリア様の旅立ちを見届けることだけだな。レギーナ様、お元気で」


「えぇ、また会いに来てね」

 レギーナは、女王は流石に拠点から離れられないらしい。本当は、拠点の外に出てくるのも駄目だと護衛隊長が零してた。何故かソラ殿は命の恩人だから許しましたけどね!って怒られたんだが……解せぬ。

 

 これからフィリアが守ってた拠点に行く。防衛蟻の拠点は、ダイヤ型の頂点に拠点があるんだそうだ。気づかなかったけど、今はその中心にいるらしい。いつ外側の拠点を抜いたんだろうか……とりあえず、フィリアは頂点に当たる所らしい。


「ソラ、こっちだよ」

 俺は方向オンチみたいだから、メリーが先導してくれる。

「あぁ、わかった」


 しばらく進んで、防衛蟻の拠点が見えてきた。

 前に見た時は、すげぇって思ったけど、レギーナの拠点を見た後だと、少しゴツゴツしてて無骨な飾り気のない砦だな。


「ここから王女達が飛び立つのか」

「そうだね。蟻さん達の生きていける範囲を広めるために皆頑張るんだね」

 

「あぁ……」

 

 そうだな……それが種の役目なんだろうな。

 人間の感覚が残ると弱肉強食の世界はやっぱ厳しいな。


「ソラ?」

 メリーが心配そうに顔を覗き込んできた。

「大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」


 近づくに連れて視界に入っていた護衛蟻たちが警戒し始める。警戒が遅い気がするが、内側から来たせいかもしれないな。

 

 声をかけるにしても、触れないと念話が……

「ソラ様ー!」


 あぁ既視感が……

《フィリア様お久しぶりですね。今日が儀式と聞いていたのに、出てきて大丈夫なのですか?》


 久しぶりにみたフィリアは、ニッコニコだ。

「もちろんです。何の問題もありません。夕方まで寝てるだけなのが、基本ですからね!」


 ん? レギーナ様の話から考えると寝るのは、体力温存なのでは? 少しでも遠くへ飛ぶための本能だと思うんだけど……

 

 ……本能じゃないの?

 

《そうですか。でも疲れ無いように拠点でゆっくりしましょう。ただ仲間だけ先に紹介させて下さい》

 フィリア様は眉間に皺を寄せて「わかりました」と小さく答えた。

 

 でも表情に戸惑いが見える。

 ……わかってないよね?

 

《こちらがメリー。色んな事に気がつく大事な相棒です》

 

 メリーの方を見ると目が見開いて固まってる。

 どうした? 王女に物怖じしたのか? 昨日女王に会ってるぞ?

《……メリーです。相棒です。》

 うん、よく分かんないけど、問題なかったで良いのかな。


《こっちのゴブリンは、ハンベエです。王女との会話は難しいかもしれませんが、きっちり仕事をこなす頼れる男です》


 あれっ……ペコリがいない。

「ハンベエ、ペコリいないんだけど知らない?」

「タビダツ、トキ、イタ」

「メリーは知らない?」

「僕も出る時は一緒だったことしか覚えてない」

 

「そうか……心配だけど流石に襲われてたら気づくよな?――とりあえず周辺を探して、見つからないなら様子を見るとしよう」


 ハンベエの強い眼差しと目が合った。

「ソラ、ココニ、オレ、サガス」

「わかった」

 ハンベエは、エコロケーションを使いながら、走り去った。


「僕も見てくるよ。多分、ご飯を追い求めてどこかに行ってるだけだと思うけど」 

「はははっ、俺もそう思うけどね。でも……一応ね」

 メリーと俺は二人で苦笑いだ。

 

「じゃあ行ってくるね」

「あぁ」

 メリーも凄い勢いで転がっていった。


「ソラ様どうされたのですか? いま話されてるのは、ゴブリンの言葉ですか?」

 《すみません。念話じゃないと通じないですよね。いま話してるのは、日本語っていう言葉で、ゴブリンと話せるようにお互いに覚えたんです》


「そんなことが……ソラ様は、本当に凄いですね。ゴブリンと会話するスライムなんて聞いたことありませんよ」


 フィリア様、体が揉むの止めてください。痛くないけど、怖いよ……圧が――震えてる?


 フィリア様がこちらを見て慌てて体を離す。

「ソラ様は、スライムとは思えないですね。神様みたいです」

 フィリア様は、手を抑えながら震える声だった。

 《フィリア様……》

 励まそうと思ったが、何を言えばいいんだろうか。


「ソラ様が見守ってくれてるなら、きっと大丈夫ですよね。今日は、安心して飛べます」

 フィリア様の目には涙が溢れてる。

 それでも笑顔だ。

 

 《……そうですね。何の問題も起きません。今日は、フィリア様が女王になるめでたい日ですよ》 

「ふふっ、そうですよね。夕方まで休もうと思います。私の晴れ姿を見ててくださいね」

《もちろんです》

 フィリア様は、頭を下げて拠点へ戻った。

 

 王女も心配。ペコリも心配。今日は気持ちが落ち着かない一日だな。式までにメリー達は戻れるだろうか……


 俺も居ないと思いつつ、周辺を見回り戻ったが、まだ儀式は始まってないみたいだな。


 そろそろ夕方って言ってもいい時間帯な気がするが、いつ頃始まるのだろうか。

 

 少しすると、拠点の周りが騒がしくなってきた。

 

 ふと拠点の方を見ると、ガラガラと音がしている。土煙りもわずかに上がっているのが見えた。

拠点の砦が壊れてる!? まさかな……。

 

 護衛兵も拠点から出てきて、拠点の周りを囲い始めてる。


 そろそろ始まるのだろうか。そもそも飛び立つってどっちに飛ぶんだろう。女王によると蟻喰い鳥が集まってくるのが一番の脅威って言ってたけど……



 少し空気がピリピリしてきた気がする。さっきから、蟻がたまに飛んでは戻ってくる。偵察か何かだろうか?


 何回か蟻の飛びたっては、帰ってくる姿を眺めていたら、沢山の蟻が拠点から飛びたった。黒い幽霊みたいだなー

 蟻たちがある程度の高さまで飛び立つと、あとから小さい影が飛び立った。


 フィリア様はあの中にいるのか?

 周りにまだ鳥は居ないようだけど。


 先に飛んだ幽霊が、出迎えるように小さい塊に向かっていく。二つが一つになって、何をしてるんだろうか。

 

 俺は自然と近づいていった。

「ソラ殿、これ以上は近づきませぬように!」

 空を見ているうちにいつの間にか拠点の目の前まで来ていたみたいだ。護衛蟻の声にはっとした。


 蟻たちが徐々に地面に降り立っている。

 あれっ?遠くへ旅立つって話じゃなかったっけ?


 あっ、鳥が集まってきてる。

 

 このままだと蟻たちが襲われちゃう。

 でも儀式の邪魔はできない――これで良いのか。蟻たちにとって大事な儀式なんだ、それはわかってる。でも何かできる事は無いのか……


 鳥といえば光を嫌がるイメージだ嫌がらせ出来ないだろうか。しかし、こんな森の中に懐中電灯があるわけでもない。ガラスも無い、他に光るもの――氷で光の反射とか出来るだろうか?


 俺は、体内を冷やすイメージで氷を作ろうとするが、凍らない。何故だ、急いでるのに、クソッ!


 落ち着こう。今まで体内の液体は、結構自由に変化してた――あっ、まず体内を水に変えるんだ。そこから冷やす。


 おっ、何か出来てる。これで陽の光を反射!

 ……してるか?わからん。どこかに光が当たらないと。俺は周りを見回したら幹に薄っすら光が当たってた。


 弱っ!

 俺がもたもたしてるうちに、鳥が蟻達を襲い始めた。蟻達はどうするんだ。護衛達が守るのか?心配してると鳥が蟻たちに向かっていく。


 急がなきゃ、今のままじゃ光が弱い。俺の体内の氷をもっとなんとか出来ないだろうか……他の案が無い以上、これに縋るしかない。


 確か氷って水の不純物が無いほど綺麗な氷になるんだよな? もう何でも試すしかない。水から余分なものを出すイメージで……あっ、ちょっと体から何か出た。失敗。

 薄い氷になる時に、H2Oだけ固まるように、お願いします!

 

 いっぱい作ろう。

 出来ろ!出来ろ!

  

 俺は必死に念じながら空を見上げる。

 明らかに蟻たちは食い荒らされ始めてるが、護衛達は拠点に近づく鳥にしか攻撃をしていない。鳥たちも攻撃されたらすぐに諦めて、また儀式の蟻達を襲いに戻ってしまう。


 上手く製氷されたかわからないけど、氷を体内で、動かして、鳥に嫌がらせをする。


 あっ、結構光ってる。

 鳥の体に光が当たると、さっきとは全然違う強い光が反射していた。とにかく鳥達の顔だ。


 ほれっ、逃げろ! 光が当たるぞ。

 効果があったようで、鳥達がバサバサと羽ばたきを強めて上空へ上がっていく。


 流石にじゃあ撤退と言う程の効果は無かったか……


 気づけば、地上へ降りてくる蟻たちも疎らになり、遠くへ飛びたってる蟻たちも出てきた。


 無事とはいかないが、被害が少しでも減らせて良かった。でも遠くへ飛び立つ蟻ってフィリアだけじゃなかったんだ……


 よく考えたら当たり前だよな。女王候補が1匹で、喰われたらどうするんだって話だ。


 ペコリのことも気になる。アイツは無事だと思うけど――戻ってきたら、まず説教だな。

 

 ん? 何かこっちに向かって飛んで来る奴が居るな。


 ……防衛蟻じゃない何かってことか? 

 

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